落込おちこ)” の例文
此の船中に話したがね、船頭はじめ——白痴たわけめ、おんなに誘はれて、駈落かけおちの真似がしたいのか——で、船は人ぐるみ、うして奈落へさかさま落込おちこんだんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うらみにでもおもふだけがおまへさんが未練みれんでござんす、裏町うらまち酒屋さかやわかものつておいでなさらう、二やのおかくしんから落込おちこんで、かけさきのこらず使つか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この峠から普賢へのぼるためには、ここからまた左へ落込おちこんでいるあざみ谷の渓谷を下らなければならなかった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
足元は五六十尺の谷の口、ひとたまりもなく貝六の図体は、崩るる小石と共に、その中に落込おちこんでしまいました。後を静かに塗り潰すのは、音もなく襲い来る夕闇。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「ガンブローてう」に突破つきやぶられたる輕氣球けいきゝゆうは、水素瓦斯すいそぐわするゝおとともに、キリヽ/\と天空てんくうくだつて、『あはや』といふに、大洋たいやう眞唯中まつたゞなか落込おちこんだのである。
寒き日や川に落込おちこむ川の水
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これ船中せんちうはなしたがね、船頭せんどうはじめ——白癡たはけめ、をんなさそはれて、駈落かけおち眞似まねがしたいのか——で、ふねひとぐるみ、うして奈落ならくさかさま落込おちこんだんです。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
千々岩ちぢわ灘に対して立つ時、足下あしもとに深く落込おちこんでいる渓谷は、絹笠の山脚さんきゃくと妙見の山脚が作る山領さんりょう谷である。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
輕氣球けいきゝゆうともに、海洋かいやう唯中たゞなか落込おちこんだ吾等われら兩人りやうにんは、一時いちじすうしやくふか海底かいていしづんだが、さひはひにも、落下らくか速力そくりよく割合わりあひ緩慢くわんまんであつたためと、またなみ氣球きゝゆう抵杭ていかうしたために、絶息ぜつそくするほどでもなく
馬鹿野郎ばかやらうめとのゝしりながらふくろをつかんでうら空地あきち投出なげいだせば、かみやぶれてまろ菓子くわしの、たけのあらがきうちこえてどぶなか落込おちこむめり、げん七はむくりときておはつと一こゑおほきくいふになに御用ごようかよ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一分いつぷん二分にふんあひだいてはきこえるあられのやうなおと次第しだいはげしくなつて、いけ落込おちこ小※こしぶき形勢けはひまじつて、一時いちじ呼吸いきもつかれず、ものもはれなかつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
熔岩流それ自らの中央部は深く落込おちこみ別にまた渓谷をなしているのである。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
その坂をりかかる片側に、坂なりに落込おちこんだ空溝からみぞの広いのがあって、道には破朽やぶれくちたさくってある。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
民子たみこをのせて雪車そりは、みちすべつて、十三といふ難所なんしよを、大切たいせつきやくばかりを千尋ちひろ谷底たにそこおとした、ゆきゆゑ怪我けがはなかつたが、落込おちこんだのは炭燒すみやき小屋こやなか
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……去年の大地震で、海の底が一体いったいに三尺がとこ上りましての、家々の土地面つちじめんが三尺たたら踏んで落込おちこみましたもの、の。いま、さいて来た汐も、あれ、御覧じゃい。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)