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濺
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そそ
ふりがな文庫
“
濺
(
そそ
)” の例文
むろん
此等
(
これら
)
の人達は、すでに地上とはきれいに絶縁して
了
(
しま
)
い、彼等の墓石の上に、哀悼の涙を
濺
(
そそ
)
ぐものなどは、
最早
(
もはや
)
只
(
ただ
)
の一人もない。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
少女は驚き感ぜしさま見えて、余が
辞別
(
わかれ
)
のためにいだしたる手を
唇
(
くちびる
)
にあてたるが、はらはらと落つる熱き
涙
(
なんだ
)
をわが手の
背
(
そびら
)
に
濺
(
そそ
)
ぎつ。
舞姫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
英国の歴史を読んだものでジェーン・グレーの名を知らぬ者はあるまい。またその薄命と無残の最後に同情の涙を
濺
(
そそ
)
がぬ者はあるまい。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
また冬の雨降り
濺
(
そそ
)
ぐ夕暮なぞには破れた
障子
(
しょうじ
)
にうつる燈火の影、
鴉
(
からす
)
鳴く墓場の枯木と共に遺憾なく色あせた冬の景色を造り出す。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
正造が、口を極めて現場の惨状を訴えるに従って、壇上から一種凄惨な気が迸って、人々の頭上へ降り
濺
(
そそ
)
ぐおもむきがあった。
渡良瀬川
(新字新仮名)
/
大鹿卓
(著)
▼ もっと見る
その時炎の上に
濺
(
そそ
)
がれて居た彼の瞳に、ふと何の関聯もなしに、妻の後姿が、
極
(
ご
)
く小さく——あのフェアリイほど小さく見えるやうな気がした。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
一朝にしてただ野蛮にして弱小なるの罪をもって英国のために滅ぼさるるや天下一人の涙をだに
濺
(
そそ
)
ぐ人はあらざるなり。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
その調子に、何となく役人に追われる者の方に、
却
(
かえ
)
って同情が
濺
(
そそ
)
がれているのを感じながら、心を残して雪之丞は、しとやかに駕籠に身を入れる。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
ところが、今私の眼前に降り
濺
(
そそ
)
いでゐるホテルの中庭の雨の音や、芝生や若葉の色には愁ひの影は添つてゐなかつた。
雨
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
石榴の隙間から見えるその空を仰向きに、実を食い破っている矢代に、燦爛たる朝の充実した光りが降り
濺
(
そそ
)
いでいた。
旅愁
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
漫々と漂う濁流の上に、夕陽の反照が赤々と
濺
(
そそ
)
がれている。流れを縦に切って鮮かなスペクトルが土城に迫っていた。
土城廊
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
誰か、近代人の作を借りて来たのか、どうもその手に入った書きぶりを見ていると、他の作を借りて、自家の磊嵬に
濺
(
そそ
)
ぐものとも思われないのです。
大菩薩峠:31 勿来の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それが給仕頭とみえて、黒奴の一人が我々を招じ入れたのは、その花園に向って突き出した、残照の降り
濺
(
そそ
)
いでいる広やかなテラスの一角であった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
うらうらと晴れ
亙
(
わた
)
った、暖かい日だった。冬とは思われない陽ざしの降り
濺
(
そそ
)
ぐ、なまあたたかい小春日和である。
初雪
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
まだ結婚しない男子は妙齢婦人の機嫌を取ろうと思ってさも親切らしく熱心らしく愛情を
濺
(
そそ
)
ぐような顔して
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
『
倫敦
(
ロンドン
)
塔』のなかで漱石の言つた通り、「英国の歴史を読んだもので彼女の名を知らぬ者はあるまいし、又
其
(
そ
)
の薄命と無残の最後に同情の涙を
濺
(
そそ
)
がぬ者はない」
ジェイン・グレイ遺文
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
その年は明治の年間でも、末の代まで記憶に残るであろう西南戦争のあった年で、西郷隆盛が若くから国家のために沸かした熱血を、城山の土に
濺
(
そそ
)
いだ時である。
樋口一葉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
伸過ぎた身の
発奮
(
はず
)
みに、
蹌踉
(
よろ
)
けて、片膝を
支
(
つ
)
いたなり、口を開けて、
垂々
(
たらたら
)
と
濺
(
そそ
)
ぐと——水薬の色が光って、守宮の頭を
擡
(
もた
)
げて
睨
(
にら
)
むがごとき目をかけて、滴るや否や
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
いっそ真実の狂人になって世界中の女が悉く僕にその全部の愛を
濺
(
そそ
)
いで生きているのだというような妄想を持ち得たら、自分はどれ程幸福になることが出来るだろう。
浮浪漫語
(新字新仮名)
/
辻潤
(著)
が、すぐにまた前へ倒れた。雨は
俯伏
(
うつぶ
)
せになった彼の上へ
未練未釈
(
みれんみしゃく
)
なく降り
濺
(
そそ
)
いだ。しかし彼は砂の中に半ば顔を
埋
(
うず
)
めたまま、身動きをする
気色
(
けしき
)
も見えなかった。……
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
道の右は山を
𠠇
(
き
)
りて長壁と成し、
石幽
(
いしゆう
)
に
蘚碧
(
こけあを
)
うして、
幾条
(
いくすぢ
)
とも白糸を乱し懸けたる
細瀑小瀑
(
ほそたきこたき
)
の
珊々
(
さんさん
)
として
濺
(
そそ
)
げるは、
嶺上
(
れいじよう
)
の松の
調
(
しらべ
)
も、
定
(
さだめ
)
てこの
緒
(
を
)
よりやと見捨て難し。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
「我を贖う者」は我の弁護者(我を義なりと証して我の汚名を
濺
(
そそ
)
いでくれる者)の意である。この者が今
活
(
い
)
きている事を我は知る——我は確信する——というのである。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
無事を祝して
濺
(
そそ
)
ぎし酒のかびなり、岸辺に近き
砂礫
(
されき
)
の間、離別の涙
揮
(
ふる
)
いし跡には、青草いかに生い茂れるよ、行人は皆名残りの柳の根を削りてその希望を
誌
(
しる
)
して往けども
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
そんなことを云う
遑
(
ひま
)
があったら、なぜ貴方がたはもっと大局に目を
濺
(
そそ
)
がないのです。貴方がたの不注意で、いま国家のために懸けがえのない人造人間研究家が殺害されたのです。
人造人間事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
虧
(
か
)
けてはいたが、十五夜を過ぎたばかりの月は柔和な光をふんだんにふり
濺
(
そそ
)
いでいた。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
然
(
しか
)
るに、その後、ふとソクラテスの伝記を読むに至って、私の満腔の崇拝心と愛好心は
悉
(
ことごと
)
くこの偉人の上に
濺
(
そそ
)
がれるようになり、同時に、永年の懐疑も、
頓
(
とみ
)
に氷解するを得たのである。
ソクラテス
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
どうかして蘇生さして遣りたいと思つて、植木屋に頼んで或る薬を根本に
濺
(
そそ
)
がした。それから二升ばかりの酒を惜し気もなく呉れて遣つた事もあつた。それでも勢を盛り返さなかつた。
発行所の庭木
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
強烈な陽光が燦々と降り
濺
(
そそ
)
ぎ、その下に骨ばった火山系の山彙が変化の多い形貌で展開し、古い石造の家屋が密集したり、散在したりして、橄欖・扁桃・柘榴・ぬるで・いちじく等の果樹
エトナ
(新字新仮名)
/
野上豊一郎
(著)
毎日婦人をして水を
濺
(
そそ
)
ぎ遺骸を洗わせ、こうすること約一年を経て四肢身体が少しも腐敗せぬときは、大いに婦人を賞し衣服煙草の類を与えるが、もしこれに反して腐敗することがあると
屍体と民俗
(新字新仮名)
/
中山太郎
(著)
勇士が虎に勝った史話は多く『淵鑑類函』や『佩文韻府』に
列
(
なら
)
べある。例せば『列士伝』に秦王
朱亥
(
しゅがい
)
を虎
圏
(
おり
)
の中に
著
(
お
)
いた時亥目を
瞋
(
いか
)
らし虎を視るに
眥
(
まなじり
)
裂け血出
濺
(
そそ
)
ぐ、虎ついにあえて動かず。
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
貪婪
(
たんらん
)
飽くなき岩でこの、ひそかにその爪牙を磨き、梅坊主を陥れ、ついにこれを追って自分がそのあとに直るに到ったのを憎み、そうして、わが梅坊主のため、
万斛
(
ばんこく
)
の泪を
濺
(
そそ
)
ぐのにあった。
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
モウ用達が済んだらしい音がすると、一人は厠の中の手洗鉢のある所まで行って、世子の手へ水を
濺
(
そそ
)
ぐ。それから床に入られると、もとの如く一人は起きて、一人は介だから寝るのである。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
池の水には白鳥が群を作って遊んでいた、雨がその上に静かに
濺
(
そそ
)
いでいた。
須磨寺附近
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
薪に油を
濺
(
そそ
)
ぐは罪、
鹿子
(
あれ
)
は
鹿子
(
あれ
)
でも、その親に、受けた恩義は捨てられぬ。はて困つた、三合の、小糠はなぜに持たなんだと、思はず漏らす溜め息に。ヘヘヘヘヘ旦那御退屈でござりませう。
したゆく水
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
去歳
(
こぞ
)
の春すが
漏
(
もり
)
したるか怪しき
汚染
(
しみ
)
は滝の糸を乱して
画襖
(
えぶすま
)
の
李白
(
りはく
)
の
頭
(
かしら
)
に
濺
(
そそ
)
げど、たて
付
(
つけ
)
よければ身の毛
立
(
たつ
)
程の寒さを
透間
(
すきま
)
に
喞
(
かこ
)
ちもせず、
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も安楽にして居るにさえ、うら寂しく
自
(
おのずから
)
悲
(
かなしみ
)
を知るに
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
彼女は、この肉色の天と地との間を海辺へと走り、全身の曲線を全く薄薔薇色の光の海のなかに融け消えて、下半身は真白に彩られ、波は驚き、規則正しく起伏し、波のしぶきは彼女の体に降り
濺
(
そそ
)
ぐ。
不周山
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
偶然な小僧の事件は、彼のそうした気持に油を
濺
(
そそ
)
いだ。
贋物
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
その容貌を熟視しつつハラハラと
熱
(
あつ
)
き涙を
濺
(
そそ
)
ぎたりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
雨も緑に、さと
濺
(
そそ
)
ぎ、たたと
滴
(
したた
)
る。
有明集
(旧字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
ブランカの精髄を
濺
(
そそ
)
いでね。
獄中への手紙:12 一九四五年(昭和二十年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
降り
濺
(
そそ
)
ぐ暴圧の弾丸を通じ
歩哨戦
(新字新仮名)
/
今村恒夫
(著)
午
(
ひる
)
にも晩にも食事の度々わたしは強い珈琲にコニャックもしくはキュイラソォを
濺
(
そそ
)
ぎ、角砂糖をば大抵三ツほども入れていた。
砂糖
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
未
(
いま
)
だ
曾
(
かつ
)
て自制の人でないのはなく、何れも皆自己に割り当てられたる使命の遂行に向って、
畢生
(
ひっせい
)
の心血を
濺
(
そそ
)
ぐを忘れなかった。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
突然疑惑の
焔
(
ほのお
)
が彼女の胸に燃え上った。
一束
(
ひとたば
)
の古手紙へ油を
濺
(
そそ
)
いで、それを
綺麗
(
きれい
)
に庭先で焼き尽している津田の姿が、ありありと彼女の眼に映った。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
もっと濃い情愛を
濺
(
そそ
)
がれたかったはずなのに、それは存外
冷
(
ひや
)
やかで、時としてはお互いの心と心との間に鉄を
挿
(
はさ
)
んだような隔てが出て来るように感じ
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
しかも怒濤が艦橋にぶつかって大波が甲板を洗うごとに、飛沫は雨のようになって損傷船室へ降り
濺
(
そそ
)
いでくる。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
あるいは血をも
濺
(
そそ
)
がざるべからざる
至重
(
しちょう
)
の責任も、その収入によりて難なく果たされき。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
驚喜の涙を
濺
(
そそ
)
ぎ、上天が自家の鉄腸雄志を試みるに足る絶大の海面を与えたるを祝し、初めて太平洋の名を下せし当時においては、地球を一周したる実に三年の歳月を費やしたり。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
吁
(
ああ
)
、宮は生前に
於
(
おい
)
て
纔
(
わづか
)
に一刻の
前
(
さき
)
なる生前に於て、この
情
(
なさけ
)
の熱き一滴を
幾許
(
いかばかり
)
かは
忝
(
かたじけ
)
なみけん。今や
千行垂
(
せんこうた
)
るといへども
効無
(
かひな
)
き涙は、
徒
(
いたづら
)
に無心の死顔に
濺
(
そそ
)
ぎて宮の
魂
(
こん
)
は知らざるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
すると、その隙間からはすぐ、日の光が投げつけるやうに、押し寄せるやうに、沁み渡るやうに、あの枯木に等しい薔薇の枝に降り
濺
(
そそ
)
いだ。薔薇を
抱擁
(
はうよう
)
する
日向
(
ひなた
)
は追々と広くなつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
濺
漢検1級
部首:⽔
18画