扶持ぶち)” の例文
「——つまりその記録によりますとですね、吉川銀左衛門氏は、当時、五こく十人扶持ぶちをいただいておったという事でありまして……」
彼女はその頃はもう、あてがい扶持ぶちの別邸住いになっていたが、そこから川村の目を忍んで、ひとりでわしのホテルへ遊びに来ることもあった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今の世の価にては侍二人の給金八両、中間ちゅうげん八人の給金二十両、馬一疋まぐさ代九両を与え、また十人扶持ぶち五十俵を与うれば、残り百三十九俵あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それは、あの日には三十俵五人扶持ぶちの門田与太郎であった。しかし今は、鶴のようなしまった身体からだに公然と着る絆天はんてん股引ももひきがよく似合っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼の一家も饑饉ききんたたられ、その日その日の食い扶持ぶちにさえ心を労さなければならなかった。その貧困のありさまは彼の日記にこう書かれてある。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
井上源兵衛といえば、九両三人扶持ぶちを頂いて、小身ながらも、君候在世ざいせいみぎりはお勝手元勘定方を勤めていた老人である。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
彼女は自分で扶持ぶちを稼いでゐるので、決して楽ではないであらうに、貧しい中でもリヽーに滋養分を与へると見える。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三度の食ひ物もあてがひ扶持ぶち、飯が一杯に味噌汁少々、漬物が二た片、盆も正月も、それで押つ通したといふから、大したいぢめやうぢやありませんか
「おれは役料を十人扶持ぶち取っている」と土田は穏やかに云った、「父からきまって貰う小遣こづかいもある、それに、枡平では勘定をろくさま取らないんだ」
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
世に在るうちは国許藩中において中小姓まで勤め上げて五人扶持ぶちを食んでいたが、女色のことで主家を浪々して早くから江戸本所割下水えどほんじょわりげすいに住んでいた。
太閤たいこう時代からの家柄でね、先祖代々、異国と御直おじき商売というのをやっていたからなかなか金持よ、俸禄はたった七十俵五人扶持ぶちしきゃ貰っていねえけれど
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かつ先生なんぞも裏小路うらこうじの小さな家にくすぶっておいでの時節ですからね、五千石の私どもに三人扶持ぶちはもったいないわけですが、しかし恥ずかしいお話ですが
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
城持ちの諸侯ではなかったが、名将の血をけた後裔こうえいというところから、捨て扶持ぶち二万石を与えられて、特に客分としての待遇をうけている特別扱いの一家でした。
自分の食い扶持ぶちは働ける間は働かにゃと、留守番の昼間をぼつぼつとおけの輪替えなどしていた。それはまるで働ける自分を楽しみきっているかのような様子であった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
それは、今まで、さしたるライバルもなく、呑気のんきにあてがい扶持ぶちに満足していた公卿たちである。
また伊達家へ帰ったが、其時は僅に百人扶持ぶちを給されたのみであったのに、斎藤兵部というものが自ら請うて信夫しのぶ郡の土兵五千人を率いて成実に属せんことを欲したので
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これは森権之進ごんのしんと云ふ中老のつむじ曲りで、身分は七十俵五人扶持ぶち御徒士おかちである。この男だけは不思議に、虱をとらない。とらないから、勿論、何処どこと云はず、たかつてゐる。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
とかくは有金の何ほどを分けて、若隠居の別戸籍にと内々の相談はまりたれど、本人うわの空に聞流して手に乗らず、分配金は一万、隠居扶持ぶち月々おこして、遊興に関を据へず
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひねったようだけれど、菊太郎さんがあの通り狂人きちがいのようになっているから、仕方なしにを折ったのらしい。愚痴をこぼしていたよ。嫁は矢っ張り当てがい扶持ぶちが一番簡単のようだ
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ちっとばかりの宛がい扶持ぶちで、勝手な熱を吹く。いずれ一泡吹かしてやらなきゃ」
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女房子供をウッチャラカシに養ふたつて、二万ぐらゐの捨て扶持ぶちはいるだらう。
金銭無情 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
これを通語にて扶持ぶちという。食物すでにるも衣服なかるべからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
三両一人扶持ぶちを出せば、旗本屋敷で立派な侍が召し抱えられる世のなかに、ぽっと出の若い下女に一年三両の給金を払うというのは、なにか仔細がなければならないと彼は不思議に思っていると
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伊右衛門は女房は子孫のためにめとるもので、めかけとして遊ぶものでないから、それほど吟味をするにも及ばないと思った。この痩浪人やせろうにんは一刻も早く三十俵二人扶持ぶち地位みぶんになりたかったのであった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
関の趾は村の北はずれあざ小松にある、関守は戸倉から一人、松浦三郎兵衛を初代とし、土出から一人、星野市之丞を初代として、各々明治まで十三、四代の間之を勤め、二人扶持ぶちを給されていた。
尾瀬の昔と今 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
どうせ義雄さんの方から節ちゃんの食い扶持ぶちが行く訳ではなかろうし、台湾の伯母さんから見れば厄介者やっかいものが一人舞込むようなものだからねえ。男はそこへ行くと大ざッぱだが、女の人はこまかいから。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青森の人で、手が切れてからも、一年に一度ぐらいは出て来て、子供の食い扶持ぶちぐらいはよこす、わ。——それが面白い子よ。五つ六つの時から踊りが上手じょうずなんで、料理屋や待合から借りに来るの。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
で版摺一人の手間賃が向う扶持ぶちで五十銭ずつやらなければならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼女は自分で扶持ぶちを稼いでゐるので、決して楽ではないであらうに、貧しい中でもリヽーに滋養分を与へると見える。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
打ち見たところ、五人扶持ぶちぐらいな御小人おこびとの住居でもあろうか。勝手つづきの庭も手狭てぜまで、気のよさそうな木綿着の御新造ごしんぞはらものを出してきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな所へ寮を建てて、そこへ奥様を住まわせて、あてがい扶持ぶちをくれて飼って置かれる。……だから奥様にしてからが、お心が面白くないはずだ。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あてがい扶持ぶちの低い家禄のものとして、余裕のないその日その日は、気の持ちようまでもぎすぎすさせ一図にさせたのだ。ひびき渡る声で彼は云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
馬廻総支配助役四百二十石十人扶持ぶち西原知也。そうしてその上に「死」と朱で書いてあるが、墨で二度まで消してあるのは、他の罪科を改めたものとみえる。
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その頃の秤座は通四丁目の一角をめる大きな建物で、役人としては僅か切米十俵二人扶持ぶちの小身ですが、二戸前の土藏を後に背負つて、繁昌眼を驚かすばかり。
とかくは有金ありがねなにほどをけて、若隱居わかいんきよべつ戸籍こせきにと内〻うち/\相談さうだんまりたれど、本人ほんにんうわのそら聞流きゝながしてらず、分配金ぶんぱいきんは一まん隱居いんきよ扶持ぶち月〻つき/″\おこして、遊興ゆうけうせきへず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
陸軍大将りくぐんたいしょうになった本間ほんまさんなんか三人扶持ぶち足軽あしがるだった。実業界ではばをきかしている綾部あやべさんがせいぜい五十石さ。溝口みぞぐち叔母おばさんのところが七十石。おまえのおかあさんの里が百石
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「うふふふ、役目はいわいでもわかっておる。捨て扶持ぶちをもらって幕府のために刺客を勤むるやせ浪人であろう! 拙者はいかにも篁守人、それと知ったらなぜ斬ってかからぬ? 来い!」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
去年三月主君浅野内匠頭あさのたくみのかみ殿中でんちゅうにて高家こうけの筆頭吉良上野介きらこうずけのすけ刃傷にんじょうに及ばれ、即日芝の田村邸において御切腹、同時に鉄砲洲の邸はおげとなるまで、毛利小平太は二十石五人扶持ぶち頂戴ちょうだいして
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
三一さんぴんとは三と一といふことなり、三は三なれども一はまたピンともいふ、ここに於て三両一人扶持ぶちをいただくやからをすべて三ピンとは申すなり、まつた、折助といふは、柳原河岸その他に於て
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「わずか五十石八人扶持ぶちにござります」
彼女は自分で扶持ぶちかせいでいるので、決して楽ではないであろうに、貧しい中でもリリーに滋養分を与えると見える。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして武蔵の推挙に依って、それから永国は三十人扶持ぶちで細川家に抱えられ、代々、藩の刀鍛冶かたなかじとして、城下の高田原楠町に住んでいたそうである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正三郎はまだ家督を取っていないが、奉行職記録所の頭取心得とうどりこころえを命ぜられ、役料十人扶持ぶちを貰っている。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「隠し扶持ぶちなども進ぜよう。生活くらしに事を欠かぬように、この美作が世話をしてやろう」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「散々こき使はれた上、三度の食事もあてがひ扶持ぶちで、可哀さうにあの御姉妹は、腹一杯には水も呑めません。尤も、あの馬鹿息子の言ふ通りに、嫁になる氣になつたら別でせうが」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
うですよ。精々五人扶持ぶちですかな」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
転宗すると、幕府の同心になり、この山屋敷のお長屋に住んで二十人扶持ぶちをうけ、大小チョンまげ、名も二官と名乗って、すっかり日本に帰化しています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役目も諸奉行職監査から金穀出納元締役となり、家禄も百三十石から百五十五石十人扶持ぶちと加増された。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
食禄は足軽へ毛の生えた五人扶持ぶち、家族もなく身寄もなく、ろくな友達も無い憐れな存在ですが、今年の参覲交代に、幸か不幸か選ばれてお供の端に加わり江戸のお留守居にあごで使われて
三十人扶持ぶちを給したと云う。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)