魂魄こんぱく)” の例文
もしお聞入れがなくば、この場に於て切腹をいたしまして、魂魄こんぱくとなって奥様をお守り申して、御本望を遂げさせまするでございます
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
念願の金がたまった瞬間に、幽明境を異にして、魂魄こんぱくだけが水ものまず歯ぎしりして巴里へ走って行きそうな暗い予感がするのである。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「本当かも知れん。なら、目出度いことだ。赤山殿の魂魄こんぱくも、浮ぶことだろう——ところで、皆が集まっているが、出向いてくれんか」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「友次郎どのの魂魄こんぱくが迷いますわ。しろうとが刃物いじりなぞするものではありませぬ。あなたもおとなしく! おとなしく!」
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
し今日露顯ろけんに及ばんとする事衆怨しうゑんの歸する所にして就中なかんづく道十郎が無念むねん魂魄こんぱくとお光が貞心ていしんを神佛の助け給ふ所ならん恐るべしつゝしむべし。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
四大空に帰するか、魂魄こんぱく故郷に還るか、雄心滅せずしてとこしえに天地の間に磅礴ぼうはくたるか。自分はこの迷いに確答を与うべき科学を持っている。
寝ているうちに、匕首ひしゅが飛んで首をさらうんだ、恐るべし……どころでない、魂魄こんぱくをひょいとつかんで、血の道の薬に持ってく。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん』「昭公七年」の条に、鄭子産ていしさんが「匹夫匹婦強死すれば、その魂魄こんぱくなおよく人に憑依ひょういして、もって淫厲いんれいをなす」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それとも、彼はオーストラリヤで戦車にのし烏賊いかられて絶命し、魂魄こんぱくなおもこの地球にとどまって大蜘蛛と化したのであるか。
言い終るとまもなく、彼は従容しょうようとして死に就いた。宋江も呉用も、哀哭あいこくしてとりすがったが、魂魄こんぱく、ついに還らなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなら魂魄こんぱくだけは御傍おそばへ行って、もう一遍御目にかかりますと云った時に、亭主は軍人で磊落らいらく気性きしょうだから笑いながら、よろしい、いつでも来なさい
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丸火屋の台ランプが、風もないのに、さまよう魂魄こんぱくを暗示するかの如く、ジジジジと音を立てて、異様に明滅していた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
累々るゐ/\たる墳墓の地、苔滑らかに草深し、もゝちの人の魂魄こんぱく無明の夢に入るところ。わがかしこにみし時には、朝夕杖を携へて幽思を養ひしところ。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
こうおっしゃるのです——『これこれこうしたわけで約束にそむくことになるので、自刃じじんして魂魄こんぱくとなり、その魂魄が遠く百里のところをきたのだ』
この病をいだいて世に苦しまんより、魂魄こんぱくとなりて良人に添うはまさらずや。良人は今黄海にあり。よしはるかなりとも、この水も黄海に通えるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一瞬、ほんの一瞬だけ考えて、すぐにその陋劣に身震いし、こんどは逆に、猛烈に、正義という魂魄こんぱくを好きになりました。たまらなく好きになりました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、すでに魂魄こんぱくを地獄の闇に投げ入れてしまった二人の悪徒しれもの、そのおもかげを見わけることが出来たかどうか?
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おそらく永眠ただちに中尉の魂魄こんぱくは、夫人よ御身の許へ急いだこととは思われますが、しかしその霊はまた
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
すべて汝らのやからに属するものことごとく来たってわが呪いに名をしょせよ。わしは今わしの魂魄こんぱく永劫えいごうに汝らの手に渡すぞ。おゝ清盛よ。奈落ならくの底で待っているぞ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
頭はまどうかがは堂にくという素晴らしい大きさである。葉公はこれを見るやおそれわなないてげ走った。その魂魄こんぱくを失い五色主無ごしきしゅなし、という意気地無さであった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かれ等の謂ふ『精神』といふのは、極めて抽象的な、肉體からふらふらと拔出でて佛壇あたりを迷つてゐる魂魄こんぱくみたやうなもので、僕らには何の役にも立たぬ筈である。
釈迢空に与ふ (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
別れにのぞんで、赤穴は、重陽の佳節に再会することを約束する。しかし、郷里に幽閉されてしまった赤穴は、再会の日を迎えて自害し、魂魄こんぱくとなってその約をはたす。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
その魂魄こんぱくが化して鳥となり、今でもモナークナーと啼いて山中を飛びまわるといっている。
現世の者よりも更にありありと活きている魂魄こんぱくが、その明け暮れを送る住居なのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と漁夫はそのことばを聴くやすでに魂魄こんぱくのあるところをおぼえず、夢のごときものわづかに醒むれば、この時彼が身はもとの浜べに、しかもつつがなく、しかも乗れる舟は朽ちて、——朽ちて
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そうして、彼の魂魄こんぱくがその事実を僕に告げんとして帰ったのであろうか。さらにまた、彼の愛する——の保護を僕に頼みに来たのであろうか。こう考えると、僕の胸はにわかにおどった。
暗殺の目的は金や持物ではなくて、その旅人のっている技能や智慧や勇気が魂魄こんぱくと一緒に永久にその家に止まって、そのおかげでその家が栄えるようにという希望からだという事である。
マルコポロから (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おのが手作りの弁天様によだれ流して余念なくれ込み、こと三味線しゃみせんのあじな小歌こうたききもせねど、夢のうちには緊那羅神きんならじんの声を耳にするまでの熱心、あわれ毘首竭摩びしゅかつま魂魄こんぱくも乗り移らでやあるべき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
魂魄こんぱくが戻って来ていいこともありますが、戻って来ていよいよ業縁を重ねるのは、よろしくございません、善縁悪縁にかかわらず、火の供養を
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(『白虎通びゃっこつう』に曰く、「魂魄こんぱくとはなんのいいぞ。魂はなお伝伝のごとし。行きて外に休まず、情をつかさどる。魄は迫然として人にきて性を主る」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
孔明は、夜、中流に船を浮かべ、諸天をまつひょうを書いて、幾万の鬼霊に祈り、これを戦の魂魄こんぱくに捧げてその冥福を祈ると唱えて、供え物と共に河水へ流した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「万一、わたしが、望みの半分をのこして死ぬことがありましても、魂魄こんぱくをこの世にとどめて、必ず、生きのこった人達を呪い殺してやるつもりでござります」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はただ荒々しく戸を蹴倒して這入はいってきて、炉端の人々をすりぬけて、三畳のわが部屋へ飛びこんだだけだ。そしてそこで彼の魂魄こんぱくは永遠の無へ帰したのである。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
余曰く、この花の面白からずと思はるゝ所ありや、われはこの花に対して魂魄こんぱく既に花心にありと言ひけるに、驚いて再び曰ふ、さてもさても日本は風趣に富める国かな。
漫言一則 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
別れにのぞんで、赤穴は、重陽の佳節に再会することを約束する。しかし、郷里に幽閉されてしまった赤穴は、再会の日を迎えて自害し、魂魄こんぱくとなってその約をはたす。
魂魄こんぱくこのとどまって、浄閑寺にお参詣まいりをするわしへの礼心、無縁の信女達の総代に麹町の宝物を稲荷町までお遣わしで、わしに一杯振舞うてくれる気、と、早や、手前勝手。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俊寛 わしは干死ひじにするのだ。わしののろいが悪魔の心にかなうために。わしの肉体の力はつきた。わしに残っているのはただ魂魄こんぱくの力だ。わしのこの力で復讐ふくしゅうして見せる。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
おのに肉飛び骨くだける明日あすを予期した彼らは冷やかなる壁の上にただ一となり二となり線となり字となって生きんと願った。壁の上に残る横縦よこたてきずせいを欲する執着しゅうじゃく魂魄こんぱくである。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
をらすもおそれ入ば今こそ殘らず白状爲すなりつて此長庵が身は刑罰けいばつなるべけれども魂魄こんぱくは此土にとゞまり己れ等一同に思ひ知らするぞ其中にも忠兵衞は第一の大恩人だいおんじんなりよくも/\八ヶ年以前のことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もともと佐野君は、文人としての魂魄こんぱくを練るために、釣をはじめたのだから、釣れる釣れないは、いよいよ問題でないのだ。静かに釣糸を垂れ、もっぱら四季の風物を眺め楽しんでいるのである。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
魂魄こんぱく、——まさしく魂魄に相違厶りませぬ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
水にも、火にも、ごうの尽きなかったおばさんの魂魄こんぱく、今度こそは、あの鳥辺野とりべのの煙できれいな灰となってしまって下さい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(『五憲法ごけんぽう』に曰く、「古儒の知たるや、天に帝神ありて変あり。地に后祇こうぎありて化あり。人に魂魄こんぱくありて奇あり。物に精霊ありて怪あり。みな天有なり」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あえなくも浮かびきれない魂魄こんぱくが、そうして、人なき夜の小仏を越えてはシュクシュクと泣くのでしょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは外套の頭巾ばかりを木菟みみずくに被って、藻抜けたか、辷落すべりおちたか、その魂魄こんぱくのようなものを、片手にふらふらと提げている。渚に聞けば、竹の皮包だ——そうであった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに一人の爺さんがあって、容貌の衰えたのを悲嘆のあまり、魂魄こんぱくがこの世にとどまって成仏が出来なくなってしまった、というのでは読者に与える効果がよほど違ってくる。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「わッ。切れましたか! 切れましたか! あっしが切ったんですか! 切ったんですか? 辰ッ、辰ッ。魂魄こんぱくがあったらよう聞けよ! 討ったぞッ、討ったぞッ。おめえのかたきは、この伝六が、たったひとりで、たしかに討ったぞ!」
「そりゃ、この世へ戻って来ることもある、魂魄こんぱくこのにとどまって、恨みを晴らさないでおくべきか……」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕星ゆうずつ白き下、祭の壇をきずいて、亡き龐統の魂魄こんぱくを招き、遠征の将士みなぬかずいて袖をぬらした。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くせん。人の生、はじめて化するをはくという。すでに魂を生ず。陽をこんという。物を用いてせい多ければ、すなわち魂魄こんぱく強し。ここをもって、精爽せいそうにして神明に至るあり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)