きっ)” の例文
四角にきった豆腐の真中まんなかさじの先でくり抜いてその中へ玉子の黄身のザット湯煮ゆでたのを落してそれをそうっと沸湯にえゆで湯煮て別にくずの餡を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかなおこれは真直まっすぐに真四角にきったもので、およそかかかくの材木を得ようというには、そまが八人五日あまりも懸らねばならぬと聞く。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
穏当おとなしくなって姪子めいっこを売るのではない養女だかめかけだか知らぬが百両で縁をきっれろという人にばかりの事、それをおたつ間夫まぶでもあるか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕は山口でぐ死んで了おうかと思いました。の時、実に彼の時、僕が思いきって自殺して了ったら、むしろ僕はさいわいであったのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
地味な柄の光らぬ単衣ひとえ物。黒絽くろろの帯に、これだけは思いきって派手な縫い模様。上品でしかもつややかなえりの好み、くちにおい。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれども車掌は片隅から一人々々に切符をきって行くせわしさ。「往復で御在いますか。十銭じっせん銀貨で一銭のお釣で御在います。お乗換は御在いませんか。」
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
中々繁昌の様子で、其処そこに色々ながくが上げてある。あるいは男女の拝んでる処がえがいてある、何か封書が順に貼付はりつけてある、又はもとどりきっい付けてある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(鋏)大抵なものならきって見せるが、それでもむずかしいと思うならまア一遍いで行くさ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
女もついには思いきったと見え所天の首に手を巻て貴方は此様な恐ろしい疑いを
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
へへへへへへと無気味に笑って、ひからびきった手で顔を撫で廻している。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
牡丹ぼたんきって心さびしきゆうべかな
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
じつ、私も困りきっているに違いないけエど、いくら零落おちぶれても妾になぞ成る気はありませんよ私には。そんな浅間しいことが何で出来ましょうか。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
くわうるに海が最も深いからドウも錨を上げるいとまがないと云うので、錨のくさりきって夫れから運動するようになった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
瑠璃子におぼきっていたわしは、彼女のこととなると、もう盲目も同然で、カラ意気地いくじがなかったのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
よしや我身の妄執もうしゅうり移りたる者にもせよ、今は恩愛きっすて、迷わぬはじめ立帰たちかえる珠運にさまたげなす妖怪ようかい、いでいで仏師が腕のさえ、恋も未練も段々きだきだ切捨きりすてくれんと突立つったち
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ねぎきっても人参にんじんや大根を切ても頭としっぽの捨てるような部分を掃溜はきだめへ捨てないでスープの中へ入れる。そうして火鉢の火のいている時は夜でも昼でも掛け通しておく。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何から何まで皆手掛りでは無いか第一顔の面長いのも一ツの手掛り左の頬にあざの有るのもまた手掛り背中せなかの傷も矢張り手掛り先ず傷が有るからには鋭い刃物はものきったには違い無いすれば差当り刃物を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いくら威張っても追い付かんぞと、腹の中で散々悪態をきながら、突然チョキリ! 一角きって落しましたが、まだ気が付かない様子ですから、また一角をチョキリ! それでもめないから
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
夢中で錨を還すそのいかりきったと云うことは清水卯三郎しみずうさぶろうが船にのって見て居たばかりで薩摩の人は多分知らない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
入ると直ぐ下駄直しの仕事場で、脇の方に狭い階段はしごだんが付ていて、仕事場と奥とは障子で仕きってある。其障子が一枚かっていたが薄闇くって能く内が見えない。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
棺内の空気は乾燥しきって、ほとんど呼吸も困難になって来た。それよりも恐ろしいのは、底の板のやける熱度だ。観念をした倭文子でさえ、もう我慢がし切れなくなった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とどめられたるそで思いきって振払いしならばかくまでの切なるくるしみとはなるまじき者をと、恋しを恨む恋の愚痴、われから吾をわきまえ難く、恍惚うっとりとする所へあらわるゝお辰の姿、眉付まゆつきなまめかしく生々いきいきとしてひとみ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
留たまえ傷はせなに刀できったかと思えば頭には槌で砕いた傷も有る既に脳天などは槌だけ丸く肉が凹込めりこんで居る爾かと思えば又所々には抓投かなくった様な痕も有る(大)成るほど—(谷)未だ不思議なのは頭にへばり附て居る血を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
二郎はそこに居並んだ、緊張しきった人々の顔を見ると、一層顔を青くして、震え声で答えた。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は躊躇ちゅうちょを恐れるものの如く、思いきってグラスを唇に当てた。瞑目めいもくした青ざめた顔が、勢いよく天井を振り仰ぐ。グラスの液体がツーッと歯と歯の間へ流れ込む。喉仏のどぼとけがゴクンと動く。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それともまた、切手のはり方などには気づかない程、のぼせきっていたのかも知れません。いずれにしても、「失望」などと書いているからは、彼がそれに気づいていなかったことはたしかです。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たちまち一笑に附し去られるは知れきっていたから、彼はそれについて、何事も口にしなかったけれど、親友の幸吉が無実を主張しながら拘引された上は、親友を助ける意味で、彼は彼の幻想に基いて
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、一人で喋りつづけて、こちらの返事も聞かず電話をきってしまった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鶴子は遂に舌をきったのだ。自殺せんとして舌を噛み切たのだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と云いさして、紋附袴のゴリラはギョッとした様に言葉をきった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
川村は、妻の愛におぼれきっているわしを、冷かす様に言った。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「アラ、きったの。でも殺すんじゃないでしょ」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)