頭蓋骨ずがいこつ)” の例文
そこでデュブア氏はなおていねいに土を掘ってゆくと、先に奥歯の発見された所から約三尺ばかり隔てた場所で頭蓋骨ずがいこついただきを発見した。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
頭蓋骨ずがいこつをひらき、中から透明な針金細工はりがねざいくのようなものを取りだし、それを手のひらにのせて、蜂矢探偵の目のまえへさしだした。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは彼の疲れ切って働けなくなった脳髄が、頭蓋骨ずがいこつの空洞の中に作り出している、無限の時間と空間とを抱擁ほうようした、薄暗い静寂であった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
後ろを振り向くと、下からみどりのしたたる束髪そくはつ脳巓のうてんが見える。コスメチックで奇麗きれいな一直線を七分三分の割合にり出した頭蓋骨ずがいこつが見える。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭には毛がなく、頭蓋骨ずがいこつが見えており、その上には血管が見えていた。手にはぶどうづるのようにしなやかで鉄のように重いむちを持っていた。
血管の中の血が一時にかっと燃え立って、それが心臓に、そして心臓から頭にき進んで、頭蓋骨ずがいこつはばりばりと音を立ててれそうだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
並みはずれに大きな頭蓋骨ずがいこつの中にはまだ燃え切らない脳髄が漆黒なアスファルトのような色をして縮み上がっていた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だがしかし、足は既に窓から離れ、身体は一直線に落下して居る。地下には固い鋪石。白いコンクリート。血にまみれた頭蓋骨ずがいこつ! 避けられない決定!
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「おのれ、誰にたのまれたっ。いえっ、いわぬかっ——」右衛門尉のこぶしが、曲者の頭蓋骨ずがいこつを、三つ四つなぐった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の頭蓋骨ずがいこつの中に隠し場所が登録されているに違いないこと、さればわれらはあきらめた風態を装ってここをひきあげ、ひそかにかの女を監視すること
ちかぢかとかがみこんで、なおもしさいに老婆をあらためて見ると、頭蓋骨ずがいこつが粉砕されて、おまけに少し脇の方へずっているのが、明瞭めいりょうに見わけられた。
このしまつよい、幾人いくにんかのかしらというようなものは、みんな二人ふたりよりは年上としうえでありました。そして、つよいものほど、頭蓋骨ずがいこつをたくさんいえなかならべていました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
藪の・ずうっと奥の・薄暗く湿った辺なので、今迄人目に付かなかったのだろう。そこらを掻廻している中に、又、別の頭蓋骨ずがいこつ(今度は頭だけ)が見付かった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もし彼にシューバルを向かい合わせたら、きっとこいつの憎い頭蓋骨ずがいこつを拳でたたくことはできただろう。
火夫 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
僕のにつかずに頭蓋骨ずがいこつがあり、この頭蓋骨の輪郭だけではなく、大きさまでが、僕の絵によく似ている、という事実に含まれた不思議な暗合にたいする驚きだった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ほねといつても、たゞ頭蓋骨ずがいこついたゞき、いはゆるあたまさら部分ぶぶんひだりもゝほね一部分いちぶぶん臼齒きゆうしたばかりでありますが、これを調しらべてると、どうしても今日こんにち類人猿るいじんえんとはちがつて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ゆうべは十時に床へはいって、けさ九時に目がさめたが、あんまり寝すぎたもんで、脳みそが頭蓋骨ずがいこつに、べったりくっついたような気がした——とまあいった次第でな(笑う)。
自分の頭蓋骨ずがいこつの内部でも凝視しているように、じっと据えて、熱に浮かされてるように、早口に、熱心に、そして、一人ひとり小火ぼやを消しでもしてるようにあせって、あわてて話した。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その議事堂の格子窓こうしまどからは、そのむかし皇帝こうてい戴冠式たいかんしきのときにあぶり肉にされて、人々のご馳走ちそうにされた、角のついたままの牡牛おうし頭蓋骨ずがいこつが、いまもなおきでているのですが、しかし
人の三倍も四倍も復讐心ふくしゅうしんの強い男なのであるから、また、そうなると人の五倍も六倍も残忍性を発揮してしまう男なのであるから、たちどころにその犬の頭蓋骨ずがいこつを、めちゃめちゃに粉砕ふんさい
ピストルのたまが南田の頭蓋骨ずがいこつを貫通し、枕の木をつらぬいて床におちたのを、あとで、南田家の書斎の壁に叩きこんでおいたというのです。柔かいものを当てて、金ヅチで叩いたのです。
妻に失恋した男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
猿の頭蓋骨ずがいこつや、竜のおとし児の黒焼を売る黒焼屋があったり、ゲンノショウコやドクダミを売る薬屋があったり、薬屋の多いところだと思っていると、物尺ものさしやハカリを売る店が何軒もあったり
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私の頭蓋骨ずがいこつ肋骨ろっこつはライオンの歯の間で、き肉のように砕かれる、私は頭をくわえられたまま、胴体や手足をだらりとぶら下げて無抵抗にまれている。不思議にこの想像は快いものであった。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
小さな頭蓋骨ずがいこつが、くだけて、血と少しばかりの脳味噌が流れ出している。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
後頭部の傷のごときは、血のたくさん出た様子はなくても、皮膚がかなりに破壊されていましたから、一見致命傷であるかのように想像されますが、内部の頭蓋骨ずがいこつは損傷を受けておりませんでした。
室の装飾としては、幾つかのドイツ語の四行詩、春にという感傷的なのとサン・ジャックの戦いという愛国的なのと、二つの着色石版画、それから、根本に一つの頭蓋骨ずがいこつがついてる十字架があった。
南部牛の頭蓋骨ずがいこつは赤い血に染みたままで、片隅に投出ほうりだしてあったが、屠手が海綿でその血を洗い落した。肉と別々にされた骨の主なる部分は、薪でも切るように、例の大鉞で四つほどに切断せられた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
頭蓋骨ずがいこつが笑う
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
金博士の頭蓋骨ずがいこつ粉砕ふんさいせられ、こんどこそ息の根がとまったろうと思われたが、あにはからんや、粉砕したのはシャンデリアだけであった。
親方はあかたまった十本の爪を、遠慮なく、余が頭蓋骨ずがいこつの上に並べて、断わりもなく、前後に猛烈なる運動を開始した。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野獣のような怪老人が、まさかりを振りかぶって、山侍の頭蓋骨ずがいこつをたたき廻った。主水の逃げ上がっていた樹は、たちまち、怪老人の鉞で根元からられた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日太陽が西に傾いたころ、メーヌ大通りのまばらな行ききの者は、頭蓋骨ずがいこつ脛骨けいこつや涙などの描いてある古風な棺車の通行に対して、みな帽子をぬいだ。
まさに頭蓋骨ずがいこつを斬割った手耐え、(これは蝙也が鉛の塊を投付けたのである。その手耐えは実に骨へ斬込むのに似ているという。武太夫もまったくそう思った)
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
以上は言わばたわいもない春宵しゅんしょうの空想に過ぎないのであるが、しかし、ともかくもわれわれが金城鉄壁と頼みにしている頭蓋骨ずがいこつを日常不断に貫通する弾丸があって
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人間にんげん頭蓋骨ずがいこつよりか、あのぴかぴかひかるものにえがいてあるあたまのほうがいい。あれをむねのあたりにげていたら、いちばんえら人間にんげんになれるのだ。」というかんがえを
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あれの頭蓋骨ずがいこつを粉々にするつもりなんだろうか……ねばねばする暖い血の中をすべりながら、錠前をこわして、盗みをするんだろうか? そしてぶるぶる震えながら
現に先に述べた頭蓋骨ずがいこつの出たその地層からただ一つだけ燧石プリントが発見されたが、おもしろいことには、その石器は自然のままの物ではなくて、確かに造られたものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
頭蓋骨ずがいこつは、その外側を鍍金ときんして髑髏杯どくろはいを作るため、右手は、つめをつけたまま皮をいで手袋てぶくろとするためである。シャクの弟のデックの屍体もそうしたはずかしめを受けて打捨てられていた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この隙間の真ん中に白い点を認めたが、初めはそれがなんであるか見分けがつかなかった。望遠鏡の焦点を合わせて、ふたたび見ると、今度はそれが人間の頭蓋骨ずがいこつであることがわかった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
躊躇ちゅうちょせず、ドアをあけると、部屋には朝日が一ぱいに射し込んでいて、先生は、上肢骨じょうしこつやら下肢骨やら頭蓋骨ずがいこつやら、すこぶる不気味な人骨の標本どもに取巻かれ、泰然たいぜんと新聞を読んで居られた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
このあいだ打ち砕かれた老職工の頭蓋骨ずがいこつ罵倒ばとうする声……。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あっ、いけねえ。脳みそに、さわっちゃった。おれのあたまは、頭蓋骨ずがいこつがこわれて、ぐしゃぐしゃになっているぞ。あ、あさましや……」
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
千代子はそのなかで、例の御供おそなえに似てふっくらとふくらんだ宵子の頭蓋骨ずがいこつが、生きていた時そのままの姿で残っているのを認めて急に手帛ハンケチを口にくわえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭蓋骨ずがいこつの下に烈火が燃え立ってるような時も人にはあるものである。マリユスはちょうどそういう時にさしかかっていた。もう何一つ願わず、何一つ恐れなかった。
たとえば頭蓋骨ずがいこつだけでも毎分二三百発、一昼夜にすれば数十万発の微小な弾丸で射通されている。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「かくのごとく」と、いきなり薙刀なぎなたを舞わせ、覚明の頭蓋骨ずがいこつを横に狙って、ぶんと払ってきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが一九一一年の秋、氏は同じ場所から出た発掘物の中より、先に発見した頭蓋骨ずがいこつの他の部分で、ひたいに相当する大きな骨と、鼻から左の目にかけての部分に相当する骨とを発見した。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
その頭蓋骨ずがいこつはどうしたのかといいますに、たがいに武力ぶりょくあらそわなければならなかったり、また、くちでははなしがつかずに、ちからできめなければならなかったときに、たたかってたおした相手あいてあたまでありました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
巨大な体躯たいくとたくましい健康とを持った一砲兵士官が、悍馬かんばから振りおとされて頭部に重傷を負い、すぐ人事不省に陥った。頭蓋骨ずがいこつが少し破砕されたのであるが、べつにさし迫った危険もなかった。
が容体をはなすと、甘木先生は僕の舌をながめて、手を握って、胸をたたいて背をでて、目縁まぶちを引っ繰り返して、頭蓋骨ずがいこつをさすって、しばらく考え込んでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)