饑饉ききん)” の例文
そして秋になると、とうとうほんとうの饑饉ききんになってしまいました。もうそのころは学校へ来るこどももまるでありませんでした。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
戦争とか豊作とか饑饉ききんとか、すべてある偶然の出来事の発生するでなければ振興する見込のない一般経済界の状態は何を語るか。
「そうだ、奥州は饑饉ききんの名所だってえ話を聞いている、こりゃ、饑饉時の食物だ、餓鬼のつもりで有難く御馳走になっちまえ」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の一家も饑饉ききんたたられ、その日その日の食い扶持ぶちにさえ心を労さなければならなかった。その貧困のありさまは彼の日記にこう書かれてある。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
安政時代、地震や饑饉ききんで迷子がおびただしく殖えたため、その頃あの界隈かいわいの町名主等が建てたものであるが、明治以来ほとんど土地の人にも忘れられていた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
饑饉ききんでみんな貧乏人がたほれて死んでしまふといふ時、お倉にお米や、お金が沢山ある人になつてゝ、みんなにどん/\施しをしてるといふ様なのわ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
また宗教として人間苦の体験が必須の条件であるというならば、饑饉ききん疫病えきびょうとの頻発する当時の生活には、人生の惨苦さんくは欠けていないと答えることができる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
戦争いくさに勝ってペキンを取ってしまったけれど、ペキンが饑饉ききんの時分に自分の国から米、麦あるいは着物など沢山船で持って来てそうして幾百万の人を救うた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
強、弱を圧することなり、暴、正に勝つことなり、その他疾病・饑饉ききん・放火・盗賊等を一掃し去らんとするの希望をしてすでに吾人が眼前に横たわらしめたり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「天保の饑饉ききんの年ですらも、これ程のさびれ方ではなかったと、いち様に申しておりまして厶ります」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
十二歳の春には、もはや真打しんうちとなるだけの力と人気とを綾之助は集めてしまった。綾之助のかかる席の、近所の同業者は、八丁饑饉ききんといってあきらめたほどであった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
近年、天災饑饉ききんの続くのは、これら下民の怨恨が天に通じ、天が為政者に戒告を与えたものである。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼はサイゴンの穀物の集散市場、その灰色の風景のなかの男であった。ドンナイ河に翩々へんぺんと帆かけた米穀輸出船は彼の指揮によって饑饉ききんと、戦禍の彼の本国に積出された。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
その頃、ここらの地方は大饑饉ききんで、往来の旅人りょじんもなく、宿をるような家もありませんでした。
旱魃かんばつ饑饉ききんなしといい慣わしたのは水田の多い内地の事で、畑ばかりのK村なぞは雨の多い方はまだ仕やすいとしたものだが、その年の長雨には溜息をもらさない農民はなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
下界げかいは、戦争せんそうがあったり、地震じしんがあったり、海嘯つなみがあったり、また饑饉ききんがありまして、人間にんげんいく万人まんにんとなくんでいます。けれど、まだなかなかほろびるようなことはありません。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
すべての文学者ぶんがくしや消費せうひする筆墨料ひつぼくれう徴収ちようしうすれば慈善じぜん病院びやうゐん三ツ四ツをつくる事けつしてかたきにあらず、すべての文学者ぶんがくしや喰潰くひつぶこめにく蓄積ちくせきすれば百度ひやくたび饑饉ききんきたるともさらおそるゝにらざるべく
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
饑饉ききんがあるの、地震が起るの、星は空よりち、月は光を放たず、地に満つ人の死骸しがいのまわりに、それをついばむわしが集るの、人はそのとき哀哭なげき切歯はがみすることがあろうだの、実に
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
近頃の研究によると火山の微塵は、明らかに広区域にわたる太陽の光熱の供給を減じ、気温の降下を惹き起すという事である。これに聯関して饑饉ききんと噴火の関係を考えた学者さえある。
塵埃と光 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五十余年前の饑饉ききんの時、或所にて餓死がししたる人の懐に小判百両ありしときゝぬ。
戦争と戦争の噂とを聞くときおそるな、かかることはあるべきなり。されどいまだ終わりにはあらず。すなわち「民は民に、国は国に逆らいて起たん」。また処々に地震あり、饑饉ききんあらん。
故に懲治を受けたる者は饑饉ききんにおいても救われ、戦に出でても死せず、他の獣にも襲わるる事なく、天地万有とあいやわらぐに至り、衣食住において欠くる所なく、子孫相つづいてこの世に栄え
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
賢良方正の士を挙げてこれをたすけ、一片の私心なく半点の我欲なく、清きこと水のごとく、なおきこと矢のごとく、己が心を推して人に及ぼし、民をするに情愛を主とし、饑饉ききんには米を給し
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
地は荒れて、見よ、ここに「饑饉ききん」の足穗たりほ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
饑饉ききん価格にまで騰貴するであろう。
「私は饑饉ききんでみんながぬときし私の足がくなることで饑饉がやむなら足を切っても口惜くやしくありません。」
今突然通商上の鎖国をすれば、チベットは必ず大饑饉ききんを来たすかあるいは内乱が起るかするであろうと思う。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
六左衛門が米で払ったのはそのためらしいが、郷倉は饑饉ききんに備える非常用の貯蔵米であり、どこの藩でも同じらしいが、これをひらくのは重臣の協議と、藩主の許可がなければならない。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「寛保二年、うるう十月の饑饉ききん、武州川越、奥貫おくぬき五平治、施米ほどこしまいの型とござあい——」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五十余年前の饑饉ききんの時、或所にて餓死がししたる人の懐に小判百両ありしときゝぬ。
一度は天保の饑饉ききんのときにこの尾根一ぱいに野老芋ところ蔓延はびこって、村民はこれを掘って餓えを凌ぐことが出来たという。また、餅に混ぜて食えば食われる土が岩層の間から採れたともいう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただしかし、天災に対する抵抗力の弱い当時の農耕は、民衆の生活にしばしば不時の変調を起こさせた。気候激変、長雨、洪水、暴風、旱魃かんばつ、虫害、それらのあるたびごとに饑饉ききんが起こる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
鳥目ちょうもくとてはござらぬが、饑饉ききんのおりから米飯がござる。それもわずかしかござらぬによってわしの分だけ進ぜましょう」——急いでくりやへ駈け込んで湯気いきの上がっている米飯を鉢へ移して持って来た。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さなきだにこの頃一体に食物が高価になって居るのに、最も多い遊牧民が金を得ることが出来んとあってはその結果は知るべし、必ず饑饉ききんが起るに違いない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
疾翔大力さまはもとは一疋のすずめでござらしゃったのぢゃ。南天竺なんてんぢくの、あるむねまはれた。ある年非常な饑饉ききんが来て、米もとれねば木の実もならず、草さへ枯れたことがござった。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「なにか大水とか、大きな火事とか、地震とか、饑饉ききんかなにか起こる前兆よ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子路率爾そつじとしてこたえて曰く、千乗の国大国の間にはさまりて加うるに師旅しりょを以てしかさぬるに饑饉ききんを以てせんとき、ゆうこれをおさめば、三年に及ばんころ、勇ありみちを知らしめん。夫子之をわらう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
疾翔大力さまはもとは一疋の雀でござらしゃったのじゃ。南天竺なんてんじくの、あるむねまわれた。ある年非常な饑饉ききんが来て、米もとれねば木の実もならず、草さえれたことがござった。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
歴史を読めばいたるところに凶作と饑饉ききんの惨害の記録をみつけるだろう、つまり日本で稲を作るということが無理なんだ、それも米食が人間の食法として最もすぐれたものなら仕方がないが
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それはマグノリアの木にもあらわれ、けわしいみねのつめたいいわにもあらわれ、谷のくら密林みつりんもこのかわがずうっとながれて行って氾濫はんらんをするあたりの度々たびたび革命かくめい饑饉ききん疫病やくびょうやみんな覚者の善です。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
地味が違うから稲を作ることは原則として無理だ、その証拠は史書をみたまえ、殆んど全国的凶作と饑饉ききんの例は挙げる煩に耐えないほど多い、にも拘らず我われは米から離れることを欲しないで
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)