上戸じょうご)” の例文
おとすその評判の塩梅あんばいたる上戸じょうごの酒を称し下戸の牡丹餅ぼたもちをもてはやすに異ならず淡味家はアライを可とし濃味家は口取を佳とす共に真味を
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おこ上戸じょうごやアノ泣き上戸。笑い上戸に後引き上戸。梯子はしご上戸と世間の人が。酔うた姿を見かけの通りに。名前つけるとおんなじ流儀じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おまえさんは上戸じょうごえる。わしはわら上戸じょうごで、いているひとるとよけいわらえてる。どうかわるおもわんでくだされや、わらうから。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「そちも上戸じょうごではあるまいな。……おやおや、五郎八がまだそこに手をついて泣いておる。なにが悲しいのか聞いてやれ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛之助は廻らぬ呂律ろれつで一通り事の次第を話したあとで、込み上げて来る涙を隠そうともせず、丁度泣き上戸じょうごの様に、メソメソしながら続けた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとえば人の性質に下戸げこ上戸じょうごがあって、下戸は酒屋に入らず上戸は餅屋に近づかぬとう位のもので、政府が酒屋なら私は政事の下戸でしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼女は生来笑い上戸じょうごの快活で穏やかなたちであったが、つづく不幸と失敗の結果、すべての人が平和と喜びの中に暮らして
それでも日本酒ずきになると、何酒よりも日本酒が一番うまいと言ふことは殆ど上戸じょうご一般に声をそろへて言ふ所を見ると
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
少し手をかければ、皮をむいて天ぷらのかきあげ——、これは下戸げこにもよし、上戸じょうごにはなお喜ばれるというものだ。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
大川を眺めながら団子を食う、餅もよしあんもよし、ことにツケ焼団子が自慢で、下戸げこばかりか上戸じょうごも手を出した。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「知ってるよ。泣かねえでくれよおかみさん。親方が帰ってくるとおれが困るからよう——泣き上戸じょうごだなあ」
舞馬 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そうして一たんその飽満点に達したならば、それから上は、いかなる上戸じょうごでも、もういやだという事になる。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
五郎作はわかい時、山本北山やまもとほくざん奚疑塾けいぎじゅくにいた。大窪天民おおくぼてんみんは同窓であったのでのちいたるまで親しく交った。上戸じょうごの天民は小さい徳利をかくして持っていて酒を飲んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この茶店ちゃやの小さいに似合わぬ繁盛はんじょう、しかし餅ばかりでは上戸じょうごが困るとの若連中わかれんじゅう勧告すすめもありて、何はなくとも地酒じざけ一杯飲めるようにせしはツイ近ごろの事なりと。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼女はあまり酒をたしなみはしなかったが、それでも酔うと笑い上戸じょうごになる方で、殊にその晩は夫にたび/\盃をいられたせいか、ひどく上機嫌にはしゃいでいた。
笑い上戸じょうごの七平は、尻を端折はしょると、手拭をすっとこ冠りに四十男の恥も外聞もなく踊り狂うのでした。
それは、鳴沢イト子の死である。鳴沢さんは、その前夜に死んだのだ。笑い上戸じょうごのマア坊が叱られたのもそれでわかる。助手たちは、鳴沢イト子と同様の、若い女だ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
六合に胡瓜きゅうりの漬物を出して貰い、まだ一缶残っておった牛肉の缶詰を切って、上戸じょうごは焼酎をグビリグビリ、下戸げこは仕方がないので、牛肉ムシャムシャ、胡瓜パクパク。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
上戸じょうごという駅で私たちは汽車を降りた。朝から曇っていたところ汽車を降りたら雨が細かく降り出している。二間ばかりの掘割があって、往来の左右に柳が茂っている。
突堤 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は自分の言葉で胸をつまらせ、おや、泣き上戸じょうごになったかなと思った。「——僕はただ彼女が舞台で踊っているのを客席の隅から見て、胸をおどらせているだけで……」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
そうかと思うと部屋の一所ひとところで、三十がらみの元気のよい男が、笑い上戸じょうごの練習をしていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ごめんなさい」おのぶは徳利を膳の上へ置き、あいている徳利を盆のほうへ移して、坐りながら云った、「あたしこのごろ、少し酔うと泣き上戸じょうごになるようなの、としだわね」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とはいえかれだって、近頃ちかごろは様子が変って、めっきりせもしたし、相変らず笑い上戸じょうごではあったものの、その笑い声はみょうにぶく、毒をふくんで、短くなったし、平生の軽い皮肉や
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
もういけやせぬ、と空辞誼そらじぎはうるさいほどしながら、猪口ちょくもつ手を後へは退かぬがおかしき上戸じょうご常態つね、清吉はや馳走酒ちそうざけに十分酔ったれど遠慮に三分の真面目をとどめて殊勝らしく坐り込み
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
福子は笑い上戸じょうごで通っていた。睫毛まつげのふかいパッチリと見開いた丸っこいが、みるみる三日月になってクツクツと笑いだす。そばにいるものまで、つい、つりこまれて笑い出す始末だった。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
人おのおの好むところあり。下戸げこあり。上戸じょうごあり。上戸のうち更に泣くものあり笑ふものあり怒るものあり。然れども下戸上戸おしなべて好むところのものまたなきにあらず。淫事すなわちこれなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この泣き上戸じょうご他処よそから来た寄留人きりゅうにんかと思われるが、どうして泣き出したかは村の衆にもわからぬごとく、諸君ら現代人にも不審であり、また或いは本人にも説明ができなかったかも知れぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
はい。そうでありましたナ。どうやら司令部の有名な怒り上戸じょうごのアカザル通信兵が出ているようです。司令部であることに、まちがいはないようです。なにしろ、こういう重大報告は、念には念を
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『甲陽軍鑑』一六に、馬に薬を与うるに、上戸じょうごの馬には酒、下戸げこの馬には水で飼うべし、馬の上戸は旋毛つむじ下り、下戸は旋毛上るとあり。馬すら酒好きながある。人を以てこれにかざるべけんやだ。
熱燗あつかんに泣きをる上戸じょうごほつておけ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(こいつ泣き上戸じょうごか)
幽霊を見る人を見る (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ゆかしいお家流で「お雛様ひなさま」だとか「五人囃子ばやし」だとか「三人上戸じょうご」だとか、書きしるしてある、雛人形の箱でございました。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
笑い上戸じょうごなので、人に笑わされると、声も立てないで体じゅうゆすぶりながら、気分が悪くなるまで笑いつづけるのだ。
上戸じょうご本性で、謹みながら女を相手に話もすれば笑いもして談笑自在、何時いつも慣れ/\しくして、そのきわみは世間で云う嫌疑けんぎと云うような事を何とも思わぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
緋羅紗ひらしゃを掛けた床の雛段には、浅草の観音堂のような紫宸殿ししいでんいらかが聳え、内裏様だいりさまや五にんばやしや官女が殿中に列んで、左近さこんの桜右近うこんの橘の下には、三人上戸じょうご仕丁じちょうが酒をあたゝめて居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おまわりさんが国の女房や子供を干し上げて置いて、大きな顔をして酒を飲んで、上戸じょうごでもない爺いさんに相手をさせていた間、まあ、一寸楽隠居になった夢を見たようなものですな
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ガラッ八は徳利の酒を一と口、上戸じょうごらしく、喉をゴクリと鳴らしました。
「ほう。ひどくお気に召されたの。てまえも、非番の日は、ちと、晩酌をやりまするで、上戸じょうごの舌は、わかるとみえる。——だが、田作の唐辛子煮など、余り失礼物ゆえ、どうかと思うて——」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんだね、しんみりと。上戸じょうごのおくのるかな。ははは。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
上戸じょうごのどを鳴らしつばを呑んで、待遠しがっていたことは同じである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「こりゃ、どうも、お父さんは泣き上戸じょうごらしいぞ。」
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
「おまえ泣き上戸じょうごになったぞ」と甲斐が云った。
酩酊めいていせる笑い上戸じょうごの猛獣共、毒蛇の蛇踊り、その間をねり歩く美女の蓮台、そして、蓮台の上には、にしききぬに包まれたこの国々の王様、人見廣介の物狂わしき笑い顔があるのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
酔えばただ大きな声をして饒舌るばかり、つひぞ人の気になるようないやがるような根性の悪いことをいって喧嘩をしたこともなければ、上戸じょうご本性真面目まじめになって議論したこともないから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)