野路のみち)” の例文
もんはなれて、やがて野路のみちかゝところで、横道よこみちからまへとほくるまうへに、蒋生しやうせい日頃ひごろ大好物だいかうぶつの、素敵すてきふのがつてた。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人と話しながら、あたまの中でほかのことを考えるよりも、お高は野路のみちでも一人でたどって考えたいことを考えたかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
野路のみち山路やまみち景色けしきを見ても、薫が宇治へ来始めたころからのことばかりがいろいろと思われ、総角あげまきの姫君の死を悲しみ続けて目ざす家へ弁は着いた。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
また、野路のみちへゆくとしろばらのはないて、ぷんぷんにおっていることなどが、しみじみとかんがされて、いっそうふるさとがなつかしかったのです。
気にいらない鉛筆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
獅子や驢馬ろばと共同生活を営んでゐた仏蘭西の女流画家ロザ・ボナアルは、何処に一つ女らしいところのない生れつきで、夕方ゆふかた野路のみちでも散歩してゐると野良のらがへりの農夫達ひやくしやうだち
昔風むかしふうもんはひると桑園くはゞたけあひだ野路のみちのやうにして玄關げんくわんたつする。いへわづか四間よま以前いぜんいへこはして其古材そのふるざいたてたものらしくいへかたちなしるだけで、風趣ふうちなにいのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
むかし、一人の旅人が、科野しなのの国に旅して、野路のみちを踏みたがへ、犀川さいがはべりへ出ました。むかうへ渡りたいと思ひましたが、あたりに橋もなし、渡も見えず、困つてをりますと
狐の渡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
松明たいまつの火を消すほどの強雨つよぶりでも無いのを幸いに、いずれも町を駈け抜けて、隣村の境まで来て見ると、暗い森、暗い川、暗い野路のみち、見渡す限りただ真黒な闇にとざされて、天地寂寞せきばく
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は幼い時分に、春先の野路のみちに、暖かい陽光を浴びて、ちょろちょろと遊んでいる蜥蜴とかげに、石を投げつけた事があった。するとその尾が切れて、ぴんぴんとその辺をねまわった。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それ以前にも三味線しゃみせんを肩に載せ、足駄あしだばきにねエさんかぶりなどという異様な行装こうそうで、春の野路のみちを渡り鳥のごとく、わめきつれてくる盲女の群があって、これも尋ねるとみな越後から来たとっていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
野路のみち朝風あさかぜあしかるく、さつ/\とぎて、瓜井戸うりゐど宿やどはひつたのが、まだしら/″\あけで。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さういふなかには、肝腎の猟そのものよりも、甲斐々々しい猟服を着込むで霧の深い野路のみちを口笛を吹きながら急ぐ、猟人かりうどらしい気持が好きで/\溜らぬ人達が少くなささうだ。
青年はしばし四辺あたりを見渡して停止たたずみつおりおり野路のみちよぎる人影いつしか霧深き林の奥に消えゆくなどみつめたる、もしなみなみの人ならば鬱陶うっとうしとのみ思わんも、かれはしからず
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
雖然けれども野路のみち行暮ゆきくれて、まへながれのおとくほど、うらさびしいものはい。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
終日ひねもす家にのみ閉じこもることはまれにて朝に一度または午後に一度、時には夜に入りても四辺あたり野路のみちを当てもなげに歩み、林の中に分け入りなどするがこの人の慣らいなれば人々は運動のためぞと
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それは栗原主殿頭とのものかみといふ男で、この男は女房をも一人持つてゐたが、その女房よりも、地震よりも、蛙の方が怖ろしかつた。ある時ともやつこを一人連れて野路のみちを歩いてゐると、唐突だしぬけ蝦蟇がま出会でくはした。
……じついただけで。わたしおぼえたのは……そんな、そ、そんなしからん場所ばしよではない。くに往復ゆきかへり野路のみち山道やまみちと、市中しちうも、やままはりの神社佛閣じんじやぶつかくばかり。だが一寸ちよつとこゝに自讚じさんしたいことがある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女どもが云つた呪詛まじないのやうなことばすごし、一足ひとあしむねを離れるが最後、岸破がばと野が落ちての底へ沈まうも知れずと、爪立足つまだてあしで、びく/\しながら、それから一生懸命に、野路のみちにかゝつてげ出した
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)