朝夕あさゆう)” の例文
それで夫婦ふうふ朝夕あさゆう長谷はせ観音かんのんさまにおいのりをして、どうぞ一人ひとり子供こどもをおさずけくださいましといって、それはねっしんにおねがもうしました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あの梅の鉢は動坂どうざかの植木屋で買ったので、幹はそれほど古くないが、下宿の窓などにせておいて朝夕あさゆうながめるにはちょうど手頃のものです。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は朝夕あさゆう静寂な谷間の空気を呼吸しても、寸毫すんごうの感動さえ受けなくなった。のみならずそう云う心の変化が、全然彼には気にならなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
サアどうだ、朝夕あさゆう口でばかりくだらない事をいって居るが、実行しなければ話にならないじゃないかと、おおいひやかしてやった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
刻苦勉励、学問をもつかまつり、新しき神道を相学び、精進潔斎しょうじんけっさい朝夕あさゆう供物くもつに、魂の切火きりび打って、御前みまえにかしずき奉る……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私どもは、永い間の浪人暮しで、粗衣粗食そいそしょくに馴れて参ったせいか、御当家より朝夕あさゆう頂戴ちょうだいいたす二汁五菜のお料理は、結構すぎて、ちと重うござります。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのときの傷痕きずあとふるびてしまって、みきには、雅致がちくわわり、こまかにしげった緑色みどりいろは、ますます金色きんいろび、朝夕あさゆうきりにぬれて、疾風しっぷうすりながら
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの老女を中心に輪を作りながら朝夕あさゆう雑談をつゞけていたので、彼はおり/\彼女等の席へ近づいて行って、その圓陣の中にいる例の娘をぬすみ見ることが出来たのであった。
その間の務めは報酬ほうしゅうなしに、あるいは法律観念なしに行われる、すなわちあたたかき愛情よりあふれ出たもので、朝夕あさゆうこの間の関係をまっとうせんがために、こうすれば法にれる
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さかずき持つ妓女ぎじょ繊手せんしゅは女学生が体操仕込の腕力なければ、朝夕あさゆうの掃除に主人が愛玩あいがん什器じゅうきそこなはず、縁先えんさきの盆栽も裾袂すそたもとに枝引折ひきおらるるおそれなかりき。世の中一度いちどに二つよき事はなし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その時、自分は馬に乗るどころでなく、一家を構える力もなく、下宿屋の二階にくすぶって、常に懐中の乏しさに難渋なんじゅうし、朝夕あさゆう満員の電車にいわし鑵詰かんづめの姿をして乗らねばならぬ身の上だった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「まあ! めつきり朝夕あさゆうつめたくなりましてね」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
茶に、黒に、ちりちりに降るしもに、冬は果てしなく続くなかに、細い命を朝夕あさゆうに頼み少なくなぐ。冬は五年の長きをいとわず。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清八は爾来じらいやむを得ず、おの息子むすこ清太郎せいたろう天額てんがくにたたき小ごめ餌などを載せ置き、朝夕あさゆう富士司を合せければ、鷹も次第に人の天額へ舞いさがる事を覚えこみぬ。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朝夕あさゆう存じながら、さても、しんしんと森は深い。(樹立こだちを仰いで)いずれもれよう、すぐにまたはれ役者衆やくしゃしゅうじゃ。と休まっしゃれ。御酒みきのお流れを一つ進じよう。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
〔所で〕ややもするとその男が病気とか何とかう時には、男のだいをして水も汲む。朝夕あさゆうの掃除は勿論もちろん、先生が湯に這入はいる時は背中せなかを流したり湯をとったりしてらなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
朝夕あさゆうのかすみのいろも赤城あかぎやまそなたのかたにむかでしらるゝ
表へ出れば人の波にさらわれるかと思い、うちに帰れば汽車が自分の部屋に衝突しはせぬかと疑い、朝夕あさゆう安き心はなかった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可笑おかしいよりは何となく空恐しい気が先に立って、朝夕あさゆう叔母の尼の案内がてら、つれ立って奈良の寺々を見物して歩いて居ります間も、とんと検非違使けびいしの眼をぬすんで
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
早衰のわが身が朝夕あさゆうの世話する事とはなりぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「この人は生きた研究の材料として、堀という夫をすでにもっているではないか。その夫の婦人に対する態度も、朝夕あさゆうそばにいて、見ているではないか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると果して吉助は、朝夕あさゆう一度ずつ、額に十字を劃して、祈祷を捧げる事を発見した。彼等はすぐにその旨を三郎治に訴えた。三郎治も後難を恐れたと見えて、即座に彼を浦上村の代官所へ引渡した。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朝夕あさゆうほうきったり、あらそそぎをしたりして、下女だか仲働だか分らない地位に甘んじた十年のあと、別に不平な顔もせず佐野といっしょに雨の汽車で東京を離れてしまった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
別荘には留守番るすばんじいさんが一人いましたが、これは我々と出違でちがいに自分のうちへ帰りました。それでも拭掃除ふきそうじのためや水を汲むために朝夕あさゆう一度ぐらいずつは必ず来てくれます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の朝夕あさゆう尽している親切は、ずいぶん精一杯なつもりでいるのに、夫の要求する犠牲には際限がないのかしらんという、不断からの疑念が、濃い色でぱっと頭の中へ出た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
苦痛のほかは何事をもぬほどにはげしく活動する胸をいだいて朝夕あさゆう悩んでいたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々は低い軒の下から朝夕あさゆうこの松を見上るのを、高尚な課業のように心得て暮しています。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思い出すとここで暑い朝夕あさゆうを送ったのももう三カ月の昔になる。そのころは二階のひさしから六尺に余るほどの長い葭簀よしず日除ひよけに差し出して、ほてりの強い縁側えんがわ幾分いくぶんか暗くしてあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで両家は向う同志だから、朝夕あさゆう往来をする。往来をするうちにその娘が才三に懸想けそう
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余は五十グラムの葛湯くずゆうやうやしく飲んだ。そうして左右の腕に朝夕あさゆう二回ずつの注射を受けた。腕は両方とも針のあとまっていた。医師は余に今日はどっちの腕にするかと聞いた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はてしのない広野ひろのめ尽すいきおいで何百万本という護謨の樹が茂っている真中に、一階建のバンガローをこしらえて、その中に栽培監督者としての自分が朝夕あさゆう起臥きがする様を想像してやまなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)