久次郎が母に責められて、その無実を明らかに証明し得なかったのも、やはりその内心に疚しいところがあったからであった。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
全教区内の人々にひそかに面接することもあまり疚しく思わず、神事と外交との間の連鎖となり、牧師たるよりはむしろ修道院長たるに適し
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
女史の倫理的意識に省みて疚しくないだけの御自信があっての事でしょうから、私はそれを立証して頂きたいと思います。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二都物語:01 上巻 (新字新仮名) / チャールズ・ディケンズ(著)
しかも、その満足は、復讐の目的から考えても、手段から考えても、良心の疚しさに曇らされる所は少しもない。彼として、これ以上の満足があり得ようか。……
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捜しに見えたのかは。ですがな、わしはその、伯爵閣下にたいして、なんの疚しいところもないですわい。神明に誓って、疚しいことはありませんわい。断じてその、ありませんわい!
かもじの美術家:――墓のうえの物語―― (新字新仮名) / ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ(著)
幹の瘤多きも見る眼疚しく、むづかしげなる人に打対ひ立つ心地して、をかしからずとのみ思ひ居りけるが、或日の雨の晴れたるをり、ゆくりなくも花の二つ三つ咲き出でたるを見て
自分が信ぜない事を、信じているらしく行って、虚偽だと思って疚しがりもせず、それを子供に教えて、子供の心理状態がどうなろうと云うことさえ考えてもみないのではあるまいか。
○之を今日の極東外交に考ふるに、露国政府が韓国に対する暴状は別問題とし、彼に向つて正義の軍を起したと云ふ我国の態度が、果して毫も疚しき所なきかは大に顧慮すべき事である。
文明の強売:(断じて不正なり) (新字旧仮名) / 大石誠之助(著)
天文の専門家や学者が研究して政府へ報告する文章の中にも、普通に見ては奇怪に思われることで、源氏の内大臣だけには解釈のついて、そして疚しく苦しく思われることが混じっていた。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
併し余は自分の身に疚しい所がないから、敢えて恐れぬ、深く詮索の必要が有ろうとも思わぬ、縦しや有った所で実に詮索する便りもないのだ、其のまま余は中に入り権田の室の戸を叩くと
二部は不用だし、向うは商売だから、また相手もあろうと思って、持って行ってやった帰りだった。多分その話はせずに、また誰かに売るのだろう。こっちは話したのだから疚しくはないがね。