突立つッた)” の例文
私がのっそりと突立つッたったすそへ、女の脊筋せすじまつわったようになって、右に左に、肩をくねると、居勝手いがってが悪く、白い指がちらちら乱れる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突き当りの壁は突立つッたっている。かすかなカンテラに照らされて、色さえしっかり分らない上が、一面にれて、濡れた所だけがきらきら光っている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伴「そんな這入へいりようがあるものか、なんてえ這入へいりようだ、突立つッたって這入へえッちゃア蚊が這入へえって仕ようがねえ」
戀女こひをんな輪近わぢかくへ奇異おつりき魔物まものいのして、彼女おてき調伏てうぶくしてしまふまで、それを突立つッたたせておいたならば、それこそ惡戲てんごうでもあらうけれど、いまのは正直正當しゃうぢきしゃうたう呪文じゅもんぢゃ、彼女おてきりて
船は小さし、どう突立つッたって、釣下つりさがって、互違たがいちがいに手を掛けて、川幅三十けんばかりを小半時こはんとき幾度いくたびもはっと思っちゃ、あぶなさに自然ひとりでに目をふさぐ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
福「冗談云うねえ、今店を明けたばかりの処で其処へ突立つッたって邪魔して居ちゃアいかん、何だア銭貰い」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
漸々ようよう人の手にたすおこされると、合羽を解いてくれたのは、五十ばかりの肥ったばあさん。馬士まごが一人腕組うでぐみをして突立つッたっていた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、お柳の手を取って歩き出そうと致しまする路傍みちばた枯蘆かれあしをガサ/\ッと掻分けて、幸兵衞夫婦の前へ一人の男が突立つッたちました。是は申さないでも長二ということ、お察しでございましょう。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それでからもう砂利じゃりでも針でもあれとつちへこすりつけて、十余りも蛭の死骸しがいひっくりかえした上から、五六けん向うへ飛んで身顫みぶるいをして突立つッたった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンに、つるりとかいなすべって、獅子は、さかさにトンと返って、ぶるぶると身体からだをふったが、けろりとして突立つッたった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巨大なるこのくすのきらさないために、板屋根をいた、小屋の高さは十じょうもあろう、脚の着いた台に寄せかけたのが突立つッたって、殆ど屋根裏に届くばかり。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一段高いのに、突立つッたったから胸から上は隠れたが、人ともけものとも、おおきな熊がおおわれかかるように見えたんだがね。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とぼけた顔。この大業おおぎょうなのが可笑おかしいとて、店に突立つッたった出額おでこの小僧は、お千世の方を向いて、くすりと遣る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、突立つッたったまま、にがい顔、渋い顔、切ない顔、甘い顔、酔ってけた青い顔をしていた。が、頬へたらたらと垂れかかった酒のしずくを、横舐よこなめに、舌打して
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「源坊、こっちへ入らっし。おい、何を茫然ぼんやり石地蔵を抱いた風で突立つッたってるんだ、いじけるない。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と調子はおっとり聞こえたが、これを耳にするとひとしく、立二は焼火箸やけひばしんだように突立つッたった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勿論、知合になったあとでは失礼ながら、くだんの大革鞄もそのうちの数の一つではあるが——一人、袴羽織で、山高をかぶったのが仕切の板戸に突立つッたっているのさえ出来ていた。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小宮山がその形で突立つッたったまま、口も利けないのに、女はすきな事をほざいたのでありまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とりが鳴いたので、やっと細君が顔を上げたが、廊下に突立つッたった夫を見た時、聞耳を立てて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の蝸牛ででむしみたような住居すまいだ、この中に踏み込んで、まかり違えば、殻を背負しょっても逃げられると、高をくくって度胸が坐ったのでありますから、威勢よく突立つッたって凜々りんりんとした大音声。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
川をさかのぼったり、流れたりして、流網ながれあみをかけてうおを取るのが、川ン中に手拱てあぐらかいて、ぶるぶるふるえて突立つッたってるうちは、顔のある人間だけれど、そらといって水に潜ると、さかさになって
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっくと削った荒造あらづくりの仁王尊が、引組ひっくさまいわ続き、海を踏んで突立つッたつ間に、さかさに生えかかった竹藪たけやぶ一叢ひとむら隔てて、同じいわおの六枚屏風びょうぶ、月にはあお俤立おもかげだとう——ちらほらと松も見えて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かっと逆上のぼせて、たまらずぬっくり突立つッたったが、南無三なむさん物音が、とぎょッとした。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きっとなって、さあ始めやがった、あン畜生、またあばらの骨で遣ってるな、このままじゃ居られないと、突立つッたちました小宮山は、早く既にお雪が話の内の一員に、化しおおしたのでありまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いて突立つッたったその三味線を、次のの暗い方へそっ押遣おしやって、がっくりと筋がえた風に、折重なるまで摺寄すりよりながら、黙然だんまりで、ともしびの影に水のごとく打揺うちゆらぐ、お三重の背中をさすっていた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学生が一人、のっそり立ち、洋書を五六冊引抱ひんだいて突立つッたったものである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テイブルの上に両方からつないで下げた電燈の火屋ほや結目むすびめを解いたが、うずたか書籍しょじゃくを片手で掻退かいのけると、水指みずさしを取って、ひらりとその脊の高い体で、靴のまま卓子の上にあがって銅像のごとく突立つッたった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路端みちばたの芋大根の畑を隔てた、線路の下を抜ける処は、物凄ものすごい渦を巻いて、下田圃へ落ちかかる……線路の上には、ばらばらと人立ひとだちがして、あかるい雲の下に、海の方へ後向うしろむきに、一筆画ひとふでがきの墨絵で突立つッたつ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とんと打入れる発奮はずみをくッて、腰も据らず、仰向あおむけひっくりかえることがある、ええだらしがない、尻から焼火箸やけひばしを刺通して、畳のへり突立つッたててやろう、転ばない呪禁まじないにと、陰では口汚くののしられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へい。」と筒抜けの高調子で、亭主帳場へ棒に突立つッた
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海野は獅子吼ししぼえをなして、突立つッたちぬ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)