災厄さいやく)” の例文
いかなる災厄さいやくが除去せられようとしていたかを説いて「睡た」を流すということの必ずしも歴史なき空想でなかった例に引いて見よう。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
第八条 (1) 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ災厄さいやくクルため緊急ノ必要ニリ帝国議会閉会ノ場合ニおいテ法律ニ代ルヘキ勅令ちょくれいヲ発ス
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
しかしいずれにしても、今度のような烈風の可能性を知らなかったあるいは忘れていたことがすべての災厄さいやくの根本原因である事には疑いない。
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
災厄さいやくの情勢と進展について、新しい確実なことを知ろうと熱中して、かれは市中のコオヒイ店で、故郷の新聞にすみからすみまで目を通した。
といって、この思いもよらぬ災厄さいやくを逃れようと、呶鳴り立てて救いを求めたなら、忽ち警察の手に引渡されるは知れたこと。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それからわたくし未熟みじゅく自分じぶんにできるかぎりの熱誠ねっせいをこめて、三浦みうら土地とち災厄さいやくからまぬがれるようにと、竜神界りゅうじんかい祈願きがんめますと
災難がふりかかってくるからとって疎開するような仏さまが古来あったろうか。災厄さいやくに殉ずるのが仏ではないか。歴史はそれを証明している。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
手を動かし足を動かす一刹那いつせつなに、今にも又、不公平な運命の災厄さいやくがこの身の上に落ちかゝりはしないかとぢ恐れ、維持力がなくなるのであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
凹路おうろ災厄さいやくは彼らの大半を失わせたが、彼らの勇気を減じさせることはできなかった。彼らはその数を減ずればますます勇気を増すたぐいの勇士であった。
となり主人しゆじん家族かぞく長屋門ながやもんの一たゝみいてかり住居すまゐかたちづくつてた。主人夫婦しゆじんふうふ勘次かんじからは有繋さすが災厄さいやくあとみだれた容子ようすすこしも發見はつけんされなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
災厄さいやくは、悟空ごくうの火にとって、油である。困難に出会うとき、彼の全身は(精神も肉体も)焔々えんえんと燃上がる。逆に、平穏無事のとき、彼はおかしいほど、しょげている。
三十七ねんげつ大雪おほゆきがいと、その七月しちぐわつ疫疾えきしつために、牛馬ぎうばそのなかばうしなひたるの災厄さいやくあり。其他そのた天災てんさい人害じんがい蝟集ゐしふきたり、損害そんがいかうむことおびたゞしく、こゝろなやましたることじつすくなからざるなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
いろいろな災厄さいやくにあっていましても、京のほうからは見舞いを言い送ってくれる者もありませんから、ただ大空の月日だけを昔馴染なじみのものと思ってながめているのですが
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
自分が最早や妙子に対してはほとんど愛情を持っていないこと、むしろ妙子がき起す災厄さいやくから自分たち一家を守ることにのみ汲々きゅうきゅうとしていることを、不用意のうちに曝露ばくろしているのであって
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その災厄さいやくの恐ろしさを忍ぶにも二人きりだったし、泣くにも二人きりだったし、死のつぎに来る堪えがたい仕事に気を配るにも二人きりだった。親切な門番の女が、彼らを少し助けてくれた。
と、災厄さいやくはつぎからつぎへと起こる、ある夜かれが家へ帰ると母が麻糸あさいとつなぎをやっていた、いくらにもならないのだが、彼女はいくらかでも働かねば正月を迎えることができないのであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それも庶民の旺盛な生態のつねとして、きのうの災厄さいやくなどにはクヨクヨせず、もう懸命に働き働き、冗談まじりにさえ言ってることだが、じつは彼らの悲泣も悲願もそれにはこもっていたのだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
共に災厄さいやくをのがれたすだれ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
半ば光と影とのうちにあってナポレオンは、幸運のうちに保護され災厄さいやくを許されてるように感じていた。
マメが邑里ゆうりの生活に何よりも大事なことは異存がない。ただネブタを災厄さいやくとして放ちてようというのは如何と、カルモチン常用者輩は一斉いっせいに批難するかも知れない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
旧臘きゅうろう押し詰まっての白木屋しろきやの火事は日本の火災史にちょっと類例のない新記録を残した。犠牲は大きかったがこの災厄さいやくが東京市民に与えた教訓もまたはなはだ貴重なものである。
火事教育 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
宮もこんな所で災厄さいやくにあって終わる運命で自分はあるのかもしれぬとお思われになり非常にお泣きになった。心の弱い者はましてきわめて悲しいことであるとお見上げしていた。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかかれはもう群集ぐんしふあひだまじつて主人しゆじん災厄さいやくおもむこゝろおこらなかつた。かれ群集ぐんしふこゑいて、みづか意識いしきしない壓迫あつぱくかんじた。かれひど自分じぶんあはれつぽい悲慘みじめ姿すがたきたくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
病者の八割は死んだ——しかもおそるべき死にかたで。なぜならこの災厄さいやくは極端な狂暴さで現われてきて、あの「乾性」と名づけられている、最も危険な形態をしばしば示したからである。
日本についてあるいいやな印象を受けられたかと思うのであるが、ああ云うことは何処どこの国にもまれにしか起らない災厄さいやくであるから、何卒なにとぞあれにおりなく、平和になったら再び日本へ来ていただきたいこと
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もし胸甲騎兵らが凹路おうろ災厄さいやくのために最初の突撃力が弱められていなかったならば、彼らは敵の中央を撃破し勝利を決定していたろうとは万人の疑わないところである。
幽鬼などが住んでいてそうした災厄さいやくをしばしば起こすのでなかろうか、それと気もつかずにどうして長く宇治などへ置いていたのだろう、不快な関係がほかに結ばれたらしいことなども
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「お内儀かみさん、こらうんわりやうありあんせんね」かれあはれにこゑけた。かれ災厄さいやくのちにしみ/″\とういふことをいてくれるもの内儀かみさんのほかにはまだなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)