勃興ぼっこう)” の例文
時は、洋行帰りの新人や、学者たちの間に、丁度演劇改良熱の勃興ぼっこうしつつあったおりで、勘弥はその機運をいちはやくもつかんだのだ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
和歌に代りて起りたる俳句幾分の和歌臭味を加えて元禄時代に勃興ぼっこうしたるも、支麦しばく以後ようやく腐敗してまたすくうに道なからんとす。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
誇りとすべきことは必ずしも人種の純粋なる点ではない。また国家の勃興ぼっこうし隆盛となるは人種や血の単一なるによるとも思われぬ。
民族優勢説の危険 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やはり上代じょうだいからぎ出して、順次に根気よく人文発展のながれを下って来ないと、この突如たる勃興ぼっこうの真髄が納得なっとく出来ないという意味から
あらゆるものが次から次へと勃興ぼっこうした事は、一つには退屈と衰亡に際する一種の死の苦悶くもんから湧き上った処の大革命であったに違いない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
殊に、町人芸術の勃興ぼっこうした徳川期の文化文政以後からその瓦解がかい時代にはいって刹那せつな的享楽気分が迎えられて、よけいに著しい。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四五年来の女子教育の勃興ぼっこう、女子大学の設立、庇髪ひさしがみ海老茶袴えびちゃばかま、男と並んで歩くのをはにかむようなものは一人も無くなった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
平安末期から鎌倉時代へかけては、太子讃仰の念の勃興ぼっこうした時代であるが、この頃の人の信心をうかがうと、実に「愚」で熱烈で真直ぐだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その一は司馬江漢しばこうかんが西洋遠近法の応用、その二には仏国印象派勃興ぼっこうとの関係につきて最も注意すべき興味ある制作なりとす。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて皆さん、今も申した通り全国各地に食道楽会が勃興ぼっこうして食物問題の研究がさかんになれば我邦わがくにの人は将来何ほどの利益をけるか知れません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
遠く西紀前八世紀に遡って、すでにアッシリア帝国の急激な勃興ぼっこうがあり、ついでダリウス帝のペルシャ帝国の建設がある。
映画『人類の歴史』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
当時近代音楽の勃興ぼっこう時代で、真物ほんもの偽物にせものも、ひたむきに新奇をうてやまなかった時、ブラームスは雄大、厳重、素朴、敬虔けいけんな古典精神にかえ
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
衰余の国民が文明国の干渉によって勃興ぼっこうした例は少ないが、今は商業も著しく発達し、利益と人道とが手を取って行く世の中となって来たから
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以上は新型式の勃興ぼっこう惰眠だみんをさまされた懶翁らんおうのいまださめ切らぬ目をこすりながらの感想を直写したままである。あえて読者の叱正しっせいを祈る次第である。
俳句の型式とその進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おまけに僕は間もなく勃興ぼっこうした赤軍の強制募集に引っかかって無理やりに鉄砲を担がせられることになったのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
七世紀の半ばといへば、近東に勃興ぼっこうしたサラセンの激浪が、しきりに東ローマ帝国の岸べを洗つてゐた頃である。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
色は物象の面と空間とを埋めるために、面は物象の量と積とを表わすためにのみ用いられた。そして印象派の勃興ぼっこうはこの固定概念にかすかなゆるぎを与えた。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
植物の研究が進むと、ために人間社会を幸福にみちびき人生を厚くする。植物を資源とする工業の勃興ぼっこうは国のとみやし、したがって国民の生活をゆたかにする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
人は上下にかれ貧富に隔てられた。のろいを以て語られる資本制度は、その帰結であった。事実が示す如く、工藝美の衰頽すいたいと資本制度の勃興ぼっこうとは平行する。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
京伝や馬琴の流を汲んだ戯作者の残党が幇間ほうかん芸人と伍して僅かに余喘よぜんを保っていたのだから、偶々たまたま文学勃興ぼっこうの機運が熟してもかれらはその運動に与かる力がなくて
朝廷は怨嗟えんさまととなり、重税をのがれるための浮浪逃亡が急速に各地に起り、おのずから荘園はふとり、国有地は衰え、平安朝の貴族の専権、ひいては武家の勃興ぼっこう
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
生産力の発展や経済的矛盾だけを一元的にいうだけでは、例えば武器や戦争方法の変化、宗教の勃興ぼっこう、科学技術上の新発明などによる変革は、充分に説明できない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
教学ともに振起勃興ぼっこうせるにもかかわらず、民間に下りて見れば、積年の迷信依然としてその勢力をたくましくし、もって教育の進路を遮り、宗教の改良を妨ぐること
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
異国人にまで讃美されたほどなので、今日本趣味の勃興ぼっこうかげ、時局的な統制の下に、軍需景気のあおりを受けつつ、上層階級の宴席に持てはやされ、たとい一時的にもあれ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
欧洲における新教革命の反動として勃興ぼっこうしたる「ジェスイト」派の高僧、熱信ねっしん篤行とっこうの君子ザウィエールの手によりて、洗礼を受けたるもの、上は国持くにもち城持しろもちの大名より
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
山川さんがこれを反対に忖度そんたくして、私の議論が専ら資本主義の勃興ぼっこうに伴う社会的変化を顧慮し
日清戦争の結果によって国民全体がその国民的自覚の勃興ぼっこうを示してから間もなくの事であった。
即ち崎陽きようにおいて、小林に贈るの書中にも、仮令たとい国土をことにするも、共に国のため、道のために尽し、輓近ばんきん東洋に、自由の新境域を勃興ぼっこうせんと、あんに永別の書を贈りし所以ゆえんなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
元来、それを破壊することばかりやって来たといっていい信長の膝下ひざもとに、いまや画期的かっきてきな新文化がここに勃興ぼっこうしかけている。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここにおいて徂徠派の病弊を指摘し、その偏見を道破し、あまねく支那歴代の文教を一般にわたって批判攻究すべきことを説く新しい学派が勃興ぼっこうした。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「独逸物理学の勃興ぼっこう」などという新聞記事が、何かその学問の大発展を意味するような誤った印象を与えているかも知れないので、その点を注意しておくに過ぎない。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今紫は大籬おおまがき花魁おいらん、男舞で名をあげ、吉原太夫よしわらだゆうの最後の嬌名きょうめいをとどめたが、娼妓しょうぎ解放令と同時廃業し、その後、薬師錦織にしごおり某と同棲どうせいし、壮士芝居勃興ぼっこうのころ女優となったりして
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
戦後の世界は戦前においてさまで優勢でなかった思想が勃興ぼっこうし初めたために、経済的、政治的、社会的のいずれの方面においても、これまでになかった急激な動揺変化を生じて
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
近ごろわが国でも土俗学的の研究趣味が勃興ぼっこうしたようで誠に喜ばしいことと思われるが
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
西洋では illuminism がさかんに行われた、十八世紀の反動として十九世紀の前半に浪漫的趣味の勃興ぼっこうきたしました。それが変化してまた客観的態度に復して参りました。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
絶って今日の如き清潔なる食道楽会が全国各地に勃興ぼっこうしつつあらん事を希望致します
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
学芸によって国の勃興ぼっこうすることもある、学芸によって国が惰弱だじゃくに流れることもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
紅葉勃興ぼっこう当時の文壇は各々私交はあっても団体的に行動する事はなかった。春廼舎はるのやつや半峰居士はんぽうこじ伯牙はくがにおける鍾子期しょうしきの如くに共鳴したが、早稲田わせだは決して春廼舎を声援しなかった。
心怒りて目ひらめき、情悲んで涙落つ、思うは則ち動くなり。もしこの原則をして、社会の狂濤きょうとうたる革命に適用するを得ば、心理的の革命、中に勃興ぼっこうして、事実的革命、外に発作するなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ロシアに生まれ、リムスキー=コルサコフの影響を受けたが、当時勃興ぼっこうしたディアギレフのロシア舞踊団のために新鮮にして最も魅力に富んだ舞踊曲を書き、一挙にして世界の視聴を集めた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
和歌に代りて起りたる俳句幾分の和歌臭味を加へて元禄時代に勃興ぼっこうしたるも、支麦しばく以後ようやく腐敗してまたすくふに道なからんとす。ここにおいて蕪村は複雑的美を捉へ来りて俳句に新生命を与へたり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
まず織田家の勃興ぼっこうぶりを数字のうえで見ると、ここ足かけ三年間に、足利義昭よしあきを追い、浅井、朝倉を滅ぼして、急激にその領地を拡大している。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず浮世絵山水画発達の経路を尋ねてその一を奥村政信おくむらまさのぶ以来広く行はれたる浮絵うきえ遠景図に帰し、その二を以て天明てんめい年間江戸に勃興ぼっこうせし狂歌の影響なりとなさんと欲す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いついかなる問題が勃興ぼっこうして、現在の第一線の問題に取って代わるかもしれない。
物理学圏外の物理的現象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だから今もし小波瀾しょうはらんとしてこの自然主義の道徳に反抗して起るものがあるならば、それは浪漫派に違いないが、維新前の浪漫派が再び勃興ぼっこうする事はとうてい困難である、また駄目である。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
城も城であるが、より以上、信長の性急な移転ひっこしで、目ざましく促進されたのは、新しい城下町の勃興ぼっこうだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元禄およびその以前狂歌勃興ぼっこうじょううかがひ知らんとせば建仁寺雄長老けんにんじゆうちょうろうが『新撰狂歌集しんせんきょうかしゅう』、半井卜養なからいぼくようが『卜養狂歌集』、生白庵行風せいはくあんゆきかぜが『古今夷曲集』、石田未得いしだみとくが『吾吟我集ごぎんがしゅう
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうしてみると結局日本人の西洋本位思想が少しでも減退してほんとうの国民的自覚が勃興ぼっこうしない限り、連句が日本人自身から正当に認められる日の来るのはなかなか待ち遠しいかもしれない。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
うじは、菅原の系類で、遠祖は、春日神社の神職をしていたが——武家勃興ぼっこうの機運から、ここの城寨じょうさいって、弓矢をね、いつか豪族となって、源頼朝のが成った時
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつの世でも、新しく勃興ぼっこうするものには、必ずこういう痛撃が出るし、受け身になるものよりは、駁撃ばくげきするほうへ痛快がるのが、言論の世界の通有性である。かなりの識者のうちでも
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)