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疚
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やま
ふりがな文庫
“
疚
(
やま
)” の例文
八重に対しても、美保子に対しても、私は倫理的には少しも
疚
(
やま
)
しさを感じない。私はいつも清潔な態度を持していたつもりである。
澪標
(新字新仮名)
/
外村繁
(著)
だからさ、若し瀬川君に
疚
(
やま
)
しいところが無いものなら、吾儕と一緒に成つて怒りさうなものぢやないか。まあ、何とか言ふべきだ。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
またいけないのか。中心に
疚
(
やま
)
しいところがあるが為めか。余りにセンチメンタルなためにそれを表面に現はすのをはしたないと思ふのか。
心理の縦断と横断
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
今の場合に出て行くことは
疚
(
やま
)
しい所があるやうにも取られるし、ます/\疑はれるばかりなので、さうする訳にも行かなかつた。
私
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
……
一旦
(
いったん
)
縁を切ってしまった上では、私が心持にも、また世間の義理にも、
疚
(
やま
)
しいことはないんですから、それが未練というんでしょう。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
が、彼は自分の心の底に、良沢の来ないことを欣ぶような心が潜んでいることに気づいているだけに、そのまま黙っているのが
疚
(
やま
)
しかった。
蘭学事始
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
久次郎が母に責められて、その無実を明らかに証明し得なかったのも、やはりその内心に
疚
(
やま
)
しいところがあったからであった。
半七捕物帳:26 女行者
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
全教区内の人々にひそかに面接することもあまり
疚
(
やま
)
しく思わず、神事と外交との間の連鎖となり、牧師たるよりはむしろ修道院長たるに適し
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
笹村は
疚
(
やま
)
しいような気がした。原稿の出来るのと、先生の死と——いずれが先になるか、それは笹村にも解っていなかった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
女史の倫理的意識に省みて
疚
(
やま
)
しくないだけの御自信があっての事でしょうから、私はそれを立証して頂きたいと思います。
婦人改造の基礎的考察
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
「いや、確かに禿げていましたよ。禿げているという印象が残っていますし、もう一つ私に
疚
(
やま
)
しいことがありますから、未だに忘れられません」
親鳥子鳥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
「紳士」という偽善の体面を持たぬ方が、第一に世を
欺
(
あざむ
)
くという心に
疚
(
やま
)
しい事がなく、社会の真相を
覗
(
うかが
)
い、人生の誠の涙に触れる機会もまた多い。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
自分の過去に対して
疚
(
やま
)
しさといまいましさを同時に感ずることがある。そういうとき順吉は自分をひどく人と変った者のように思い込んだりする。
夕張の宿
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
頭を十文字に繃帯している三中隊の男が、
疚
(
やま
)
しさを持った眼で、まだ軍医の手あてを受けない傷をのぞきこみにきた。
氷河
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
自分は
疚
(
やま
)
しいところがないと、ひとりで
力
(
りき
)
んでいたけれど、二晩三晩というものは、サッパリ何も手答えがないから、米友も
力瘤
(
ちからこぶ
)
が
弛
(
ゆる
)
んできました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼
(
あ
)
の
人
(
ひと
)
あれ
程
(
ほど
)
の
身
(
み
)
にて
人
(
ひと
)
の
性
(
せい
)
をば
名告
(
なの
)
らずともと
誹
(
そし
)
りしも
有
(
あり
)
けれど、
心安
(
こゝろやす
)
う
志
(
こゝろざす
)
す
道
(
みち
)
に
走
(
はし
)
つて、
内
(
うち
)
を
顧
(
かへり
)
みる
疚
(
やま
)
しさの
無
(
な
)
きは、これ
皆
(
みな
)
養父
(
やうふ
)
が
賜物
(
たまもの
)
ぞかし
われから
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
幕府は財政に窮乏し、
随
(
したが
)
って窮乏すれば、随って金銀
吹換
(
ふきかえ
)
に托して、悪性の貨幣を鋳造し、これを鋳造するに随い、物価騰貴し、小民を
疚
(
やま
)
しめたり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
玉井さんと母とは、なんの
疚
(
やま
)
しい関係もありませんわ。その後も、若松まで、芸者になって追っかけて行きましたけれども、徹底的に振られました。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
外に責むる者は内に
省
(
かえりみ
)
ざるべからず。従軍記者たる者自ら心に
疚
(
やま
)
しき所なきか。泥棒と呼ばしめ新聞屋と笑はしむる者果してこれが素を為す者なきか。
従軍紀事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
で、腰をあげて歩きかけたが、そっと往くのは何か野心があってねらい寄るようで
疚
(
やま
)
しいので、軽い
咳
(
せき
)
を一二度しながらいばったように歩いて往った。
蟇の血
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
斯う変るので一段と面白いのですよ、と我が妻は云ふ。イヤ、それはそれとして、兎も角も自分はこれに就いて一点
疚
(
やま
)
しい処のないのは明白な事実だ。
雲は天才である
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
陪審官たちの顔は彼等がそういう詩句については少しも知らぬことに気がついていささか
疚
(
やま
)
しいような色を
表
(
あらわ
)
した
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
常は母に少し位小言云われても随分だだをいうのだけれど、この日はただ両手をついて俯向いたきり一言もいわない。何の
疚
(
やま
)
しい所のない僕は
頗
(
すこぶ
)
る不平で
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
次から次と断片的に、
疚
(
やま
)
しさの発作が浮いては沈み、沈んでは浮びしてゐるうちに、汽車は茅ヶ崎に着いた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
欺罔
(
たばかり
)
は(心これによりて
疚
(
やま
)
しからぬはなし)人之を己を信ずるものまたは信ぜざるものに行ふ 五二—五四
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
少くも渠らが世間の道徳に
背
(
そむ
)
いたには
疚
(
やま
)
しくも恥かしくもない立派な哲学的根拠があるように思っていた。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
しかも、その満足は、復讐の目的から考えても、手段から考えても、良心の
疚
(
やま
)
しさに曇らされる所は少しもない。彼として、これ以上の満足があり得ようか。……
或日の大石内蔵助
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼が至る所に容れられぬのは、学問の本体に根拠地を構えての上の
去就
(
きょしゅう
)
であるから、彼自身は内に
顧
(
かえり
)
みて
疚
(
やま
)
しいところもなければ、意気地がないとも思いつかぬ。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
スリの御用ずみの
贓品
(
ぞうひん
)
をひそかに所持していることに、ぼくは共犯者のそれのような、あの
疚
(
やま
)
しげなスリルと、秘密の悪事に荷担する奇怪な
歓
(
よろこ
)
びをおぼえたのだ。
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
又八は
疚
(
やま
)
しくなかった。その品は
懐中
(
ふところ
)
に持っている。これは預かった物だと意識しながら持っている。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しからば第三階級に踏みとどまっていることに
疚
(
やま
)
しさを感じないか。感ずるにしても感じないにしてもそうであるのだから、私には疚しさとすらいうことはできない。
想片
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「この町の
家屋
(
かおく
)
の
瓦
(
かわら
)
ほどに敵が多くとも、心に
疚
(
やま
)
しきことなき以上は、何の
怖
(
おそ
)
るることかあらん」
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
けれども入つて来るといきなり、Eに一本参つた後なので内心に少々
疚
(
やま
)
しさがあつたといふよりも、一種のはにかみから、
椅子
(
いす
)
は自ら皆の後ろの、
隅
(
すみ
)
の方を選んで了つた。
良友悪友
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
心に
疚
(
やま
)
しくないにしろ、一度ひろまつた蔭口には、正当な弁解も役に立たないものですからね
麓
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
円満無欠なる我が身に
疵
(
きず
)
つくるを嫌うの一念より生ずるものなれば、いやしくも内に自ら省みて
疚
(
やま
)
しきものあるにおいては、その思想の発達、決して十分なるを
得
(
う
)
べからず。
日本男子論
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
唐の
段秀実
(
だんしうじつ
)
、
郭曦
(
かくぎ
)
においては彼がごとくの誠悃、
朱泚
(
しゆせい
)
においては彼がごとくの激烈、しからばすなはち英雄おのづから時措のよろしきあり。要は内に
省
(
かへりみ
)
て
疚
(
やま
)
しからざるにあり。
留魂録
(新字旧仮名)
/
吉田松陰
(著)
彼女は、佃に
疚
(
やま
)
しい打算がないのなら、その証拠に、一日も早く佐々の家を出ろと云った。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
倅
奴
(
め
)
が大それたことをいたしまして、大罪でございます……けれども倅ばかりが悪いのではござりませぬ……たった今わたしは、身に
疚
(
やま
)
しいことがないと申し上げましたけれど
情状酌量
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
捜しに見えたのかは。ですがな、わしはその、伯爵閣下にたいして、なんの
疚
(
やま
)
しいところもないですわい。神明に誓って、疚しいことはありませんわい。断じてその、ありませんわい!
かもじの美術家:――墓のうえの物語――
(新字新仮名)
/
ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ
(著)
幹の瘤多きも見る眼
疚
(
やま
)
しく、むづかしげなる人に打対ひ立つ心地して、をかしからずとのみ思ひ居りけるが、或日の雨の晴れたるをり、ゆくりなくも花の二つ三つ咲き出でたるを見て
花のいろ/\
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
自分が信ぜない事を、信じているらしく行って、虚偽だと思って
疚
(
やま
)
しがりもせず、それを子供に教えて、子供の心理状態がどうなろうと云うことさえ考えてもみないのではあるまいか。
かのように
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
○之を今日の極東外交に考ふるに、露国政府が韓国に対する暴状は別問題とし、彼に向つて正義の軍を起したと云ふ我国の態度が、果して毫も
疚
(
やま
)
しき所なきかは大に顧慮すべき事である。
文明の強売:(断じて不正なり)
(新字旧仮名)
/
大石誠之助
(著)
天文の専門家や学者が研究して政府へ報告する文章の中にも、普通に見ては奇怪に思われることで、源氏の内大臣だけには解釈のついて、そして
疚
(
やま
)
しく苦しく思われることが混じっていた。
源氏物語:19 薄雲
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
本来なら、そういう
疚
(
やま
)
しいことがある以上、苦労するのは私ではありません。
仁王門
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
獄舎
(
ろうや
)
に
繋
(
つな
)
がれるなど
云
(
い
)
うことは
良心
(
りょうしん
)
にさえ
疚
(
やま
)
しい
所
(
ところ
)
が
無
(
な
)
いならば
少
(
すこ
)
しも
恐怖
(
おそる
)
るに
足
(
た
)
らぬこと、こんなことを
恐
(
おそ
)
れるのは
精神病
(
せいしんびょう
)
に
相違
(
そうい
)
なきこと、と、
彼
(
かれ
)
も
自
(
みずか
)
ら
思
(
おも
)
うてここに
至
(
いた
)
らぬのでも
無
(
な
)
いが
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
子曰く、内に省みて
疚
(
やま
)
しからずんば、夫れ何をか憂え、何をか懼れんやと。
論語物語
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
併し余は自分の身に
疚
(
やま
)
しい所がないから、敢えて恐れぬ、深く詮索の必要が有ろうとも思わぬ、縦しや有った所で実に詮索する便りもないのだ、其のまま余は中に入り権田の室の戸を叩くと
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
二部は不用だし、向うは商売だから、また相手もあろうと思って、持って行ってやった帰りだった。多分その話はせずに、また誰かに売るのだろう。こっちは話したのだから
疚
(
やま
)
しくはないがね。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
窓の外に降る雪、風に乱るる雪、
梢
(
こずゑ
)
に宿れる雪、庭に
布
(
し
)
く雪、見ゆる限の
白妙
(
しらたへ
)
は、我身に積める人の
怨
(
うらみ
)
の
丈
(
たけ
)
かとも思ふに、かくてあることの
疚
(
やま
)
しさ、切なさは、
脂
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
らるるやうにも忍び難かり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
内に省みて
疚
(
やま
)
しからず、自ら反して
縮
(
なお
)
きもまたこの物にして、乃ち天地に
俯仰
(
ふぎょう
)
して
愧怍
(
きさく
)
するなく、これを外にしては政府教門の箝制する所とならず、これを内にしては五慾六悪の
妨碍
(
ぼうがい
)
する所とならず
『東洋自由新聞』第一号社説
(新字旧仮名)
/
中江兆民
(著)
疚
漢検1級
部首:⽧
8画
“疚”を含む語句
疚痛
疚痛惨怛