ちがい)” の例文
し、大尉が其処に居合せなかったら、自分は思わず叫声を挙げたにちがいない。自分が、それを持っている手は思わず、ふるえたのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
れは夫れとして、扨松木に五代と云うものは捕虜ほりょでもなければ御客おきゃくでもない、何しろ英の軍艦に乗込んで横浜に来たにちがいはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
常識に見捨てられたためしの少ない彼としては珍らしいこの気分は、今床の中に安臥する彼から見れば、恥ずべき状態にちがいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、お宗旨ちがいの神社の境内、額の古びた木の鳥居のかたわらに、裕福な仕舞家しもたやの土蔵の羽目板を背後うしろにして、秋の祭礼まつりに、日南ひなたに店を出している。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もと成善しげよしは医者の子として近習小姓に任ぜられているにはちがいない。しかしいまだかつて医として仕えたことはない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とう、等、等を詳細に物語り、そういう訳だから、この両人の行方不明事件の裏には、あの怪物がいるにちがいない。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お登和お登和と女房らしく呼棄よびすてになさるのは内々ないないその美人に野心があるのですね。そうにちがいありません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そうして宣長は神代の巻の物語をそのままに事実と見、白石などはその裏面に事実があると見たちがいはあるが、何れも事実をそこに認めようとしたことは同じである。
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
追々世の中がひらけて、華族様と平民と縁組を致すようになった当今のお子様方は、この島路の口上をお聞きなすっては、開けない奴だ、町人と職人と何程どれほどちがいがある
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大層鄭重ていちょうあつかってれたので、私も非常に満足して、主人公はおいでになっているのかと尋ねると、「イエまだおいでにはなりませんが、当月すえにはおいでなさるにちがいありません」
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「……どうも、こりゃ星のせいではなかろうと思われる。……それはそうと、伝兵衛、お前、今朝死んだお蔦というここの娘の創も、この前の二人と寸分ちがいはないといったな」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
敦夫は妹からも話を聞いた、そして平造老人の語るところとちがいはないのをたしかめた。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そうだよ。それにすこしもちがいはない」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
見せてくれたにはちがいないのだけれど。
後でその説明を聞いたら、三保みほ松原まつばらだの天女てんにょ羽衣はごろもだのが出て来る所はきらいだと云うのです。兄さんは妙な頭をもった人にちがいありません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「たとい、ここで別れても、兄弟が、めいめい都で出世すれば、必ずどこかでえるにちがいない。」と、元気よく言いました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
白状はしなかつたにちがいないが、自分で、知つてればいはうといふのが、既に我が同胞どうぼうの心でない、敵に内通も同一おんなじだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その上で言ひたい事をも申すべしと存じそうらひしにはちがいなく、かやうな悪しき心を持ち候ひし事、今更申すも恥しく候、さて女のしょうは悪しきものと我ながら驚き候は
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もしくは対照すべきものも含まれているにちがいなく、そういうものの比較研究によってその意義の知られることのあるのも、一面の事実であるが、すべての説話がそうではなく
しかし生姜と猪は何か一種の作用を起すに違いない事は豚に生姜を食べさせると中毒を起して死にます。猪も豚も同じ者ですから何か変った化学作用を生ずるにちがいありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
角「誠に済まねえが、全体あれ貴方あんたの娘にちがいねえのかえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんでもい家柄の奴にはちがいない。
ことにあなたの身体からだではひどくこたえるにちがいないから、是非用心して病気にかからないようになさいと優しい文句を数行すぎょうつづった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは、貴君あなたが作品と時代と云うことを考えないからです。現在の文壇の標準から云えば、『金色夜叉』の題目テーマなんか、通俗小説にちがいないです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「十五のちがいだね。もっとも晩学だとかいうので、大抵なら二十五六で、学士になるのが多いってね。」
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この土地の家は大小のちがいがあるばかりで、どの家も皆同じ平面図にって建てたように出来ている。門口を這入って左側が外壁そとかべで、家は右の方へ長方形に延びている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
新しい思想を開展する力が湧き上がって来るにちがいない。
君達は僕なんぞを騙すのにちがいない。
同じ卒業生だから似たものだろうと思うのは教育の形式が似ているのを教育の実体が似ているものと考えちがいした議論です。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青年の葬儀である以上、姉も妹も、瑠璃子るりこと呼ばるゝ女性も、返すべき時計の真の持主も、(もしあれば)青年の恋人も、みんな列っているのにちがいない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
など遣ったものだが、あえてこれは冷評ひやかしたのではない。その証拠には、小松原と一足ちがいに内を出て、女子おんな扇と御経料を帯に挟んで、じりじりと蝉の鳴く路を、某寺なにがしじへ。供養のため——
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のう、なんでしょう。——ああ新潟県で思い出した。この間あなたが御出おいでのときちがいに出て行った男があるでしょう」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そりや眺望ながめというても池一つあるぢやござらぬ、わずかばかりのちがいでなう、三島はお富士山ふじさまの名所ぢやに、此処ここ一目千里ひとめせんりの原なれど、何が邪魔じゃまをするか見えませぬ、其れぢやもの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
巧拙こうせつは論外として、病院にいる余が窓から寺を望む訳もなし、また室内にことを置く必要もないから、この詩は全くの実況に反しているにはちがいないが
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今にも薬の毒がまわって、血でも吐きやしないかしらと、どうしてその間の心配というものは! でもそれでもやっぱり考えることといったら、ちっともちがいはない、(死ねば可い。)で
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから兄さんの命の流れは、刹那せつな刹那にぽつぽつと中断されるのです。食事中一分ごとに電話口へ呼び出されるのと同じ事で、苦しいにちがいありません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅店の案内者ぐらいは出ていようと思ったの大きな見当ちがい
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人とそうして彼女の見舞品、この二つは、それを届ける津田に対して、清子の束縛をく好い方便にちがいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の最も希望するところにはちがいなかったが、来訪の意味がここに新らしく付け加えられた以上、それに対する彼の応答おうとうぶりも変えなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これらの弊害を別にしても、文芸院の建設は依然として文芸の発達上効力がある、即ちある種類の好い作物は出るにちがいないと主張する人があるかも知れない。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あかるみへ出して、青い空の下で見たら、大変な蒼ん蔵にちがいない。それで口をくのがいやになった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歩こうと思えば歩くのが自分にちがいないが、その歩こうと思う心と、歩く力とは、はたしてどこから不意にいて出るか、それが兄さんには大いなる疑問になるのでした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あいつは廿世紀の日本人を代表している模範的人物だ。あすこの社長もきっとあんな奴にちがいない
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私のいうた事はあなた方と私どもの職業のちがいから私どもの方をくわしくいうたのだけれどもあなた方の方もある程度までは応用がききます、あなた方の職業の方面において
おはなし (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ。あの上へ登ったら、噴火孔ふんかこうに見えるにちがいない。そうしたら、路が分るよ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼らの自由と表裏して発達して来た深い根柢こんていをもった思想にちがいないのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学問のためにも賀すべき事で、博士のためにも喜ばしき事にちがいない。
学者と名誉 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長い石段の途中に太いもみが静かな枝をに張って、土手から高くそびえている。火はそのうしろから起る。黒い幹と動かぬ枝をことさらに残して、余る所は真赤まっかである。火元はこの高い土手の上にちがいない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まずそんなものにちがいない」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)