骨牌かるた)” の例文
近衛騎兵のナルモヴの部屋で骨牌かるたの会があった。長い冬の夜はいつか過ぎて、一同が夜食ツッペの食卓に着いた時はもう朝の五時であった。
「寂しがらない奴は、神経の鈍い奴か、そうでなければ、神経をぼかして世を渡っている奴だ。酒。骨牌かるた。女。Haschischハッシッシュ
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
四五人寄添つて額をつき合せながら、骨牌かるたを切つてゐるものもあれば、乳呑児を膝の上にして、鏡に向つて化粧をしてゐるものもある。
勲章 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
花ならば梅桜あやめに菊、鳥獣ならうぐいす時鳥ほととぎすいのししに鹿、まるで近頃の骨牌かるたの絵模様が、日本の自然文学の目録であったというも誇張でない。
君が僕たちと骨牌かるたをしないのは、つまりその金貨を僕たちに取られたくないと思うからだろう。それなら魔術を使うために、欲心を
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、小袖幕のうちにかくれると、彼らは、めかけや手代に酒をつがせて、南蛮船が近ごろ日本へもたらした「うんすん骨牌かるた」というものを始める。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただしこうは云うようなものの、園田の家と絶交してくれとは云わん。からして今までのように毎日遊びに来て、叔母と骨牌かるたを取ろうが」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あゝ、あの骨牌かるたと赤玉のうまい。あれでせう。」と手品師は重役の口吻こうふんに満足して云つた。「あの人のは普通の手品です。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
骨牌かるた、茶屋狂ひ、碁将棋よりは面白いでせう。其れ等の道楽は、飽きてすといふこともあるですが、釣には、それが無いのですもの。』
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
また天に攀じ登るためのバベルの骨牌かるたを築いている不信心な哲学者たちは、モンセーニュールによって招集されたこの驚歎すべき会合で
ツァウォツキイは今一人の破落戸ごろつきとヘルミイネンウェヒの裏の溝端どぶばた骨牌かるたをしていた。そのうち暗くなって骨牌が見分けられないようになった。
一人一人の手にある骨牌かるたそろえ方を考え、ときどき持主が一枚一枚を眺める眼つきから、一つ一つの切札や絵札を数える。
一日じゅう骨牌かるたをしていた三人の病人——その二人は兵卒で一人は水兵である——も、もう寐入って寐言をいっている。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
幾人かのものは銘々に札をもつて骨牌かるたとりをする、他の幾人かは爐を圍んで話合ひ、廣間の一隅に陣取つた若い一群は
主人が骨牌かるたをやっている間、ピラムはじっとしている。脚をめる。人が通って、その脚を踏もうとすると引っ込める。あぶを噛み殺す。くしゃみをする。
戦時以来一緒に籠城ろうじょうの思いをしたり、日を定めて骨牌かるたに集ったり、希臘飯ギリシャめしを附合ったりした連中は、遠く帰って行く岸本等を見送りに来てくれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから僕はあの男に骨牌かるたに負けて、七ルウベル借りてゐるから、立替へて返してくれ給へ。さうしたら此事件を引き受ける気になるかも知れない。
「知るも知らぬもありゃあしねえ。双六の六太に骨牌かるたの花九郎、猩々の酒兵衛に太鼓の胴左、この四人の仇でごわす」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またある時は女が針為事はりしごとをしていると、男はそばでそれを見ている。骨牌かるたなんぞをもして見る。男はある日女に将棋のこまの行き道を教えたり何かもした。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
くものは唯だ一馬なるが、その足は驅歩かけあしなり。一軒の角屋敷の前には、焚火して、泅袴およぎばかま扣鈕ボタン一つ掛けし中單チヨキ着たる男二人、むかひ居て骨牌かるたを弄べり。
たかれた、彼等かれら骨牌かるた一組ひとくみぎないぢやないか。ナニおそれることがあるものか』とおもつてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ロナルド・アデイアは元来、骨牌かるたは好きでよくやっていたが、しかしと云っても、その賭け事のために、身の破滅を招くと云うほどのこととも思われなかった。
彼は惘然ぼうぜんとして殆ど我を失へるに、電光の如く隣より伸来のびきたれる猿臂えんぴは鼻のさきなる一枚の骨牌かるた引攫ひきさらへば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の手札をかくし、お互いに他人の手札に探りを入れるようなこの骨牌かるたのゲームには、絶対に無表情な、仮面のような、平気で嘘をつける顔つきが必要だった。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
あの方はまた、或る人々のやうにお酒とか、骨牌かるたとか、競馬なんぞに行ける人ではなかつたし、それにまた大變に美男子といふのでもおありにならなかつたのです。
訳は簡単だ。額にあざのある外国人の牧師に頼まれて、この中で骨牌かるたをやっている者がある。自分は警察へ密告してくるから、ここで見張をしていてくれといって、五円紙幣を
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多くの兵卒が風琴を鳴らしたり、骨牌かるたいぢつたりしてゐるなかに、たつた一人、一番年齢としの若さうなのが、人の居ない隅つこで、じつと書物に読みふけつてゐるのが将軍の気をひいた。
たゞ老人の楽長がれて居る一人娘の大琴おほことを弾く姿のほつそりとして水を眺めたニムフのやうなのを美しいと思つた。肩章も肋骨も赤い青年士官が土曜日の晩だけ沢山たくさん来て静かに骨牌かるたたゝかはして居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
此人の精神上の地平線は、自分が参事官の下級から上級まで歴昇へのぼつた地方庁と、骨牌かるた遊びをする、緑色の切れの掛けてあるつくゑを中心にした倶楽部との外に出でない。一切の事物が平穏に経過して行く。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
音楽には意味はありません、静かな心で凝とその響きに聞き入ればいゝのです。いゝですか、そのつもりで読み返しなどしないでスラスラツと(骨牌かるたを読むやうな調子で)、一息に読み終つて下さい。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
神田の兄哥あにい、深川の親方が本郷へ来て旅籠を取るすうではないから、家業はそれっきりである上に、俳優狂やくしゃぐるいを始めて茶屋小屋ばいりをする、角力取すもうとり、芸人を引張込ひっぱりこんで雲井を吹かす、酒を飲む、骨牌かるたもてあそ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自然と、冒険的に骨牌かるたを打つ気分だった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
骨牌かるた女王クイン
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
四、五人寄添よりそってひたいをつき合せながら、骨牌かるたを切っているものもあれば、乳呑児ちのみごひざの上にして、鏡に向って化粧をしているものもある。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ウンスンというのは、南蛮なんばんカルタ、天正カルタ、坊門ぼうもんカルタなどの類と同じに、そのころ流行はやった一種の骨牌かるたの称呼であります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舞臺には燕尾服を着た男が、退屈し切つたやうな顏に薄笑を浮べて、骨牌かるたを弄んでゐた。それからおまりの赤い球を指の間で隱見させた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
それじゃいつまでたった所で、議論がないのは当り前だろう。そこで僕が思うには、この金貨を元手にして、君が僕たちと骨牌かるたをするのだ。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ばんになると倶楽部くらぶっては玉突たまつきをしてあそぶ、骨牌かるたあまこのまぬほう、そうして何時いつもおきまりの文句もんくをよく人間にんげん
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一男子は笑ひつゝ、さらば我は骨牌かるたの爲めに帶び來れる此金殘らずを置かんと云ひて、その財嚢ざいなうなげうてり。われ。
「シャプリッツキイを覚えていらっしゃるでしょう。あなたはあの人に三枚の骨牌かるたの秘密をお教えになって、勝負にお勝たせになりましたではありませんか」
別れを兼ねての骨牌かるたの会、珈琲店コーヒーてんでの小さな集りなぞがある度に、岸本は行く先で自分の顔の評を受けた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
骨牌かるた酩酊めいていとのために狂ったように興奮して、私がまさにいつも以上の不埒ふらちな言葉を吐いて乾杯をいようとしていたちょうどこのとき、とつぜん自分の注意は
お玉はこわくて泣き出したいのを我慢して、その頃通用していた骨牌かるたのような形の青い五十銭札を二枚、見ている前で出して紙に包んで、黙って男の手に渡した。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
骨牌かるたの会は十二時におよびて終りぬ。十時頃より一人起ち、二人起ちて、見る間に人数にんずの三分の一強を失ひけれども、なほ飽かで残れるものは景気好く勝負を続けたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
紳士達の幾人かはうまやへ行つてしまつて若い紳士達は令孃達と一緒に撞球室で球を突いてゐた。イングラムとリンの二人の未亡人は靜かに骨牌かるたで退屈をまぎらしてゐた。
併し兎に角気の毒なわけですから、お詞添ことばぞへだけは願ひたいのですが。それからイワンが申しましたが、骨牌かるたの時あなたに七ルウベル借用した事がありますさうで。それを
店にはほかにも客がいた。骨牌かるたをしているのが二人、ドミノーズをしているのが二人、勘定台のところに立ってわずかな葡萄酒を永くかかってちびちび飲んでいるのが三人いたのだ。
露西亜の文豪プウシキンは自分が職業的詩人で無いのを見せるために、ひとと話す時には成るべく文学の事なぞは話さないで、馬だの、骨牌かるただの、料理だのの事ばかし話してゐたといふ事だ。
ある時はどこかの見せ物小屋の前に立って客を呼んでいることもあるが、またある時は何箇月立っても職業なしでいて、骨牌かるたで人をだます。どうかすると二三日くらい拘留せられていることもある。
小露西亜ウクライナあたりの地主らしいむんずりと肥えた四十男は先刻から熱心に玻璃窓を通して日没の曠野の光景を一人黙って眺めていたが、やがてポケットから骨牌かるたを出して一人で占ないをやり出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)