見透みとほ)” の例文
「その騷ぎの中で、達者な女が一人殺されて、念入に往來から見透みとほしの欄干に、暮の鹽鮭のやうに逆樣に吊されて居たといふぢやないか」
勿論もちろん留守るすねらつておよしたのであつたが——そろつて紫星堂しせいだうじゆく)をたといて、その時々とき/″\弟子でし懷中くわいちう見透みとほしによくわかる。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
亭主が店で何をして居るか、弟子が何をして居るか、女中が台所の方で何をして居るか、そんなことは内儀かみさんには見透みとほすやうによく解つた。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
長左衛門様の御話して、かうなることを見透みとほして御座つたと言うて聴かせましたが、若い者等は、ヘイ其様そんな人があつたのかなと驚いて居ましたよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
けれども患者が縁端えんばたへ出て互を見透みとほす不都合を避けるため、わざと二部屋毎に開き戸を設けて御互の關とした。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ヂュリ 大空おほぞらくもなかにもこの悲痛かなしみそこ見透みとほ慈悲じひいか? おゝ、かゝさま、わたしを見棄みすてゝくださりますな! この婚禮こんれいのばしてくだされ、せめて一月ひとつき、一週間しうかん
また朧げな地平線を遙かにのぞむ時——その時、その限界を越えて見透みとほすことの出來る視力、聞いたばかりで見たことのない生命に充ちた忙がしい世界や、町や
道端みちばた人家じんかは道よりも一段低い地面に建てられてあるので、春の日の光をよそに女房共がせつせと内職ないしよくして薄暗うすぐら家内かないのさまが、とほりながらにすつかりと見透みとほされる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あの時、家庭医学の本を読んでゐると、自分が、どんなところを読んでゐるのか、病人は、何も彼も見透みとほすやうな、無気味な眼色で、都和井の方をじろじろみつめてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
博士はぼやきながら、その理由わけを考へた。理由わけは直ぐ分つた。それにると、博士は歴史家である。そして女の多くは大抵歴史を持つてゐるので、それを見透みとほされるのが厭さに歴史家を嫌ふに相違ない。
逐電ちくでんせつ大津迄同道せしが夫より分れてかれは三井寺の方へ行私し儀は願山ぐわんざん諸共もろともに江戸へ下向致せしにより其後靱負ゆきへの行方さらに心得申さずと云ゆゑ然らば是非ぜひに及ばず併し其方生國しやうこく相州さうしうと申たれども是又いつはりならん眞直まつすぐに申せと有ければ平左衞門彌々いよ/\おどろかく見透みとほさるゝ上はとても叶はじと思ひ私し生國しやうこくじつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「錢形の親分、此方から行かうと思つてゐたよ。見透みとほしの通り、あのお袖といふ女には、不思議なことが附きまとつてるぜ——」
くだん垣根かきね差覗さしのぞきて、をぢさんるか、とこゑける。黄菊きぎくけたるとこ見透みとほさるゝ書齋しよさいこゑあり、る/\と。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
片側かたかは朝日あさひがさし込んでるので路地ろぢうち突当つきあたりまで見透みとほされた。格子戸かうしどづくりのちひさうちばかりでない。昼間ひるま見ると意外に屋根やねの高いくらもある。忍返しのびがへしをつけた板塀いたべいもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「止してくれ、俺はそのぶたのやうなめすと祝言せずに濟んだだけでも澤山だ、——何でえ、岡つ引のくせに。何も彼も見拔いたつもりでも、人の心の見透みとほしはつくまい」
ほたる紫陽花あぢさゐ見透みとほしの背戸せどすゞんでた、のおよねさんの振向ふりむいたなさけだつたのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
長吉ちやうきちはいつも巡査じゆんさ立番たちばんしてゐる左手の石橋いしばしから淡島あはしまさまのはうまでがずつと見透みとほされる四辻よつゝじまで歩いて来て、とほりがゝりの人々が立止たちどまつてながめるまゝに、自分もなんといふ事なく
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「親分、一言もねえ。まさに見透みとほしの通り、お留の阿魔が下手人でしたよ。——繩を打つて引つ立てて行くと、笹野の旦那が褒めましたぜ。これが八五郎の手柄か、大したことだね——つて」
うらは、すぐ四谷見附よつやみつけやぐら見透みとほすのだが、とほひろいあたりは、まぶしいのと、樹木じゆもく薄霧うすぎりかゝつたのにまぎれて、およそ、どのくらゐまでぶか、すか、そのほどははかられない。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何處から聞いたか、新三郎はつまらぬ事まで見透みとほしです。
「へツ、見透みとほしだね、親分、さすがは錢形——」
見透みとほしだね、親分」