見物みもの)” の例文
「いずれにしても、あの村の人たちの運命は見物みものだ、どうなることか、わしも、旅でなければ見きわめて行きたい気持にさせられる」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ねらつて居たかも知れない。あの離屋はなれから誰の寢部屋へ一番よく道が付いてゐるか見物みものだ。庭はこけが一ぱいだが、五六遍も歩くと跡が付く
鍛冶屋かじや、仕立屋、水車小屋、せんべや、樽屋たるや。それから自転車屋など。それらはなんというすばらしい見物みものだったことだろう。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
金十郎はかいノ間に通って、几帳の奥にいる方に進物の口上を披露するのだが、行く先々で見物みものにされるのでやつれてしまった。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
死んだ無機的団塊が統整的建設的叡知えいちの生命を吹き込まれて見る間に有機的な機構系統として発育して行くのは実におもしろい見物みものである。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
またこの作者の将来もその今の生活のために何んなに変つて行くか、それが見物みものであるなどとも言ふことが出来る。それが私には面白かつた。
通俗小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
だから、単に積んだ鉄檻の猛牛に送牛人カベストロと称する専門家が附いてえんさえんさと都大路を練ってくところは大した見物みものだ。
そこを泳ぐのが人間には面白い見物みものらしく、無理にがじがじした岩の中を歩かせるんだもの、尾も鱗も剥がれてしまう。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私は其都度つど形容するはんを避けたが、松村がこの苦心談をしている間の、嬉し相な様というものは、全く見物みものであった。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、この元素的な一精力が自余の自然を対手にして戦うありさまは、まことにホーマー的な偉大さを感銘させるところのすばらしい見物みものである。
「そういう奴を見なけりゃあ話にならない、明日あしたの出し物は妹背山いもせやまだそうだから、こいつはちょっと見物みものだろうよ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また実際ランプのかさが風を起して廻る中に、黄いろいほのおがたった一つ、またたきもせずにともっているのは、何とも言えず美しい、不思議な見物みものだったのです。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
りんりんりんりん、りんりんりんりん、いくら行ってもさした見物みものもないので、今度は工場の方へ向きを換えさすと、広い広い一本道を工場へ、駈けた駈けた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
生憎あいにくこの近眼だから、顔は瞭然はっきり見えなかッたが、咥煙管くわえぎせるで艪を押すその持重加減おちつきかげん! あっぱ見物みものだッたよ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家来の来るのを待つあいだに、大将は葉巻はまきをふかしながらあちこちと歩き回る。見物の顔にかれがたばこのけむりをふっかけるふうといったら、見物みものであった。
そして時に尻尾で水を叩いては渦巻を起し、逃げ迷う小魚を追い廻わすさまはまことに見物みものである。
河鱸遡上一考 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
桜島は今だに鹿児島湾のなかに突立つきたつて、暢気坊のんきばうのやうにすぱり/\とけぶりを吹いてゐる。梅玉が今度の巡業に、すかされて鹿児島へ乗込むかは一寸見物みものである。
気の利いたもの、乙なもの、眼に見えずに凝ったもの、アッサリしたものなぞいう、彼等の鋭い神経にだけ理解されるような生活品や見物みもの、ききものがもてはやされた。
希臘ギリシャ彫刻ちょうこくで見た、ある姿態ポーゼーのように、髪を後ざまにれ、白蝋はくろうのように白い手を、後へ真直まっすぐらしながら、石段を引ずり上げられる屍体は、確に悲壮ひそう見物みものであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
朝日あさひひかりをけてきんぴかの品物しなものかゞやいてゐるありさまは、なんともいへぬ見物みものでありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
こういう言葉に経験の多い伝三郎の妻は、こういう時政江がどんな態度を示すか見物みものであると固唾をのんだ。市治郎の妻は、政江を慰めるために今日一日を費す腹をきめた。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
承香殿じょうきょうでんの女御を母にした第四親王がまだ童形どうぎょうで秋風楽をお舞いになったのがそれに続いての見物みものだった。この二つがよかった。あとのはもう何の舞も人の興味をかなかった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さすがは一流の剣客者たるお心がけ、そりゃいっそ見物みものでござろう。あっぱれお手のうちを
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〔記憶の及ぶあたはざるまで〕原文、「記憶に伴はざる見物みものの中に殘さゞるをえざるまで」
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「S村の小作が、身欠鰊みたいに、ズラリ並んで首でもつる時来るべ。んだら見物みものだ。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
かわきし者の叫ぶ声を聞け、風にもまるる枯葉こようの音を聞け。君なくしてなお事業と叫ぶわが声はこれなり。声かれ血なみだ涸れてしかして成し遂ぐるわが事業こそ見物みものなりしに。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
物珍らしい見物みものがあれば、みな大丸の角に集まってゆく。鉄道馬車がはじめて通った時もそうなら、西洋人が来たと騒いで駈附けるのも大丸であるし、お開帳の休憩もそこであった。
いやはや!——ヴァンダーヴォットタイムイティスの良民にはとんでもない見物みものだ。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
これが又珍らしい見物みもので、大変な人出が致します。切りました角は一週間の角祭りを済ました後春日様の出入商人へ払い下げられ、お土産の角細工つのざいくになって皆様の御調法を致します。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その頃まだ珍らしい見物みものになっていた眼鏡橋めがねばしたもとを、柳原の方へ向いてぶらぶら歩いて行く。川岸の柳の下に大きい傘を張って、その下で十二三の娘にかっぽれを踊らせている男がある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
石が問題じゃない、後が見物みものだ、と思って、彼は勢よく跣足で飛び下りた。
古井戸 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「はあ、そうですか。なに訳はありません。すぐ行って見ましょう。容子ようすは帰りがけに御報知を致す事にして。面白いでしょう、あの頑固がんこなのが意気銷沈いきしょうちんしているところは、きっと見物みものですよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
贅沢ぜいたく——日本一の見物みものじゃぞ! すばらしいのう! これを見ながら一ぱいはどうじゃ! 酒を持って来い! は、は、酒肴しゅこうの用意をととのえろ! ほほう! ほほう! 何ともいえぬ眺めじゃなあ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「へーイ! 尺取り虫が? そいつア見物みものだ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
積み上げて、ついに見られぬおごりの優れた見物みもの
変わった見物みものと云わざるを得ない。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほかうま「ええ。いい見物みものですよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
とにかく、こうして蝙蝠傘こうもりがさをさして、ゆらりと江戸の浅草の駒形堂の前の土を踏んだ白雲の恰好かっこうは、かなりの見物みものでありました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「今日は特別な見世物を御覧に入れる。一度あって二度とない見物みもの、こんな日に入り当てたお客様は仕合せだ、サア、いいか」
湖畔のフラミンゴーの大群もおもしろい見物みものである。一面におり立った群れの中に一か所だけ円形な空地があるのはどういうわけかと思って考えてみた。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は露骨な冗談やりっぱな御馳走ごちそうが好きだった。食卓の彼は見物みものだった。息子むすこのアントアーヌがその相手をし、他に会食者としては数名の老人仲間がいた。
中でもこの私なぞは、大殿樣にも二十年來御奉公申して居りましたが、それでさへ、あのやうな凄じい見物みものに出遇つた事は、ついぞ又となかつた位でございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
海豹島こそ見物みものだろうと人はいった。私にしろこの樺太旅行の眼目は全くこの海豹島だと期待していた。恐らく三百の観光団員総てがそうであったにちがいない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
原敬氏がこの自惚うぬぼれを、どんな塩梅あんばいに取扱ふかは見物みものである。これを巧く利用したものに徳川家康がゐる。ある時何かの席で、福島正則が家康にお追従ついしようを言つた事があつた。
その木賊はそこの縁先に非常に夥しく蕃殖はんしょくし、青い細い茎が雨の脚のように一面にすくすくと群生しているのがちょっと奇異な見物みものなので、珍しいなあと思った当時の印象が
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ことにそのなかに、面白き思附き、興ある見物みものとして大名行列があった。それは旧大名の禄高ろくだか多く、格式ある家柄の参覲交代さんきんこうたいの道中行列にならい、奥向の行列もつくったのであった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
見物みもの、聞きものもあろう。しかしこの中に「買物のため」が沢山あるのは否まれぬ。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
怪しさも、すごさもこれほどなら朝茶の子、こいつ見物みものと、裾をまくって、しゃがみ込んで
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持主がおこっているのに髯だけ落ちついていてはすまないとでも心得たものか、一本一本に癇癪かんしゃくを起して、勝手次第の方角へ猛烈なる勢をもって突進している。これとてもなかなかの見物みものである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はこうして新しい見物みものができたことを、欣んだのである。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)