頑是がんぜ)” の例文
けれども、まだなんといっても頑是がんぜない子どもでしたから、あいさつはあいさつであっても、少々ばかりふるった口上でありました。
置いて行けといわれて、娘はあおくなった。頑是がんぜない子供が、夜が明ければ空腹を叫ぶので、止むに止まれず親戚へお縋りに行った。
食べもの (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
……このソーニャちゃんも、あのころはまだ、ほんとにお小さくって、頑是がんぜなくって。……さあさ、おいでなさいまし、旦那さま。……
茂「お前は俄かに怜悧りこうに成ったの、年がかなくって頑是がんぜが無くっても、己が馬鹿気て見えるよ、ハアー衆人みんなに笑われるも無理は無い」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そんなものを見るために一銭二銭の金子かねを払って嬉しがっているのは多く頑是がんぜない子供ですが、まことに浅ましい事ではございませんか。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
朱丸は頑是がんぜない六歳だけに、母の膝によって眠っていたが、濃い睫毛まつげ下瞼したまぶたを蔽うて、どこやらに寂しそうなところがあった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
写生文家の人間に対する同情は叙述されたる人間と共に頑是がんぜなく煩悶はんもんし、無体に号泣し、直角に跳躍し、いっさんに狂奔きょうほんするていの同情ではない。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、頑是がんぜなく聞分けのない子供は一週間と友人の家に居つかなかった。結局岸本は二人の子供を手許てもとに置き、一人を郷里の姉の家にたくした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だって、水生にうちへ来て遊んでくれと言われているのですもの」彼は大きな黒い瞳をパッチリと見開いて、頑是がんぜなく考え込んでいるのであった。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
良人に残されて孤屋こおくを守る妻や——父を慕って夜泣きする頑是がんぜない子達や——年老いて子に先立たれてゆく親達や——
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは自分でさえ何の意味か判らないほど切ないまぎれの譫言うわごとのようなものであった。頑是がんぜない息子は、それでも「あい、——あい」と聴いていた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どうかすると彼女は、頑是がんぜない滋幹をたしなめるのと同じ口調で父をたしなめたりしたが、彼女が最もやかましく云ったのは父の飲酒のことであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まるで四つか五つの幼児のように頑是がんぜなくわがままになってしまった貞世の声を聞き残しながら葉子は病室を出た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その頑是がんぜない駄々だだっ子のような私どもを、ながい目で見守りつつ、いつも救いの手をさしのべるのが菩薩です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
同一なる言語を使用しても言う人は子供の頑是がんぜなきところを述べんとの心なるに、聞く人はおそらくみずからしばしば唄った甚句じんく端唄はうたを思い出したのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
相手はなにしろまだ頑是がんぜない子供ですからなかなか返辞をしやあしません、じれったいけれどもこっちも乗りかかった舟ですからそこは根気よくやりました。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
頑是がんぜない子供がやっと積み上げた小石の塔を、鉄の棒を持った鬼が出て来て、みんな突きくずすのじゃ。
狂い果てた相手をだまして、かたきの子をわが手に抱き取りはしたものの、そして、西も東もしらない、頑是がんぜなく、いたいけなこのむつきの子供に、罪も怨みもないと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
単に頑是がんぜない聴衆の好奇心をみたすためならば、入って行く必要もなかったろうと思う説明に入っていることである。これには何か隠れたる約束があるのではないか。
この界隈かいわいを朝夕に往復し、町から町、店から店と頑是がんぜもなくて歩いたもの、今日のように電車などあるわけのものでなく、歩いて行って歩いて帰ることでありますから
丹誠一つで着させても着させえなきばかりでなく見ともないほど針目がち、それを先刻さっき頑是がんぜない幼な心といいながら、母様其衣それは誰がのじゃ、小さいからはおれ衣服べべ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
折柄、賑やかな新宿の騒ぎ唄をよそに頑是がんぜない子を抱きしめてこの正直一途の爺やがホロリホロリと涙しながら角筈さして、進まぬ足を引き摺っていく辺りは、無韻の詩である。
に人生の悲しみは頑是がんぜなき愛児を手離すより悲しきはなきものを、それをすらいて堪えねばならぬとは、これもひとえに秘密をちぎりし罪悪の罰ならんと、われと心を取り直して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
送ってきた侍達も、わが身のいとしさに、暇を告げて帰ってしまうと、残っているのは、頑是がんぜない子供ばかりである。話相手もないまま、自然想いは、夫大納言の身の上にとんでゆく。
統計の示すところによると、親のない子供の死亡率は五十五パーセントにおよんでいる。僕は繰り返して言う、問題は妻の上に、母親の上に、若い娘の上に、頑是がんぜない子供の上にある。
それ以来、私は毎日のように守田座へ行きたくなったのです。それで浅草へお参りに行くと云っては、何も知らない頑是がんぜのない綾ちゃん達のお母さんを、連れて守田座へ行ったものです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何も知らぬ頑是がんぜない私に、宥恕ゆうじょうような口調くちょうで言ったのを私は覚えている。
この犬一ぴきが、彼等——老いぼれた不具者と頑是がんぜない幼児おさなご——にとっては、ただ一人の稼ぎ人、ただ一人の友達、ただ一人の相談相手、杖とも柱ともたのむ、ただ一つの頼りなのでした。
と、いいながら、頑是がんぜない子供のように泣き出した。
ちょうど村の子供の間にはおけたがを回して遊び戯れることが流行はやって来たが、森夫も和助もその箍回しに余念のないような頑是がんぜない年ごろである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
頑是がんぜないこの一子まであの世へつれてゆくに忍びぬので、煩悩とおわらいもあろうが、家臣の端へなと置かれて、どうか成人までおはぐくみをねがいたい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前様めえさまア留守勝でうちの事は御存じござんねえが、悪戯いたずらはたすかは知らねえが、頑是がんぜがねえとおにもなんねえ正太郎だから、少しぐれえの事は勘弁して下さえ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
所詮しょせんかの女は頑是がんぜないこどもの大人である。わたしはこの子供に向ってどの手でもっても争う術を知らない。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
叔母の申しますのには子供でもなければなんとか話の持っていきようもあるけれどもお遊さんにはこれから養育していかなければならない頑是がんぜない子供がある。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また唯一のあととり息子たるまだ頑是がんぜないこの拙者の耳に、タコの出るほど言い聞かせていたのは
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然し北国の寒さは私たち五人の暖みでは間に合わない程寒かった。私は一人の病人と頑是がんぜないお前たちとをいたわりながら旅雁りょがんのように南を指してのがれなければならなくなった。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「知れなかったのは当然ですよ、だって私からそんな物を買ったなどということがわかれば、どんな罰をくうかもしれないでしょう、とにかくこっちはまだ頑是がんぜない子供なんですから」
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
健三を物にしようという御常の腹の中には愛に駆られる衝動よりも、むしろよくに押し出される邪気が常に働いていた。それが頑是がんぜない健三の胸に、何の理窟なしに、不愉快な影を投げた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうであろ、いかに頑是がんぜないころであったにいたせ、生みの母御の、知死期ちしごの苦しみを、ひしと身にこたえなかったはずがない——かの三斎どのこそ、父御ててごを陥れたのみではなく、母御を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しかも、盗んでさらって売ったものは、頑是がんぜない子どもだというのでした。
けているものだ。末々、よいさむらいになるだろう。松千代の友だちにはちと頑是がんぜなさ過ぎるが、よう育ててやれよ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの子に聞いても頑是がんぜのない七歳なゝつ八歳やっつの子供ゆえ何も分らず、親類は知れず、仕方がないから江戸へつれて行って私の娘にして育てるのは当然あたりまえじゃありませんか
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぶり返す度に母は愈々いよいよこどものように頑是がんぜなくなって極度に死を惧れながら、食慾はつつしめないのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と、その時案内の車夫は、橋の欄干らんかんから川上の方をゆびさして、旅客のつえをとどめさせる。かつて私の母も橋の中央にくるまを止めて、頑是がんぜない私をひざの上にきながら
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
子供こどもきなおはつ相変あいかわらず近所きんじょいえから金之助きんのすけさんをいてた。頑是がんぜない子供こどもは、以前いぜんにもまさる可愛かわいげな表情ひょうじょうせて、袖子そでこかたにすがったり、そのあとったりした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
頑是がんぜなく、今は何も知らねえが、今に泣かされることだろう……と米友は身にツマされてくると、自分たちというものと、ムク犬と、それからこの子熊との間の境がわからなくなり
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一寸ちよつと聞くと丸で頑是がんぜない小供の云ひさうな事であるが、よし子の意味はもう少し深い所にあつた。研究心の強い学問きの人は、万事を研究する気で見るから、情愛が薄くなる訳である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世に質子ちしの身上ほど不愍ふびんなものはないと思っていたが、それはまだ世間を知らないし頑是がんぜないところもある。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翁は頑是がんぜない子供が、てれながら駄々を捏ねるように、掌に拳を突き当てつつ俯向うつむき勝ちにいった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは春部氏祖五郎殿の申さるゝが至極もっともかと存じます、菊様はいまだお四才よっつで、何のおわきまえもない頑是がんぜない方をお世嗣よとりに遊ばしますのも、と不都合かのように存じます
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)