誤謬ごびゅう)” の例文
つまり、外国製地図の誤謬ごびゅうをただし、一度も日本人の手で実測が行われていない、この地方の地図を完璧なものにしようとするのだ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それがため、女優第一人者を、誠意をもって誤謬ごびゅうなく書残しておこうとしたことが画餅がべいになってしまったのを、大変残りおしく思う。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これは「武鑑」、こと寛文かんぶん頃より古い類書は、諸侯の事をするに誤謬ごびゅうが多くて、信じがたいので、いて顧みないのかも知れない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかもそれカバカワの何物であるかについては、押して聞けば誤謬ごびゅうを語るかもしれぬほど、茫漠たる知識しかもっておらぬのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よわい人生の六分ろくぶに達し、今にして過ぎかたかえりみれば、行いし事として罪悪ならぬはなく、謀慮おもんばかりし事として誤謬ごびゅうならぬはなきぞかし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかしもしはえを絶滅すると言うのなら、その前に自分のこの空想の誤謬ごびゅうを実証的に確かめた上にしてもらいたいと思うのである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真理は断じてる教義教条の独占物ではない。むろんいずれの教義にも真理の種子はある。が、いずれの教義にも誤謬ごびゅう夾雑物きょうざつぶつがある。
されど北寿の山水画に対しては西洋画模倣にもとづく幼稚なる技巧と、制作上の無邪気なる誤謬ごびゅうとは、最初よりこれを認容せざるべからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
通俗の伝統主義の誤謬ごびゅう——この誤謬はしかしシェリングやヘーゲルのごときドイツの最大の哲学者でさえもが共にしている——は
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
どこにも民藝品たることに美は生じないわけです。しかし摂理は彼等に美を約束しているのです。そうしてこの約束に誤謬ごびゅうはないのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
幾分か空想的名所歌の弊を看破したるには相違なけれど、さりとて名所を知るはこれらの誤謬ごびゅうなからしめんがためのみにはあらざるべし。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それを捨てなければならぬ程に今までの誤謬ごびゅうに眼を開け。私は前後を顧慮しないではいられない程、緩慢な歩き方はしていない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それが金子元臣氏及び武藤元信氏の研究であった。自分はそれらを一覧して専門外の者の陥る誤謬ごびゅうを避けようと努めたのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私の疎漏そろうなところを補い、誤謬ごびゅうのあるところを正して下さったならば、批評学が学問として未来に成立せんとは限らんだろうと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもこの関係から、小説家が詩人に比して、より知的な人物である如く考える人があるならば、驚くべき笑止な誤謬ごびゅうである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それは恐らく私の思慮の足りないせいであろうが、私にはトルストイ翁のこの答の中に重大な誤謬ごびゅうが含まれているように想われてならない。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
まして昔、自分たちが、先生の誠意を疑って、生活のためとあざけったのも、今となっては心から赤面のほかはない誤謬ごびゅうであった。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まぶしい光輝に貫かれたる暗黒の集団を、父親が焦慮しながら迷い歩いた、知識と無識と害悪な真理と矛盾的な誤謬ごびゅうとの堆積たいせきを。
事実彼らは「神の子キリスト」についての認識が誤謬ごびゅうであったため、イエスの人格と能力とを理解しえず、かえってイエスを嫉妬・憎悪し
音は、ぽつりぽつりと切って演奏することを、古典らしいと思うならば、それは実に重大なる誤謬ごびゅうであると言わざるを得ない。
しかしかかる意義において意志の自由を主張するならば、そは全く誤謬ごびゅうである。我々が動機を決する時には、何か相当の理由がなければならぬ。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しかし、さきにもいったように、「いき」の構造の理解をその客観的表現に基礎附けようとすることは大なる誤謬ごびゅうである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
アダム・スミスの誤謬ごびゅうの第二は、貨幣にて秤量ひょうりょうしたる富の価値をば、直ちにその人生上の価値の標準としたことである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
魚住氏はさらに同じ誤謬ごびゅうから、自然主義者のある人々がかつてその主義と国家主義との間にある妥協を試みたのを見て、「不徹底」だととがめている。
ことにクエーカーの書いた本でありますから文法上の誤謬ごびゅうがたくさんある。しかるにバンヤンは始めから終りまでこの本を読んだ。彼は申しました。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
仏者に問わば、例の女子は三界に家なしの流義で既に解決されて在るというか知らぬが、かくの如きは勿論もちろん甚だしき独断の誤謬ごびゅうとらわれたものである。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
平常の視覚と聴覚の通念から誤謬ごびゅうを生まないように今や細心に日頃の兵法の知識を五官に役立たせていたのである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(10)non distributio medii ——論理学上の術語で、三段論法において、媒辞ばいじが両方の前提ともに不周延である誤謬ごびゅうをいう。
軍人出身のS君はその当時見習士官として北の国の○○師団司令部に勤務中で、しかも自分が当番のの出来事であるから決して誤謬ごびゅうはないと断言した。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はすべてを承認した。人は真理の方へ進みながら途中誤謬ごびゅうに出会うことがある。彼は一種の熱烈な誠意を持っていて、すべてを一塊ひとかたまりにしてのみ込んだ。
しかしこの誤謬ごびゅうが生徒一般に深い感銘を与えたのらしい。彼等は活字に現れたものは皆真理しんりか事実と思っている。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかるに人間が哲学をやり始めると、そのままでは承知せず、必ずひとつひとつの言葉に定義を下さずにはおかぬが、これはよくよく誤謬ごびゅうの始まりである。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
必ず見出されるであろう所の多くの誤謬ごびゅうに就ては、私としては只当時最も権威ある典拠によったということをいい得る丈で、以下の記録をなした後の四十年間に
ビジテリアンの主張は全然誤謬ごびゅうである。今この陰気な非学術的思想を動物心理学的に批判して見よう。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ここに於いて、かの落第生伊村君の説は、完膚かんぷまでに論破せられたわけである。伊村説は、徹頭徹尾誤謬ごびゅうであったという事が証明せられた。ウソであったのである。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
もしこういうことが分ったとしたら、生命の神秘が消えせてしまうように考えるのは誤謬ごびゅうである。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ある誤謬ごびゅうがはいりこむんでして、ついでにこのことをあなたにご注意申上げておこうと思います。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
私の理想はこれをも、再び包摂して、けっして誤謬ごびゅうとして捨て去るつもりではありません。しかし、そこには天よりの Reinigung がなくてはならぬと信じます。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
夢中の作用は脳中の一部分なるをもって、我人が夢境にありて完成せりと想するものの、夢さめて、その大いに欠点、誤謬ごびゅうあるを発見することの例は、多く見るところなり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
何を? 何か、こう苛烈かれつなことを。自分の柄にもないことを。世界は一つの誤謬ごびゅうであることに就いて、など。何故の誤謬? 別に仔細しさいはない。私が作品をうまく書けないから。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
最高学府なんぞ出たからとて、べつだん自慢にも、世渡りのたしにも、……ことに今になっては……ならぬ故、どうでもよいことだが、しかし、まあ誤謬ごびゅうだけは正して置こう。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ゆえにいたずらに人を悪口するものがあれば、根底よりその事実を明らかにし、誤謬ごびゅうを改めしむべきが本分である。なんじの言のごとくどうでもよい、放任せよというはしからぬ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
頃日けいじつ脱稿だっこうの三十年史は、近時きんじおよそ三十年間、我外交がいこう始末しまつにつき世間につたうるところ徃々おうおう誤謬ごびゅう多きをうれい、先生が旧幕府の時代よりみずから耳聞じぶん目撃もくげきして筆記にそんするものを
畢竟ひっきょう眠気覚ましの茶受け話、桃太郎・大江山の一変形に過ぎぬのでありまして、中には一向珍しからぬ話もありましょうし、遺漏や誤謬ごびゅうは勿論少なからぬことでありましょうから
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
畢竟ひっきょう眠気覚ましの茶受け話、桃太郎・大江山の一変形に過ぎぬのでありまして、中には一向珍しからぬ話もありましょうし、遺漏や誤謬ごびゅうは勿論少なからぬことでありましょうから
法窓夜話:01 序 (新字新仮名) / 穂積重遠(著)
先生その大意たいいを人より聞きいいいわく、かねてより幕末外交の顛末てんまつ記載きさいせんとして志をはたさず、今評論の誤謬ごびゅうを正すめその一端をかたしとて、当時の事情をくことすこぶつまびらかなり。
「今夜の停電というのが、これだ。そしてこれには、何か根本的の誤謬ごびゅうがある!」
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日本の文明を評論した無邪気なる誤謬ごびゅうと浅見とに、憤りを発する者が幾人いくたりある。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこにはまた同様に、これらの人々を軽蔑し切っているロシア人もいた。それは一人の将校あがりと二人の神学生であった。ラスコーリニコフは彼らの誤謬ごびゅうをも、明瞭めいりょうに認めたのである。
精神生活のみが尊く、物質的生活が卑しいという事は、明らかに誤謬ごびゅうである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)