もっぱ)” の例文
旧字:
もっぱらこの人々の功績によるのであり、その意味で私たちはこれらの先覚者たちに多大の感謝をささげねばならないのでありましょう。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
土佐の藩儒野中兼山のなかけんざんは宋儒を尊崇して同藩に宋学を起した人であるが、もっぱら実行を主とした学者であって、立言の儒者ではなかった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
もっぱら三人で話したが、今日橋寺と初対面をした幸子も、矢張彼から好い印象を受けたものと見え、夫婦は期せずして彼の人柄を
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分は早稲田を卒業後郷里に帰って、もっぱら蚕業の研究に没頭し、ついにその研究の結果を記述して「蚕種製造論」なる一書を出版した。
一身の私徳をのちにして、交際上の公徳を先にするものの如し。即ち家にるの徳義よりも、世に処するの徳義をもっぱらにするものの如し。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
投げたようにも思われるが、坊主と虚無僧の心中でもあるめえ。ここらじゃあもっぱら仇討という噂を立てているが、それもどうだかな
そこで神田君の手から一切の権利を買収してもっぱら自家の手にまとめるの方法をとった、これは実に小生としては予期しないことであり
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もっぱら当代の在五中将ざいごちゅうじょうと言ふ風説うわさがある——いや大島守、また相当の色男がりぢやによつて、一つは其ねたみぢや……負けまい気ぢや。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まったく、大の大人に恥をかかせることは悪徳ですから、なるべく皆さんの被害を軽くするようにもっぱら至れり尽している次第です。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかし、私は非常に差し迫った仕事をかかえているので、その日の残りの時間はもっぱらその仕事についやさなければならなかった。
「姫路侯のお留守役は、お留守居役中での渋いのどだそうで、平清ひらせいや両国あたりでは、もっぱら評判でござんすが。ねえ、小秀ちゃん」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
活気の少い朱子学が盛に行われて、諸子百家の書や活気ある宗教が禁ぜられたのは、もっぱら沖縄人の生存上の必要からであった。
戦死するのは非ユダヤのアメリカ兵ばかりだ。そしてユダヤ人めらは、もっぱもうけ商売に夢中になっていやがる。しかも物凄ものすごい儲けなんだとよ
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八王子、所沢、青梅おうめ飯能はんのう、村山とほとんど隣同志でも、八王子は絹の節織ふしおりを主にし、村山はかすりもっぱらにするという工合ぐあいです。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かくの如く都会における家庭の幽雅なる方面、町中まちなかの住いの詩的情趣を、もっぱら便所とその周囲の情景に仰いだのは実際日本ばかりであろう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとえばユーゴーやジューマの浪漫派小説は、もっぱら広い人生社会を書いているのに、定評はこれを主観派のものに見ている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
女や子供には出来ない芸とにらみ、調べはもっぱら男に集中しましたが、それでも、東海坊をめぐる女の一群に関心を持たない平次ではありません。
しかし関係を明める方をもっぱらにする人は、明めやすくするために、味わう事のできない程度までにこの関係を抽象してしまうかも知れません。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かういふ気易きやすさを見て、暮しの方に安心した自分は、例の追ひ求むるこころを、歴史の上の不思議、古語の魅力へいよいよもっぱらに注ぐのだつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
今はもっぱら、女房の亭主すなわち此の短いが的確の「女の決闘」の筆者、卑怯ひきょう千万の芸術家の、その後の身の上に就いて申し上げる事に致します。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
節子は手紙のことを聞きたかったが、彼はさりげなく躯をかわして、もっぱら山の風物やそこの生活ぶりを話すばかりだった。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
尤もその頃もっぱら称していた正直正太夫の名は二十二年ごろ緑雨が初めてその名で発表した「小説八宗はっしゅう」以来知っていた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
惜しいかな好漢、胸中百巻の書を蔵すといえでも、楽しむ所はもっぱ水墨雲煙すいぼくうんえんの変化にあって、こういう極彩色に対しては、存外に趣味が淡かった。
人類じんるい地上ちじょう発生はっせいした当初とうしょは、もっぱ自然霊しぜんれい守護霊しゅごれい役目やくめけたともうすことでございますが、時代じだいぎて、次第しだい人霊じんれいかずくわわるととも
しかし次の孝謙天皇登位とともに、皇后宮職は紫微中台しびちゅうだいと改められ、不比等の子武智麻呂の次男たる仲麻呂がここにあってもっぱら内政のことに当った。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
(中略)故に百家の書読まざるべきものなく、さすれば人間一生の内になし得がたき大業たいぎょうに似たれども、其内しゅとする所の書をもっぱら読むを緊務とす。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これは近頃もっぱら事実を尊ばれる小説家の微妙な観察によっくわしく描写していただいたならば明白になるかも知れません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
東宮には夕霧の左大臣の長女が侍していて、太子の寵をもっぱらにしているのであるから、競争することは困難であっても、そんなふうにばかり考えていては
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宇治たちの大隊は盆地を横断し、盆地の南入口付近の密林中に行嚢こうのうを解き、仮小屋や鐘乳洞しょうにゅうどうに分散、もっぱらツゲガラオ飛行場に対する遊撃戦を待機していた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
わしの若い頃の話だが、近所で矢張り床屋の競争が始まって、もっぱら値下げをやった。当時散髪料が三銭五厘さ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
特に京伝の『骨董集こっとうしゅう』は、立派な考証学で、決して孫引まごびきのないもので、もっぱら『一代男』『一代女』古俳諧等の書から直接に材料をとって来たものであった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そういう意味からも、本当に作家となる人は、くだらない短篇なんか書かずに、もっぱら生活に没頭して、将来、作家として立つための材料を、蒐集すべきである。
もちろん曲はつかえないから同君もっぱら踊るばかりなのであるが、妙な太神楽の構成があったもので、かりにも寅子なり岩てこなりというそうそうたる人たちが
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
◯十二章より第十四章にわたるヨブのことばの中、第十二章は前回に学びたれば、今回は第十三章について一言せしのち、第十四章についてもっぱら学びたいのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かかる次第しだいにして小栗等が仏人をいて種々計画けいかくしたるは事実じじつなれども、その計画は造船所の設立、陸軍編制等の事にして、もっぱ軍備ぐんびを整うるの目的もくてきに外ならず。
だから、可成出鱈目でたらめの事件もあり、荒唐無稽の人物も出没し、ただもっぱら、事件の波瀾重畳のみを本意として興味をつなぐ以外に何ものも見いだし得ないのである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
特に先ず須要しゅようにして急務となすものは、観測所改造の挙にり、これをして完全ならしめざれば常に天候に妨げられ、到底力を目的の業務にもっぱらにすること能わず
この四人の中でもやはり一番早くその官に就いた者にその主権があるので、他の三人はただ相談にあずかるだけでもっぱらその相談を決定するのは先任の総理大臣である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この楠公像は高村光雲が作ったのだといい、また岡崎雪声せっせい氏が作ったのだとももっぱらいわれている。
十月二十九日十一月八日に夫々続行公判があり、もっぱら聖書窃盗に関する証人の訊問が行われた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この言葉は未荘の田舎者はかつて使ったことがなく、もっぱらお役所のお歴々れきれきが用ゆるもので印象が殊の外深く、彼の「女」という思想など、急にどこへか吹っ飛んでしまった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
で成金の常として幾人もの妾を蓄えたが、笹千代という二十歳の美婦をもっぱら彼は寵愛した。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
直江津の塩物がこの山地に深入したのももっぱらこの道を千曲川に添うて溯りましたもので。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家貧にしてもっぱら農業をつとめたり、然もその読書をたしなむの深き、米く時はスガリ木に棚をし、これに書を載せて米をき舂きこれを読み、畑に出でてもあぜの草の上に置きて
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
Aが使つかいから帰って来てからは皆の話も変ってもっぱら来年の計画の上に落ちました。Rのつけた雑誌の名前を繰り返し繰り返し喜び、それと定まるまでの苦心を滑稽化して笑いました。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
もっぱ繊弱優美せんじゃくゆうびを装っていてこそ、どんな、あらあらしい振舞いを蔭でしても、それが自分の仕業しわざだと、一般から目ざされるわけがないのを喜んでいたのに、この闇太郎の耳にさえ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
生来余り丈夫でない為に大学を半途で退学してもっぱら身体の静養につとめて居ました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
船の進むにつれて最早もはや気味悪き音はやんで動揺はようやく始まりて早や胸悪きをじっと腹をしめてもっぱら小説に気を取られるようにつとむればよう/\に胸静まり、さきの葡萄酒の酔心。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
綜合というのは、これに反し定義、要請、公理等の過程によって結論を証明する、いわゆる幾何学的方法である。しかして彼は彼の『省察録』においてもっぱら分析的方法を取ったという。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
子規が出るまでは発句という名前で世間に通用しておったのであるが、子規がもっぱら俳句といったのでこの頃ではもはや発句という人はなく、俳句という名前で呼ばれるようになった。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)