下物さかな)” の例文
土地とちにて、いなだは生魚なまうをにあらず、ぶりひらきたるものなり。夏中なつぢういゝ下物さかなぼん贈答ぞうたふもちふること東京とうきやうけるお歳暮せいぼさけごとし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此の通り徳利とくりを提げて来た、一升ばかり分けてやろう別に下物さかなはないから、此銭これで何ぞすきな物を買って、夜蕎麦売よそばうりが来たら窓から買え
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父親は早目にその日の旅籠はたごへつくと、伊勢いせ参宮でもした時のように悠長ゆうちょうに構え込んで酒や下物さかなを取って、ほしいままに飲んだり食ったりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女は名代部屋にぼんやりと待ち侘びている男の寂しそうな顔を頭に描きながら、それを下物さかなにこころよく酒を飲んでいた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「アア、酒も好い、下物さかなも好い、お酌はお前だし、天下泰平たいへいという訳だな。アハハハハ。だがご馳走ちそうはこれっきりかナ。」
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
新造しんぞの注意か、枕もとには箱火鉢に湯沸しが掛かッて、その傍には一本の徳利と下物さかなの尽きた小皿とを載せた盆がある。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
さいはひに一ぱいみて歇息やすませ給へとて、酒をあたため、下物さかなつらねてすすむるに、赤穴九一袖をもておもておほひ、其のにほひをくるに似たり。左門いふ。
今和主の来りしこそさちなれ、大王もさこそ待ち侘びておわさんに、和主も共に手伝ひて、この下物さかなを運びてたべ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「えらい、それではこれを下物さかなに熱いとこをまア一本。」と、父は鼓のやうに能く鳴る手を二つ拍つた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
マンションともいえるような宏壮な洋館をしめ、伊那の奥から引いてきたまさ葺の山家やまがにひきこもり、メンバという木の割籠わりごからかき餅をだし、それを下物さかなにして酒を飲みながら
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
冬という季節は窩人達にとっては狩猟しゅりょう享楽きょうらくとの季節であった。彼らは弓矢をたずさえては熊や猪を狩りに行く。捕えて来た獲物を下物さかなとしては男女打ちまじっての酒宴を開く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と頼めばやがて持ちきたる膳部の外に摺芋すりいも鷄卵たまごを掛けたるを下物さかなとして酒を持ち來り是は明日あす峠を目出度めでたく越え玉はんことをことほぎたてまつるなり味なしとて許されて志しばかりを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
一見ゾッとするばかりの怪獣なりしに、さすがは血気の若者ども、そのまま料理して下物さかなとなし、酒は住職のおごりとなし、舌鼓して食い尽くせしとはなかなかの快談にこそ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
下物さかなは菜漬位である。女でも皆大酒であるといふ事ぢや。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
和「おゝ、何も身が無理に左様そういうのではない、左様いうことなら今の話はめにするから、島路大儀じゃが下物さかなに何か一つ踊って見せい」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
後は芝居の噂やら弟子どもが行状みもちの噂、真に罪なき雑話を下物さかなに酒も過ぎぬほど心よく飲んで、下卑げび体裁さまではあれどとり膳むつまじく飯を喫了おわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それらの人をねぎらうために、台所で酒の下物さかなの支度などをしていた母親と、姉はしばらく水口のところで立話をしてから、お島のところへ戻って来たのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
海鼠腸このわた下物さかなにお駒の酌で、熱いのを立て續けに三四杯呷りつゝ、平七はまたこんなことを言ひ出した。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
酒のない猪口ちょくが幾たび飲まれるものでもなく、食いたくもない下物さかなむしッたり、煮えつく楽鍋たのしみなべ杯泉はいせんの水をしたり、三つ葉をはさんで見たり、いろいろに自分を持ち扱いながら
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
厚くねぎらいて戻し是より風呂を新たに焚き酒の下物さかなを調するなど宿の者は騷ぐうちを待つ程もなく我は座敷に倒れて熟醉うまゐしたれば梅花道人如何いかなる妙狂言ありしかそれは知らず
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
やつがれしか思ひしかども、今ははや夜もけたれば、今宵は思ひとどまり給ふて、明日の夜更に他をまねき、酒宴を張らせ給へかし。さすれば僕明日里へ行きて、下物さかな数多あまたもとめて参らん」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
事件の起った晩にあつまったのは、佐兵衛、次郎兵衛、弥五郎、六右衛門、甚太郎、権十の六人で、今夜はのちの月見というので、何処からか酒や下物さかなを持ち込んで来て、宵から飲んで騒いでいた。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大「いや/\然うでない、一体貴様の気象を感服している、これ女中、下物さかな此処これへ、又あとで酌をして貰うが、早く家来共の膳を持って来んければならん」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
泡盛あわもりだとか、柳蔭やなぎかげなどというものが喜ばれたもので、置水屋おきみずやほど大きいものではありませんが上下箱じょうげばこというのに茶器酒器、食器もそなえられ、ちょっとした下物さかな
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ソクイに練り交ぜながら下物さかなは有るやと問ふ宿の女なしと淡泊無味に答ふデモ此邊の川で取れる岩魚いはなか何かあらうと押し返せば一遍聞合せて見ませうと立つ我々紀行並びに手紙等を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そはともあれわれ今日は大王の御命おおせを受け、和主を今宵招かんため、今朝けさより里へ求食あさり来つ、かくまで下物さかなは獲たれども、余りにかさ多ければ、独りにては運び得ず、思量しあんにくれし処なり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
夜の目も合わさずみんなが立ち働いているところへ心も体も酒にただれたような父親が、嶮しい目を赤くして夕方帰って来ると、自分で下物さかなを拵えながら、炉端で二人がまた迎え酒を飲みはじめる。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
唯さえ蒼白い顔はあいのように変わってしまって、ただ黙ってうつむいていると、やがて吉五郎はじろりと見かえって、「若けえ人に飛んだお下物さかなを見せたが、おめえはあの女を知っているかえ。」
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鳴き渡る音も趣味おもむきある不忍の池の景色を下物さかなの外の下物にして、客に酒をば亀の子ほど飲まする蓬莱屋の裏二階に、気持の好ささうな顔して欣然と人を待つ男一人。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大「何はなくとも折角の御入来ごじゅうらいもとより斯様な茅屋ぼうおくなれば別に差上さしあげるようなお下物さかなもありませんが、一寸ちょっと詰らん支度を申し付けて置きましたから、一口上ってお帰りを」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女が台所へ出て、酒の下物さかなを拵えている気勢けはいもした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さて、たべる菊は普通は黄の千葉又は万葉の小菊で、料理菊と云つて市場にも出て来るのであるが、それは下物さかなのツマにしか用ゐられぬ、あまり褒めたものではない。
菊 食物としての (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
梅「おふざけでないよあのおたなから酒の下物さかなにしろって台所の金藏きんぞうさんが持って来た物があるよ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真に罪無き雑話を下物さかなに酒も過ぎぬほど心よく飲んで、下卑げび体裁さまではあれどとり膳睦まじく飯を喫了をはり、多方もう十兵衞が来さうなものと何事もせず待ちかくるに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それにまだ世間せけんには売物ばいぶつにないと結構けつこうなお下物さかなでせうなんだか名も知らない美味物許うまいものばかりなんで吾知われしらず大変たいへんつちまひました、それゆゑ何方様どちらさまへも番附ばんづけくばらずにかへつたので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
鳴き渡る音も趣味おもむきある不忍しのばずの池の景色を下物さかなのほかの下物にして、客に酒をば亀の子ほど飲まする蓬莱屋ほうらいやの裏二階に、気持のよさそうな顔して欣然と人を待つ男一人。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、兼松は是より酒を買って来て、折詰の料理を下物さかなに満腹して寝てしまいました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「石塔に鉢卷」といふ壯んな諺が日本にはあるが、石塔になつた氣で鉢卷をして働いたなら、華嚴の瀧はその人の棺前の華では無くて、必ず酒の下物さかなたる好い眺めであらう。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
婆「はい、下物さかなはどうだね」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
構うことあ無えやナ、岩崎いわさきでも三井みついでもたたこわして酒の下物さかなにしてくれらあ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)