先達せんだっ)” の例文
先達せんだってかねて紹介して置いた福岡大学の久保博士からの来書に、長塚君が診察を依頼に見えたとあるから、今頃は九州に居るだろう。
先達せんだってからあの男は」と、勘平は蒲団ふとんの上に起きなおったままつづけた。「よく湯島の伯母のところへ行くといっては出かけたものだ。 ...
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
打敲ぶったゝくとしようよ、毎日此処へ休みながらお前のいう話がみんな為になるよ、あの先達せんだってちょっと聞いたが、神田の方ではお前の噂が高いよ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし破壊的地震としては極めて局部的なものであって、先達せんだっての台湾地震などとは比較にならないほど小規模なものであった。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
先達せんだっての教育者大会には、あれだけ市長の説に賛成して大演説をせられて、今日自分の首が飛んだからって市長さんを排斥するなんかは
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
私は反古にして無くして仕舞いましたが、先達せんだって此事を話し出した節聞いたらば、麗水君は今も当時写したのを持って居るという事でした。
学生時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この時分、捨小舟とは程遠からぬ川原の蘆葦茅草ろいぼうそうの中の、先達せんだってイヤなおばさんの屍体を焼いた焼跡あたりから、一つのお化けが現われました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
知っているどころか、実は先達せんだって川上糸子が首飾りを盗まれたとき、僕は探偵を依頼されて、山本が持っていることを知り、山本の手から首飾りを
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
先達せんだって布告に相成りそうろう各国のうち、仏英蘭公使、いよいよ来たる二十七日大坂表出発、水陸通行、同夜伏見表ふしみおもてに止宿、二十八日上京仰せいだされ候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先達せんだってのレターに、姉の来ていますことを申上げましたために、あなたは御遠慮遊ばしていらっしゃるのじゃなくって? 御心配には及びませんわ。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
宛名はツイその近傍の著名な書肆しょしで、「先達せんだっての○は何々へ届けてくれ、本人が義務を怠たったら自分が返債する」
私は先達せんだっても今日の通り、唯一色の黒の中にものうい光を放っている、大きな真珠しんじゅのネクタイピンを、子爵その人の心のように眺めたと云う記憶があった。……
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あなたは先達せんだって、中華青年会館に開かれたロシア飢饉ききん救済音楽会のとき、たしかあのステージのわきに立っていらっしゃいましたね、ねえ、そうでしょう?」
七夕たなばたさま」をよんで見ました。あれは大変な傑作です。原稿料を奮発なさい。先達せんだってのは安すぎる。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「窓のところに。お梅さんが先達せんだっ琴平こんぴらで買って来たのよ、奉公に出る時もってゆきたいって……。」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
じつは先達せんだってお君はんの嫁入りの時、支度の費用やいうて、金助はんにお金を御融通ごゆうずうしましてん。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
娘の病気もいろいろと心配も致しましたが、何分にも捗々はかばかしく参りませんで、それに就いて誠にどうも……アア熱い、お国さま先達せんだっては誠に御馳走様に相成りましてありがとう。
いつそのくされ、思う存分書いて見よか、と思ったのは先達せんだっての事だったが、其後そのご——矢張やっぱり書く時節が到来したのだ——内職の賃訳がふっと途切れた。此暇このひまあすんで暮すは勿体ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……村の口の、里の蔭言かげごと、目も心も真暗になりますと、先達せんだって頃から、神棚、仏壇の前に坐って、目を閉じて拝む時、そのたびに、こう俯向うつむく……と、もののしまが、我が膝が
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先達せんだっても、ある集会の席で人の談話を聞いていると、丙午の迷信を打玻せねばならぬということには、満場一致で賛成のようであったが、さて自分の息子に嫁を貰うときには如何と問われると
改善は頭から (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
先達せんだっての「見立」の続きをお知らせいたします。あなたの好きな方のお名もありますから、早くお知らせいたしたく、お目にかかるまでとっておけないので手紙にしました。お礼をおっしゃい。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
先達せんだって「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。
「そんなことないわ。先達せんだって、浅草でやったじゃないの」
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私「おもだった客は先達せんだってのX図案家や、詩人のX氏や、哲学科のX氏あたりでしょう。」麻川氏「図案家X氏も行きづまりの恰好ですな。」私「そう、今までのメカニズムが近頃擡頭して来た新古典主義に押され勝ちのようですね。そういう欧洲の情勢が日本にも影響して来ましたのね。」
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先達せんだっわたくしは或るお方のお供をいたして、堀越ほりこしだんろうと二人で草津へ参って、の温泉に居りましたが、彼処あすこは山へあがるので車が利きません。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先達せんだっての告白を再び同じへやのうちに繰り返して、単純なる愛の快感のもとに、一切を放擲ほうてきしてしまったかも知れなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先達せんだって開かれた「煙草に関する展覧会」でこの天狗煙草の標本に再会して本当に涙の出る程なつかしかったが、これはおそらく自分だけには限らないであろう。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
明治四十八年には三階を建て五十八年に四階を建てて行くと死ぬまでにはよほど建ちます。新宅開きには呼んで下さい。僕先達せんだって赤坂へ出張して寒月かんげつ君と芸者をあげました。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と言って、仏頂寺弥助が先達せんだって、塩尻峠の不思議なる盲剣客のことをしきりに思い返し
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが此のお嬢様が先達せんだって宿賃をお払いなさる時に、懐から出した胴巻には、金が七八十両あろうと見た時は、面皰にきびの出る程欲しくなりました
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先達せんだって見た時とほぼ同じように粗末な服装なりをしている彼女の恰好かっこうは、寒さと共に襦袢胴着じゅばんどうぎの類でも重ねたのだろう、前よりはますます丸まっちくなっていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つい先達せんだって「歯」のことを書いた中に「硬口蓋こうこうがい」のことを思い違えて「軟口蓋」としてあったのを手紙で注意してくれた人があったが、こういうのは最も有難い読者である。
随筆難 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで、先達せんだっての、いのじヶ原の斬合いの話が始まる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
変なもので、伊香保なんぞへって居ると交際つきあいふえる、帰って見ると先達せんだっては伊香保でと云うので、麻布あざぶの人が品川しながわ、品川の人が根岸ねぎしへ来て段々縁がつながり
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分ではこれほどの見識家はまたとあるまいと思うていたが、先達せんだってカーテル・ムルと云う見ず知らずの同族が突然大気燄だいきえんげたので、ちょっと吃驚びっくりした。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし雪ちゃんが主婦の実子か否と云う事は聞き洩した。もっとも主婦がこの娘に対すると先達せんだって生れた妹の利ちゃんに対するとその間に何のちがいも自分には認められなかったとは云え。
雪ちゃん (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其所そこへ三千代が出て来た。先達せんだってはと、軽く代助に挨拶あいさつをして、手に持った赤いフランネルのくるくると巻いたのを、坐ると共に、前へ置いて、代助に見せた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三八「これは何うも暫く………先達せんだっては失敬をいたしました、今という只今貴方のお噂たら/\ヘヽヽ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕等が夢にも知らぬような事が沢山あって一々説明を聞いてようやく合点がてんが行くくらいである。どうも奇態な男だ。先達せんだって『日本』新聞に掲げた古瓦の画などは最も得意でまた実際真似まねは出来ぬ。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一本は朝鮮の統監府にる友人あてで、先達せんだって送ってくれた高麗焼こうらいやきの礼状である。一本は仏蘭西フランスに居る姉婿あねむこ宛で、タナグラの安いのを見付けてくれという依頼である。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何うぞ敵を討ちたいと心に掛けまして、三年あとに高岡を出まして、巡礼を致して敵の行方を捜しました所が、更に心当りもなく、つい先達せんだって江戸へ出て参りました
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蟠「そんならせ、首尾けば、先達せんだって貴公が欲しいと云った脊割羽織せわりばおりと金を廿両やる積りだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
渡辺華山わたなべかざん邯鄲かんたんというくために、死期を一週間繰り延べたという話をつい先達せんだって聞きました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
政「恐れ入りますな……先達せんだって心当りが有りましたから、段々と聞いて見たら、いけないんで」
しかし彼はもう先達せんだっての掛物についてはまるで忘れているかの如くに見えた。李鴻章りこうしょうの李の字も口にしなかった。復籍の事はなお更であった。おくびにさえ出す様子を見せなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かしこまりましたが、先達せんだって職人の兼という奴が、のみで足の拇指おやゆび突切つッきった傷が破傷風はしょうふうにでもなりそうで、ひどく痛むと云いますから、相州の湯河原へ湯治にやろうと思いますが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先達せんだっ通町とおりちょうで飲んだ氷水の代だと山嵐の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、おれが存外真面目まじめでいるので、つまらない冗談じょうだんをするなと銭をおれの机の上にき返した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つい先達せんだってお國が源次郎と云う人を連れて来ていうのには、私が牛込の或るお屋敷へ奥様附で行った所が、若気の至りに源次郎様と不義私通いたずらゆえに此のお方は御勘当となり
すると渾身こんしん全国ことごとく其事件になり切って仕舞しまう。普通の人間の様に行屎走尿こうしそうにょうの用は足して居るが、用を足して居るか、居らぬか気が付かぬ位に逆上のぼせて仕舞う。先達せんだって友人が来てこんな話をした。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何ゆえ長助が斯様こんなことを云うのか分りませんでしたが、の通り検めたのを毀したと云うのは変だなと考えて、よう/\思い当りましたのは、先達せんだっ愛想尽あいそづかしを云った恨みが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)