かわ)” の例文
平「此の程は役がかわってから稽古場もなく、誠に多端たゝんではあるが、ひまの節に随分教えてもやろう、其のほうの叔父は何商売じゃの」
その人雪崩なだれに危うく突き倒されそうになって、身をかわした途端、崩れ立った人垣の間から私は、見るべからざる物を眺めてしまったのであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
叔父と豊世とはこんな言葉をかわしながら、薄く緑色に濁った水の流れて行くのを望んだ。豊世はうれわしげに立っていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手続き書と書いたものや、かわせ一札の事と書いたものや、明治二十一年一月約定金請取やくじょうきんうけとりの証と書いた半紙二つ折の帳面やらが順々にあらわれて来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうです。赤色灯のついているときは、安全なんです。そのときは、水牛仏は静止しているのです。そして水銀灯に切りかわると、水牛仏が廻転を始めるのです」
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仕官を嫌う由縁私の生涯は終始しゅうしかわることなく、少年時代の辛苦、老後の安楽、何も珍らしいことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
はるさくらにぎわひよりかけて、なき玉菊たまぎく燈籠とうろうころ、つゞいてあき新仁和賀しんにわがには十ぷんかんくるまこと此通このとほりのみにて七十五りようかぞへしも、二のかわりさへいつしかぎて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今の耳にもかわらずして、すぐ其傍そのそばなる荒屋あばらやすまいぬるが、さても下駄げたと人の気風は一度ゆがみて一代なおらぬもの、何一トつ満足なる者なき中にもさかずきのみ欠かけず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かわってそれらの有縁うえんいて、秀吉の麾下きかにまとめたのも、専ら官兵衛の働きにあったことなので
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呉一郎があやまって狂女の作った落し穴に片足を踏み込んだ拍子に肩をかされて同体に倒れると、身をかわす暇もなく本館軒下の敷石に肋骨を打ち付けて人事不省に陥った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
交詢社こうじゅんしゃの広間に行くと、希臘風ギリシヤふうの人物を描いた「神の森ボアサクレエ」の壁画のもとに、いつもんの紳士やかわのフロックコオトを着た紳士が幾組となく対座して、囲碁仙集いごせんしゅうをやっている。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども軽忽けいこつに発狂したる罪はを鳴らして責めざるべからず。否、忍野氏の罪のみならんや。発狂禁止令を等閑とうかんに附せる歴代れきだい政府の失政をも天にかわって責めざるべからず。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「さよう、もっと大切な物が、しかも名画と同じようにかわりの品物をおいていきました。」
公らの書翰に至っても、またこれに準じて報を為さざるなり。ただ、貴国の通商は則ち旧約にしたがいてかわるなし。またこれ慎しんで祖法を守るのみ。幸いにこれを国王に稟せよ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
巡査はたいかわして其利腕そのききうでを掴んだが、降積ふりつむ雪に靴を滑らせて、二人は折重おりかさなって倒れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かわりの品を作って返しても、相手は怒って受け取らず、是非とも元の物をと責めはたるので、むなく舟に乗って同じ場所に来て水中にくぐり入ると、いつの間にか根の島に来てしまった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから変事が続きてすまいきれず、売物に出したのをある者がかいうけ、その土蔵を取払とりはらって家を建直たてなおしたのだが、いまだに時々不思議な事があるので、何代かわっても長く住む者が無いとの事である。
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
彼の答えはいつもの通りふんという調子でした。Kと私は細い帯の上で身体をかわせました。するとKのすぐ後ろに一人の若い女が立っているのが見えました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まだ話があるけれども、実は僕の妻が君に逢いたいそうで待っているから、かわる」というので、振切ふりきるようにして友達の霊は無くなりまして、今度は細君が出て来た。
中津川の和泉屋いずみやは、半蔵から言えば親しい学友蜂谷香蔵はちやこうぞうの家である。その和泉屋が角十にかわって問屋を引き受けるなぞも半蔵にとっては不思議な縁故のように思われた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もうあとの空巣あきすへは大久保長安おおくぼながやすさまの人数が、かわりにふもとまで引っ越しにきているんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かわって、飯島平左衞門は凛々りゝしい智者ちえしゃにて諸芸に達し、とりわけ剣術は真影流の極意ごくいきわめました名人にて、おとし四十ぐらい、人並ひとなみすぐれたお方なれども、妾の國というが心得違いの奴にて
れも蒲團ふとんかぶつて半日はんにちればけろ/\とするやまひだから子細しさいはなしさと元氣げんきよく呵々から/\わらふに、亥之ゐのさんがえませぬが今晩こんばん何處どちらへかまゐりましたか、かわらず勉強べんきよう御座ござんすかとへば
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いか銀が難癖なんくせをつけて、おれを追い出すかと思うと、すぐ野だ公がかわったり——どう考えてもあてにならない。こんな事を清にかいてやったら定めて驚く事だろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてなお容易には、このまま明智光秀が一夜に取ってかわったものを、ゆるすことではあるまいというのが、一般の観測でもあり、また恟々きょうきょうと、明日を怖れる所以ゆえんでもあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
割合に込んだ日で、大島先生はいたところへ行って腰掛けた。三吉と反対の側に乗ったが、連があるのと、客を隔てたのとで、互に言葉もかわさなかった。二人は黙って乗った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
義手や義足をピストルで撃ってみても、すぐおかわりをはめて元のようになるわけだ。
つまり第十号としては、隆夫の霊魂に入れかわったものの、すべて隆夫のとおりをまねることはできなかったし、また隆夫の記憶や思想をうまく取り入れることは一層むずかしかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分は一年のうちで人の最もうれしがるこの花の時節を無為むいに送った。しかし月がかわって世の中が青葉で包まれ出してから、ふり返ってやり過ごした春を眺めるとはなはだ物足りなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
為替かわせかわせると云う字じゃいけませんかとはなはだ文学者らしからぬ事を答えると、佐治さんは承知できない顔をして、だってあれは物を取り替える時に使うんでしょうとやり込めるから
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「よし、こっちへかわれ。おれが、運転する」
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕は日に焼けて心持色の黒くなったと思われる母と顔を見合わして挨拶あいさつを取りかわす前に、まず千代子に向ってどうして来たのだと聞きたかった。実際僕はその通りの言葉を第一に用いたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)