雑木林ぞうきばやし)” の例文
旧字:雜木林
唯潔癖な彼女は周囲の不潔に一方ひとかたならずなやまされた。一番近いとなりが墓地に雑木林ぞうきばやし、生きた人間の隣は近い所で小一丁も離れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まだその比の早稲田は、雑木林ぞうきばやしがあり、草原くさはらがあり、竹藪たけやぶがあり、水田があり、畑地はたちがあって、人煙じんえん蕭条しょうじょうとした郊外であった。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ぼくつけておいた、いいものをってきてあげるから、ここにっていたまえ。」と、少年しょうねん雑木林ぞうきばやしけてはいりました。
銀のペンセル (新字新仮名) / 小川未明(著)
村から少し離れた山のふもとに、松やかしわやくぬぎやしいなどの雑木林ぞうきばやしがありました。秋のことで、枯枝かれえだ落葉おちばなどがたくさん積もっていました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
私はよっぽどそのまま引っ返そうかと思った時分になって、雑木林ぞうきばやしの中からその見棄みすてられた家が不意に私の目の前に立ち現れたのであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
道の片方は竹藪たけやぶ雑木林ぞうきばやしで、まばらに酒屋とか、八百屋、雑貨屋などが並んでいる。それらの家の軒先にも、人が出て、その騒ぎを眺めていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
丘のうえには昼でも暗い雑木林ぞうきばやしが繁っていて、その奥の小さい池のほとりには古い弁天堂のあることを澹山は知っていた。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しばらくは雑木林ぞうきばやしの間を行く。道幅は三尺に足らぬ。いくら仲がくても並んで歩行あるく訳には行かぬ。圭さんは大きな足を悠々ゆうゆうと振って先へ行く。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この向うの雑木林ぞうきばやしをぬけようとしていると、そのとき、あっという間もなく、頭の上からなんか大きな硬いものが落ちてきて、兄ちゃんの左脚ひだりあしにあたったのよ。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、もう良平はその時には、先に立って裏庭をけ抜けていた。裏庭のそとには小路こうじの向うに、木の芽のけぶった雑木林ぞうきばやしがあった。良平はそちらへ駈けて行こうとした。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
部屋の前には、露台のような感じの広い縁側えんがわに、一室に二ヶ位の割合で籐椅子とういすが置かれ、そこから旅館の庭の雑木林ぞうきばやしを越して、湖水の全景を眺めることが出来るのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
堤の南は尾久おぐから田端たばたにつづく陋巷ろうこうであるが、北岸の堤に沿うては隴畝ろうほと水田が残っていて、茅葺かやぶきの農家や、生垣いけがきのうつくしい古寺が、竹藪や雑木林ぞうきばやしの間に散在している。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
灌木かんぼくと雑草に荒れたくさむらは、雑木林ぞうきばやしから雑木林へと、長い長い丘腹きゅうふくを、波をうって走っていた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
突風とっぷうに見まわれた紙屑かみくずか、白日はくじつに照らされた蜘蛛くもの子のように、クルクル舞いをして呂宋兵衛とその手下ども、スルスルと土手草どてくさへとびついて、雑木林ぞうきばやしの深みへもぐりこんだかと思うと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左手は、松林まつばやし雑木林ぞうきばやしがつづいています。そこには、ひぐらし、みんみん、あぶらぜみなどがにぎやかにないています。右手は青々としたたんぼで、風がわたるたびに青い波がながれます。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
家を指して、雑木林ぞうきばやしの間を引返して行くと、門の内に家の図を引いている人がある。やはりこの郊外に住む風景画家だ。お雪は入口のところに居て、どの窓がどの方角にあるなどと話し聞かせていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただきのこだけは、その雑木林ぞうきばやしの中に、毎朝一面にはえていました。それを子供達は、「お山の爺さんありがとう!」と言いながら、一つひとつ取りました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
最早もう人気ひとけは全く絶えて、近くなる時斗満の川音を聞くばかり。たかなぞ落ちて居る。みちまれに渓流を横ぎり、多く雑木林ぞうきばやし穿うがち、時にじめ/\した湿地ヤチを渉る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのうちにちょとした雑木林ぞうきばやしの中でじぶんていた麦藁帽子が見つかったので、そのあたりの草の中を捜していると、畳一枚ぐらいの処に草のよれよれになった処があって
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しばらく尾行して行くと、恩田は街道をそれて、雑木林ぞうきばやしの中の細道へ曲がった。そのまばらな雑木林のはるか向こうに、星空をくぎって、一とむらの森のようなものがある。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まどからそとると、あたりの田圃たんぼや、雑木林ぞうきばやしは、まだ冬枯ふゆがれのしたままであって、すこしもはる気分きぶんただよっていなかったのです。山々やまやまには、ゆきしろひかっていました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雑司ぞうし鬼子母神きしもじん高田たかた馬場ばば雑木林ぞうきばやし、目黒の不動、角筈つのはず十二社じゅうにそうなぞ、かかる処は空を蔽う若葉の間より夕陽を見るによいと同時に、また晩秋の黄葉こうようを賞するに適している。
双方に気合きあいがないから、もう画としては、支離滅裂しりめつれつである。雑木林ぞうきばやしの入口で男は一度振り返った。女はあとをも見ぬ。すらすらと、こちらへ歩行あるいてくる。やがて余の真正面ましょうめんまで来て
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この三年間、自分は山の手の郊外に、雑木林ぞうきばやしのかげになっている書斎で、平静な読書三昧さんまいにふけっていたが、それでもなお、月に二、三度は、あの大川の水をながめにゆくことを忘れなかった。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その大抵たいていが三四十年前に外人の建てたと言われる古いバンガロオが雑木林ぞうきばやしの間に立ちならんでいたが、そこいらの小径こみちはそれが行きづまりなのか、通り抜けられるのか、ちょっと区別のつかないほど
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
芳郎はじぶんの家に沿うた坂路さかみちを登っていた。その附近の地所は皆葛西家の所有で、一面の雑木林ぞうきばやしであったが、数年ぜんにその一部分を市へ寄附して坂路を開鑿かいさくしたものであった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けると、雑木林ぞうきばやしのこちらへえだに、からすがきてまって、いていました。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
居合わした主人は、思わず勃然むっとして、貰う者の分際ぶんざい好悪よしあしを云う者があるか、としかりつけたら、ブツ/\云いながら受取ったが、門を出て五六歩行くと雑木林ぞうきばやしに投げ棄てゝ往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
山下さんのひろいやしきは、世田谷せたがや区の経堂きょうどうにありました。庭が三千平方メートルもあるのです。ざしきの前の築山つきやまのあるりっぱな庭のほかに、うらてに、雑木林ぞうきばやしにかこまれた空地があります。
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
キチ、キチといって、小鳥ことりが、けたたましくいてうしろの雑木林ぞうきばやしなかりました。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
岩の多い雑木林ぞうきばやしとなって、径は小さな谷川の流れへ出た。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そばに、雑木林ぞうきばやしがあって、そのちた小枝こえだかぜすっているのでした。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)