ドア)” の例文
ドアの隙間から飛んで出て、よろしく斯る古めかしい田舎者の小説などは弾劾すべきが順当ならむといふ冷笑の風が吹きまくつてゐた。
喧嘩咄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ドアに背を向けているのは若い院長の健策で、のりいた診察服の前をはだけて、質素な黒羅紗らしゃのチョッキと、ズボンを露わしている。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
講堂入口をみたが、ドアはチャンと閉まっている。さっき棺桶を置いてあった長椅子の蔭をみたが、さらに小山ミチミの姿はなかった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何か異変を感じた三人は、力を合わせてドアを破って、転がるように這入ってみると、船室は空である。ジャネット夫人は居ないのだ。
海妖 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
幽里子はそういって、百円札を一枚、使い残りのレター・ぺーパーの下へ押込むように、身をかえしてヒラリとドアの外へ出たのです。
……すると全く不意に、ガタンと激しい音がして、歩廊プラット・ホームへ出るドアが開き、どっと吹込ふきこんで来た風にあおられて卓子テーブルの上の洋灯ランプが消えた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私達が馬車に乗ろうとすると、一人の若者がドアを押えていてくれた。ホームズはつと何か考えついたらしく若者の袖を引いて訊ねた。
コン吉とタヌが次の朝起きて見ると、ドアの前にドロ山の険しいみねに生えている輝やくばかりの見事な瑠璃草るりそうが十六束置かれてあった。
その時、ドアの外へ、何かぶつかって来たような大きな音がした。産衣うぶぎにつつまれている赤い小さい顔は衝動ショックをうけて突然泣きだした。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、サラ/\と云ふ衣擦れの音がしたかと思ふと、背後うしろドアが音もなく開かれた。信一郎が、周章あわてて立ち上がらうとした時だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ひのきの生垣に囲まれた平家の日本建で、低い石門に気取った板のドアが閉まって、その五六間奥にガラスの格子戸がぼんやり見えていた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
階段をり、階下の校舍の一部を横切り、それから二つのドアを音を立てないやうにうまけて、まためて、別の階段の所まで來た。
比較的間口の広いその玄関の入口はことごとくほそ格子こうしで仕切られているだけで、唐戸からどだのドアだのの装飾はどこにも見られなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
強い勢いでドアが内側からあけられた。ともしびがサッと広く歩道へさした。が、そこから出て来たのは案外小さい一人の女だった。
モスクワの辻馬車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
けれども戸締りがしてないのに家の中に人の気配がないと、ふと不審を覚えていつもの軽い気持で玄関から奥へ通ずるドアを開けてみた。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「本当で御座いますねえ! やつと冬から出て来たばかし——」女中はかう言たが、そのまゝ徐かにドアを閉めて出て行つて了つた。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
馬はまたいきをつぐために立ち止り、車掌は下りて来て、下り坂の用心に車輪に歯止はどめをかけ、乗客を入れるために馬車のドアけた。
長女は時々ドアのガラスに顔をつけて父の様子を視に来た。そして彼の飲んでるのを見て安心して、また笑いながら兄と遊んでいた。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
コーリヤがドアのかげから現れて来た。窓から屋内へ這入ろうとするかのように、よじ上っている武石を見ると、彼は急に態度をかえて
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ドアが半分開けたままんなっていて、パトラッシュの求める足跡は、そこからてんてんと白い雪を落して奥へつづいているのでした。
と云うのは、現場げんじょうドアと鍵でとざされていたにもかかわらず、艇内をくまなく探しても、八住を刺した凶器が発見されなかったのである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
薄暗いドアに紙をって、昨日きのうの日づけで、診療の都合により面会を謝絶いたし候——医局、とぴたりと貼ってある。いよいよおだやかでない。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新聞売子はドアをあけて、勢よく診察室に入つて来た。そして毎日の事なので、其辺あたりに気もけないで、ずつと卓子テーブルの前までやつて来た。
翌朝、例刻にめざめて、例の通りまず主人の部屋を訪れて見ると、昨日は固くとざされたドアが、今日は押せばすぐにあきました。金椎は
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時、実験室兼応接室のドアをたたく音がしました。私があけにゆくと、来訪者は、他ならぬ、警視庁の小田刑事でありました。
自殺か他殺か (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
気の利いたタキシーがすぐ側へ乗りつけて来て無言でドアをあける。後れ走せに馳けつけた巴里の巡査が二人を軽く押し込んで扉を締める。
街頭:(巴里のある夕) (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
廊下で、一つ時戸迷とまどひした挙句、やつとトイレットを見つけてドアを押した。そして、鏡の前に立つと自分の泣顔に「イ、イ」をしてみせた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼の喫っている一本の葉巻がほとんど半分に成った頃、重々しい足音が近かづいて来た。そして正面のドアが開いた。其処から老人が現われた。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ノックをしてみたが返事がないので、ドアを押すとあきましたから、中へはいってみると、薄暗がりだのにまだ電気もついていないのです。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
鏡にうつっている部屋のドアをあけて、音もなく、声もなく、全身に白い物をまとっている婦人の美しい姿があらわれたのである。
そして大通を偵察しようとして鉄門の方へ走って、門のドアへ手をかけた途端、家の中から一発の銃声、続いてアッと消魂たまぎる叫び。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
だから日本人は嫌いと云うのですよ、嘘つき、今私が締めたドアが、どうしていてるのです、なにか私の秘密でも探ろうと思って、合鍵を
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ふと前面の鏡の中をのぞくと、そこにドアがスーッと開いていてポウルが例の通りの光沢の悪い無表情の顔をして立っているのを見たのだ。
僕は、いよいよ不審におもっていると、不意にドアが開いて、水色の作業服を着た一青年が入って来た。彼は、僕をじろりみて、いきなり
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
猫がどこから這入ってくるのかを見定めるため、ドアの蔭にかくれていて、終日鍵穴からのぞいてみようと考えた。翌日、彼女は出勤を休んだ。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
応接室に通されておよそ十五分ばかりも待ってると、やがて軽いくつの音が聞えてスウッとドアひらいて現れたのは白皙はくせき無髯むぜんの美少年であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
満坐霊気に打れて、皆な頭を垂れた。翁は立つたまゝ、後ろ向きになつて暫く泣いて居られたが、やがてドアを開けて顔洗いに出て行かれた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そうして私の肩に手をかけて、フレンチドアから、何んだか危かしそうな足つきをしながら、おずおずと芝生の上へ出て行った。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「ええ。一人いるのです。その先生ときたら、夜なかに戸締りをはずして、ドアをあけ放しておくという厄介者なのですからね」
坊や、お前と己とはちょいと談話室パーラーへ戻って、ドアうしろにいてさ、ビルをちょっとばかりびっくりさせてやろうよ、——うん、確かにそうだ。
東向きの三階四室ばかりはことごとく太子一行のために貸切りとなっているらしく、その一番突端のドアを今ジャヴェリが開こうとした途端
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その時には無賃ただで置かれた家なしの女房は、うしろドアを開けて出て来て、ストーブにたきぎくべて行く。家なしの夫は昼間ははたらきに出て夜帰って来る。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
笠松博士はそうわめきながら、私を研究室のドアの外に残して置いて、研究の実験に供する女を部屋の中に拉れ込むのであった。
知らずにドアのハンドルと一緒に守宮を握ったりして、その冷やりとした、柔かい感じが、何とも云えず心持が悪いと云って
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そして爪先つまさきでぐるっとまわって、ふりむくと、半開はんびらきのドアあいだから、こちらを見ている祖父そふの顔が見えた。祖父に笑われてるようながした。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
階段を降りておよそ三間ばかり進んだと思うころ、彼らは壁のようなものにばったりと進路を遮られた。捜ってみると、それはドアであるらしい。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
しかし、彼女の仕事は立派に爲しげられたのであつた。彼女のいた音色は、ざされた記憶のドアを打ち落したのである。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
ドアがいっぱいにひらいて、警備中隊長オルダコフ大尉が、兵卒四五名と何食わぬ顔のヤアフネンコ、支那人ボウイを随えて厳然と立っている。
ドアに近寄って見ると、さっき潜航をはじめた時には、固く閉っていたはずの扉が、今は何の抵抗もなく、やすやすと開いた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ドアを開いてはいって来た毛利先生は、何よりさきその背の低いのがよく縁日の見世物に出る蜘蛛男くもおとこと云うものを聯想させた。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)