驟雨しゅうう)” の例文
暁方あけがたの眠りを覚す暁の驟雨しゅううは何だか木の葉を吹き散す嵐の様に思われたりするので、何だか物淋しく、その音に聴き入るのである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
明日にもなれば、またはもう一時間もすれば、驟雨しゅううが襲うかも知れないし、それからまた続いて何度もやって来るかも知れなかった。
白い驟雨しゅううが、煙のようにふきかけて暮れた宵からである。刻々と夜半にかけて、暴風雨あらしはひどくなってきた。眠りについた人たちが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
クリストフは憤怒ふんぬのあまりあおくなり、恥ずかしくなり、亭主や女房や娘を、締め殺すかもしれない気がして、驟雨しゅううを構わず逃げ出した。
が、折からの驟雨しゅううが晴れて、水々しい山頂をくっきりと披璃はりのような青い空に、聳えさせていた峰々のうるわしさは、忘れません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
突然の高熱、突然の腹痛、突然の煩悶はんもん、それは激しい驟雨しゅううが西風に伴われてあらしがかった天気模様になったその夕方の事だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
驟雨しゅううが襲って来るとあひるは肩をそびやかしたような格好をしてその胸にくちばしをうずめたまま、いつまでもじっとしている。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夜の明け放れる頃には夜来の嵐はしのつくような驟雨しゅううを名残として鳴りをひそめ、ケロリとしたようにすがすがしい朝が一ぱいに訪れていた。
人々は喜んでこの驟雨しゅううに身をさらす。その時、目的の人物の首にまいた布が恐ろしい力で収縮し、その人物はもがきながら息絶えるのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところでこの辺では昨夜の二時ちょっと前ぐらいから電光いなびかりがして一時間ばかり烈しい驟雨しゅううがあったんだが、その足跡は雨に濡れた形跡がない。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人は何の物音も感じないかのごとく、驟雨しゅううの中に、寄り添って立っている。……もう一度最も烈しい電光。……雷鳴なし。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
渠等が労役の最後の日、天油然ゆうぜん驟雨しゅううを下して、万石の汗血を洗い去りぬ。蒸し暑き雑草地を払いて雨ようやく晴れたり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八月も終りに近く、驟雨しゅううが時々襲って来て、朝晩はそよそよと、肌触りも冷やかに海風か吹き通り、銀子は何となし東京の空を思い出していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
するとやがてラジオは小笠原おがさわら島の南東に颱風たいふうが発生した事を報じる。重い湿度はわれわれの全身を包んで終日消散しない。驟雨しゅううが時々やってくる。
が、其処へはいるや否や、雲雀ひばり、目白、文鳥、鸚哥いんこ、——ありとあらゆる小鳥の声が、目に見えない驟雨しゅううか何かのように、一度に私の耳を襲った。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なにしろ驟雨しゅううはまだおさまらず、波浪が高いので、ボートはいくたびか幽霊船に近づきながら、いくたびとなく離れた。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その初めの日は帰途かえり驟雨しゅううに会い、あとの一日は朝から雨が横さまに降った。かれは授業時間のあいだ々を宿直室に休息せねばならぬほど困憊こんぱいしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのうちに春らしい驟雨しゅううが日に一度か二度は必らず通り過ぎるようになった。明は、そんな或日、遠い林の中で、雷鳴さえ伴った物凄い雨に出逢った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
外に出ると驟雨しゅううに洗われた澄み切った空の底に、星が涼しそうに及びがたき希みのように輝いていました。その時私はふと聖者になりたいと思いました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ある日同じ寄宿舎にいる学生七、八人と夕方から宿舎をぬけ出して、そこらを遊びまわって、夜なかに帰って来ると、にわかに驟雨しゅううがざっと降り出した。
時々彼は執りかけた筆を置いて、部屋の窓へ行って見た。驟雨しゅううのまさに来ようとする前のようなシーンとした静かさが感じられた。食堂の方へも行って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世俗の怖れる二百十日とおかの前一日、二三日来の驟雨しゅうう模様の空がその朝になって、南風気みなみげの険悪な空に変り、烈風強雨こもごも至ってひとしきり荒れ狂うていたが
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はるかには暗雲の低迷したそれは恐らく驟雨しゅううの最中であるであろうところの伊吹山のあたりまでをバックに、ひろびろとかすんだうちひらけた平野の青田あおだも眺められた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
まえぶれとして、いつものごとく、驟雨しゅううがやってきました。それは、ぎん細引ほそびきのようにふとあめそそぎました。やぶれたといからは、滝津瀬たきつせみずちました。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その日は午後になって降り出した驟雨しゅううが運よくひけ前にあがった。雨に濡れた低い屋根屋根が西日にテラテラして、どこかで雀が陽気にさえずる声がしたりしている。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
梶は波頭の長く連り襲って来る海を前にした宿の部屋で、背後の水のしたたる岩山の方に向いて坐り、終日そこから動かなかった。驟雨しゅううがときどき岩庭に降り込んだ。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
飯の準備をしているうちに、驟雨しゅううが一としきりあって、雷鳴が近くに聞えたが、夜に入って、星が瞬いた……かと思うと、淡い、軽い霧が、銀河のように空に懸る。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
驟雨しゅうう雷鳴から事件の起ったのを見て、これまた作者常套じょうとうの筆法だと笑う人もあるだろうが、わたくしは之をおもんばかるがために、わざわざ事を他に設けることを欲しない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
愚図々々すれば、石鹸を塗ったばかりの斑人形まだらにんぎょうを残して、いたずらな驟雨しゅううはざあとけぬけて了う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
世帯主しょたいぬしである彼らは、こういう女の狂態におどろきはしなかった。驟雨しゅううのようなその昂奮こうふんの通りすぎるのを待っていた。だからもう心を留めて聞いているのではなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
最後の一枚を残してそこから驟雨しゅううの空と往来とを見ていましたのと、ちょうど両方の間が斜めに向って、見上げても見下ろしても、ぜひ眼のぶっつかる地位でありました。
夕方になると、きまって山を襲う、驟雨しゅううの時間が近づいたとみえ、どこかで雷が鳴っている。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つかねて降る驟雨しゅううしゃくする女がオヤ失礼と軽く出るに俊雄はただもじもじとはしも取らずお銚子ちょうしの代り目と出て行く後影を見澄まし洗濯はこの間と怪しげなる薄鼠色うすねずみいろくりのきんとんを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
日光新緑を射て驟雨しゅうう一過、快。緑のぬれぬれしたる中をからす一羽葉に触れさうに飛んで行く。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
春さめ、さみだれ、しぐれ、驟雨しゅうう、ゆうだち、霧雨、小糠雨こぬかあめ、そのほかにもなおあるであろう。そう云う雨のいろいろな感じのなかには、雨の音がかなりな役目をはたらいている。
雨粒 (新字新仮名) / 石原純(著)
そう周囲が真暗なため、店頭にけられた幾つもの電燈が驟雨しゅううのように浴びせかける絢爛けんらんは、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
颶風ぐふう、狂風が吹き、同じ様に驟雨しゅううが降り、洪水が降り、同じ様に、一時は蘇生の想いをなし更に同じ様に、前に倍する焦熱に苦しめられてヤッと「日の入り」と云う休戦に助けられた。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
数年前に、驟雨しゅうう綜合研究(プロゼクト・シャワー)が、この島でおこなわれたことがある。アメリカの気象学者が主体になり、それにイギリスやドイツの学者も加わっての大計画であった。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その上いつ驟雨しゅううが来るか解らないほどに、空の一部分がすでに黒ずんでいた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中国の江南こうなんの景色、セイロンの落日の景色、仏蘭西のローヌ河畔の木の芽の景色、ムードンの森の驟雨しゅううの景色、独逸ドイツのラインがわの古城の景色、ベルギーのヒヤシンス・チュウリップ等の花畠はなばたけ
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
草萩や角力取草すもうとりぐさが咲いていた。蘆の芽も出た。沖の弁天にも桜が咲いていた。高梨の前のも咲いた。潮干客があった。夕景から驟雨しゅううになり夜はずっと雨だった。今はあがっている。弟から来信。
たちまち、屋根を叩く猛烈な響。湿った大地の匂。さわやかに、何かハイランド的な感じだ。窓から外を見れば、驟雨しゅううの水晶棒が万物の上に激しい飛沫しぶきを叩きつけている。風。風が快い涼しさを運んで来る。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
雨雲を仰ぎながら、旅人の一団が前の街道を走り去ると、それを追って、白い驟雨しゅうういて過ぎた。ほこりをしずめて、まちは銀に光った。かっとまた太陽が照りつけて、けむりのような陽炎かげろうがゆらいだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
驟雨しゅうう多し。青天に葉書を出しに行くにも洋傘コウモリを忘るべからず。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
E・S微風、驟雨しゅうう模様の薄曇。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
ま白き驟雨しゅうう
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
黒い驟雨しゅうう
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
そしてもう配置についた将士の目にも耳にも、前面から地をけてくる驟雨しゅううのごときものがはっきりとつかめていた。敵の顔も見えた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙に生温かい、晴れるかと思うと大きな低い積雲が海の上から飛んで来てばらばらと潮っぽい驟雨しゅううを降らせる天候であった。
二つの正月 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それでも、中庭の向こうに建てられてる家の屋根の上では、この悲しむべき日々の間、驟雨しゅううの下で、職人どもが最後の金槌かなづちを打ち納めていた。