都々逸どどいつ)” の例文
「何しろお柳と來ては、一とかどの女學者で、四書五經がチヤンチヤラ可笑しく、唐天竺の都々逸どどいつに節をつけて、寢言に讀み上げる——」
都々逸どどいつの声などがそっちから聞えて、うるさく手が鳴った。誰かが、「ちょッ」と舌うちして、鼻唄はなうたうたいながら起って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
俳句のリズムと都々逸どどいつのリズムとが、「いき」の表現に対していかなる関係を有するかは問題として考察することができる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
もうヘベレケに酔っ払った吉原よしわら帰りのお店者たなものらしい四五人づれが、肩を組んで調子外れの都々逸どどいつ怒鳴どなりながら通り過ぎた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その頃故エドウィン・アーノルドが東京に来寓し、種々筆した内に「初め冗談中頃義理よ、今じゃ互いの実と実」てふ都々逸どどいつを賞めて訳出した。
されど数年間文学専攷せんこうの結果は、余の愚鈍をして半歩一歩の進歩を為さしめたりと信ず。少しく文字ある者は都々逸どどいつを以て俚野りやすべしとなす。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
義雄は申しわけに鶴次郎と一緒にへたの端唄はうた都々逸どどいつを歌つたが、實際の氣分は重苦しいので、それを醉ひにまぎらし
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
部屋へ帰ったら、まだ講話は始まらず、かっぽれが、ベッドにひっくりかえって、れいの都々逸どどいつなるものを歌っていた。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「あんたが水商売でわては鉱山やま商売や、水と山とで、なんぞこんな都々逸どどいつないやろか」それで話はきっぱり決った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
面白いことにはその歌の半数以上が、みねを隔てた長久保ながくぼ新町しんまちあたりで、妓女ぎじょの歌っていた都々逸どどいつの文句であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
のような、つまり、近世民謡の流行形式である都々逸どどいつ形式のようなものにまで変ってきた。そして更に、どしどし新しい体が生れようとしているのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
お菊ちゃんは、自分は杯へ手も触れないくせに、人へすのは好きだった。酔うと、武市はたしなむ古詩を微吟びぎんし、桂は、即興の都々逸どどいつを作って見せたりした。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と色でまとまる壮佼等わかものども、よしこの都々逸どどいつ唱い連れ、赤城の裏手へ来たりしが、ここにて血のあと途断とぎれたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいのおさえのという蒼蠅うるさい事のないかわり、洒落しゃれかつぎ合い、大口、高笑、都々逸どどいつじぶくり、替歌の伝受など、いろいろの事が有ッたが、蒼蠅うるさいからそれは略す。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
得たりとそこへ飛び込んでいって無理にその婆さんに都々逸どどいつを弾いてもらって二つ三つ歌っていたら
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
いたって貧乏なケチな店だったが、『金毘羅利生記こんぴらりしょうき』を出版してマンマと失敗した面胞にきびだらけの息子むすこが少しばかり貸本屋かしほんや学問をして都々逸どどいつ川柳せんりゅうの咄ぐらいは出来た。
「晴れて嬉しい新世帯」都々逸どどいつのような見だしの下に、新夫婦が睦じそうにさし向いになっている。やがて口論の場面が来、最後には奇想天外的に一匹の猿が登場する。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あなたは「都々逸どどいつ」が採譜さいふの出来ないことを知っていられますか、謡曲も採譜が出来ません、あれは耳から耳へ伝わっている曲で、同じ「ア」というおんを引伸ばしながら
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
漢詩の一部を除くのほか都々逸どどいつ端唄はうた川柳せんりゅうはもとよりのこと、長詩とか小説とかいうものに至るまでそれは季題などとは没交渉といってもさしつかえないのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
三沢は病院の二階に「あの女」の馴染客なじみきゃくがあって、それが「お前胃のため、わしゃ腸のため、共に苦しむ酒のため」という都々逸どどいつ紙片かみぎれへ書いて、あの女の所へ届けた上
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さもないとかへつて小説家が(小説としての威厳を捨てずに)大衆文芸家の領分へ斬りこむかも知れぬ。都々逸どどいつは抒情詩的大衆文芸だ。北原白秋きたはらはくしう氏などの俚謡りえうは抒情詩的小衆文芸だ。
亦一説? (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうした時代に、浮川福平は都々逸どどいつの新作を矢継早やつぎばやに発表し、また仮名垣魯文の如きは、その新聞のほとんど半頁を、大胆にも芝居の記事で埋めて、演芸を復活させようとつとめた。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
さ今度は都々逸どどいつ都々逸。お婆さん頼むぜ、いいかいエヘン。船じゃ寒かろ着て行かしゃんせ、わしが着ているこの褞袍どてら。エヘヘヘヘヘ。ああいい気持ちにやッとなった。どッこいしょと。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
左の都々逸どどいつは、私が数年前に作ったものだが、私の一生はこれに尽きている。
いかがでございます、時々は狂歌、都々逸どどいつ柳樽やなぎだるたぐいをおやりになっては。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多吉夫婦は久しぶりで上京した半蔵をつかまえて、いろいろと東京の話をして聞かせるが、寄席よせの芸人が口に上る都々逸どどいつたぐいまで、英語まじりのものが流行して来たと言って半蔵を笑わせた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕一人の観て以て通俗となすもの世人果して然りとなすや否やいまだ知るべからざるなり。通俗の意はけだし世と共に変ずべきものなるべし。川柳せんりゅう都々逸どどいつは江戸時代にあつては通俗の文学なりき。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうしたときでも、いつもあなたには逢いたいような、逢いたくないような気持が、たとえば、『逢わぬは逢うにいやまさる』といった都々逸どどいつの文句のように錯綜さくそうして、あなたをしたっていたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
お糸さんも細いすきとほつた声で、中音に都々逸どどいつ端唄はうたを歌ふ。素人しろうとばなれのした立派な歌ひぶりであつた。さう云ふ中で私も負けぬ気でうろおぼえの御所車ごしよぐるまなどを歌ふのである。ある晩お糸さんが
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「ねえ、あたしまだ都々逸どどいつがよく歌えないの。教えて頂戴。」
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
都々逸どどいつ歌うて曰く
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「何しろ荘左衛門という人は、町人のくせに学問が好きで、小唄も将棋しょうぎもやらないかわりに、四角な文字を読んで、から都々逸どどいつを作った」
初めは呻吟しんぎん、中頃は叫喚きょうかん、終りは吟声ぎんせいとなり放歌となり都々逸どどいつ端唄はうた謡曲仮声こわいろ片々へんぺん寸々すんずん又継又続倏忽しゅっこつ変化みずから測る能はず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ほかの罪人たちよりは一段と高いところに坐らされながら、次郎兵衛は彼の自作の都々逸どどいつとも念仏ともつかぬ歌を、あわれなふしで口ずさんでいた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
下手な調子で銅鑼聲どらごゑを張りあげ、清元やら、長唄やら、常磐津やら、新内やら、都々逸どどいつやらのおさらひをして歩いた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼が、そう呟いている間にも、倉の中では、いい声を張りあげて、誰か、都々逸どどいつを唄っている。それがすむと、手をたたく、げらげら笑う、散財囃子さんざいばやしで、騒ぎをやる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或人が不斗ふと尋ねると、都々逸どどいつ端唄はうたから甚句じんくカッポレのチリカラカッポウ大陽気おおようきだったので、必定てっきりお客を呼んでの大酒宴おおさかもり真最中まっさいちゅうと、しばらく戸外おもて佇立たちどまって躊躇ちゅうちょしていたが
(今日の民謡と称するものは少くとも大部分は詩形上都々逸どどいつと変りはない。)この眠つてゐる王女を見出すだけでも既に興味の多い仕事である。まして王女を目醒めざませることをや。
その一人ひとりが一人に向かって、口答試験を都々逸どどいつで負けておいてくれると、いくらでも歌ってみせるがなと言うと、一人が小声で、すいなさばきの博士の前で、恋の試験がしてみたいと歌っていた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その歌を南方先生が字余り都々逸どどいつに訳すると「わが眼ほど耳がきくなら逃げ支度して人にられはせぬものを」だ。鶯も蛙も同じ歌仲間というが敷島の大倭おおやまとでの事、西洋では蝮が唄を作るのじゃ。
寄席よせの高座で、芸人の口をついて出る流行唄はやりうたまでが変わって、それがまた英語まじりでなければ納まらない世の中になって来た。「待つ夜の長き」では、もはや因循で旧弊な都々逸どどいつの文句と言われる。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
可哀そうだは可愛いってことよと都々逸どどいつ風に云い直している。
都々逸どどいつんだものに
俳句の相談役など、じっさい、文句入りの都々逸どどいつ以上に困ると思った。どうにも落ちつかず、閉口の気持で、僕は
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そんなものかも知れない、——ところで運座うんざはどんな具合だつたえ、——俺は俳諧も都々逸どどいつも知らないが」
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
一体合乗俥というはその頃の川柳や都々逸どどいつの無二の材料となったもので、狭い俥に両性がピッタリ粘着くっつき合って一つ膝掛にくるまった容子は余り見っともイイものではなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
早く内へ帰れば善いとばかり思いつめて居る。車はズーズーズーズー往た。暗い森の間をズーズーズーズー過ぎた。何だか書生が都々逸どどいつを歌って居るのに出逢ったが、それもどこか知らぬ。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
人殺しのわき都々逸どどいつを歌うくらいの対照だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かっぽれには、僕以上に固パンの英語がかんにさわるらしく、小さい声でれいの御自慢の都々逸どどいつ
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ウンザのケエですよ、——何んとかや、かなつて、十七文字並べる奴、都々逸どどいつ端折はしをつたの」
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)