手套てぶくろ)” の例文
梅子うめこさん!梅子うめこさん!ぐに手套てぶくろつて頂戴てうだい!』とこゑがして、やがてパタ/\と梯子段はしごだんのぼちひさな跫音あしおとがしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「警官なんか一般に手套てぶくろをはめていないんだからね。やましい者でなくても、そこに余りきれいでない手の痕がくっつく筈です」
あるひいはく——禮服れいふく一千兩いつせんりやう土用干どようぼし——大禮服たいれいふく東京とうきやう出來できた。が、ばういたゞき、けんび、手套てぶくろしぼると、すわるのがへんだ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時々彼は何か捜すように、彼女の前髪だの、薄い藤色の手套てぶくろった手だのを眺めて、どうかするとその眼でキッと彼女を見ることもある。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聖母せいぼ手套てぶくろ」、刺罌粟とげけし母子草はゝこぐさ、どんなに眞白ましろな手よりも、おまへたちのはうが、わたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
因みに『狐の手套てぶくろ』と云ふのは、あの夏の日ざかりに紫いろの花を咲かせるヂギタリスの花の異名ださうだ。
狐の手套〈小序〉 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
黄色の手套てぶくろのやうな色をした、小さな狸犬ダツハフンドは、何もかも相變らずだと云つたやうな顏つきで、窓の傍の、ゆつたりとした、絹張りのソファに坐り込んでゐた。
あとはネクタイ、ズボン、胴衣チヨツキ上衣コート、と苦もなく着せられ、白の手套てぶくろは胸のポツケツトに半分出して入れて置くものと教へられて、此れで装束は一先づ成りぬ。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
私たちは、長靴を持つてゐなかつたし、雪が靴の中に這入つて來て中でけるし、手套てぶくろを嵌めない手は、すつかりかじかんで、兩足と同じく、凍傷とうしやうが出來てゐた。
馬車の下にはジプシイが横たはつてをり、魚を積んだ車のうへには車力が寝てゐた。帯や手套てぶくろを持つた髭もぢやの大露西亜人が道の真中に両脚を投げ出してゐた……。
囚人たちが使ってぼろになったチョッキ、足袋たび、作業用手套てぶくろを糸と針とで修繕する仕事であった。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
前に出した写生図でも判る通り、足袋たびは、拇指が他の四本の指と離れた手套てぶくろに似ているので、下駄なり草履なりを脱ぐのが、実に容易に行われる。あたり前の家の断面図を第9図で示す。
名高い紐育ニユーヨークの百貨店ワナメエカアの手套てぶくろ部に近く入つて来た売子娘があつた。ある日の事、婦人のお得意に手套を一つ売つたあとで、今度は直ぐそばに立つてゐる紳士のお客の方に振向いた。
靴、靴下、手套てぶくろ、美しい上衣、それから見事な帽子、雨傘——すべて、上等な高価な品ばかりでした。その上、上衣のポケットには、こんなことを書いた紙片かみぎれが、ピンで留めてありました。
この間からせびられていた妻の手套てぶくろと肩掛とを買って、———あのハイカラな彼女の顔に似合うようなどっしりした毛皮の奴を買って、———そうして早くうちへ帰って彼女を喜ばせてやろう
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しばらくすると、宣告文を書いた紙と、宣告文を持った、白い手——手套てぶくろ穿めない——を角燈が照らした。読上げんでもかろうという声がした。その声はふるえていた。やがて角燈が消えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君の手套てぶくろの匂いかね。かすかながらもいい匂いだ。しかし、けっして心持ちのいい匂いではないね。こんな匂いに長くひたっていると、僕などは気分が悪くなる。花の匂いのようでもあるが、この部屋には花はないね」
手套てぶくろぐ手ふと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手套てぶくろ
手ぶくろ (新字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「カロリイン夫人」はあか薔薇ばらの花のついた帽子をかぶり、白の手套てぶくろをはめ、朝から晩までその界隈かいわいったり来たりしていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若い男は、手套てぶくろをはめた指先で窓硝子を拭いて外を覗きこんだが、駅の時計も、ランプも、駅名札ももう闇にかくれていた。
するとうさぎなんおもつたか大急おほいそぎで、しろ山羊仔皮キツド手套てぶくろおとせば扇子せんす打捨うツちやつて、一目散もくさんやみなかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
凛々りりしき声にさきを払わして手套てぶくろを脱ぎつつ入り来る武男のあとより、外套がいとう吾妻あずまコートをおんなに渡しつつ、浪子は夫に引き沿うてしとやかに座につき、手をつかえつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
直子はやがて、自分の云うだけのことは云ったという実際家らしさで、袋や手套てぶくろをかきよせた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこには、鼻の上に鼈甲縁べつかふぶち眼鏡めがねをかけ、黒い手套てぶくろをはめた老婦人が事務をつてゐた。
しばらくすると、宣告文をいたかみと、宣告文を持つた、白い手——手套てぶくろ穿めない——を角燈がらした。読上よみあげんでもからうといふ声がした。其の声は顫へてゐた。やがて角燈が消えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手套てぶくろ穿はまつた掌面てのひらでそつと顔を撫でまはした。小僧はとうと切り出した。
聖母せいぼ手套てぶくろ」即ち實※答利斯ジキタリスの花、信心しんじん諸人しよにんみなこれに接吻せつぷんする。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あいちやんは其扇子そのせんす手套てぶくろとを取上とりあげ、まさ其處そこ立去たちさらうとして、姿見鏡すがたみそばにあつたちひさなびんまりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すっかり草臥くたびれてしまって、『どうじゃ一銭』を云うさえ億劫だし、手をのべたくても、手套てぶくろなしの手は我慢にも衣嚢かくしから出せないほどかじかんでいた。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それをげて旅館へ戻ると、丁度年とった仏蘭西の婦人のたずねて来るのに逢った。黒い帽子、黒い着物、黒い手套てぶくろ、一切黒ずくめだ。顔にまで黒い網を掛けていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女の体にそって柔らかく流れおちる線を、快い抵抗でうけとめるように、その年の女の手套てぶくろは、西洋剣術フェンシング用の手套のように高く、さき開きになった装飾のふちをもっていた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は黒い毛織の旅行服に刷毛ブラシュをかけ、帽子と手套てぶくろとマフとを用意し、何も後に殘らないようにと抽斗ひきだし全部を改めて、全く、もう何もすることがなくなつたので腰かけて休まうとした。
犯人は一生涯寝ても起きても手套てぶくろを離さないという決心をしなければ、必ずこの手から発覚します。それが厭なら男らしく自分で手首を截断せつだんするんですね。
ギャラントという言葉をそのまま宛嵌あてはめ得るような、巴里に滞在中も黄色い皮の手套てぶくろを集めていたことがまだ岸本には忘れられずにある青年の紳士らしい風采ふうさいをしたその留学生は
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手套てぶくろをとり乍ら室内を見廻し、私はひとりでに一種の微笑が湧くのを感じた。
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)