いづれ)” の例文
いで男の声はざりしが、間有しばしありていづれより語り出でしとも分かず、又一時ひとしきり密々ひそひそと話声のれけれど、調子の低かりければ此方こなたには聞知られざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
實際主義といひ、極實主義といひ、自然主義といふ、その言葉はおなじからずといへども、いづれか沒理想ならざる。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
途端とたんまたゆびてつゝ、あし一巾ひとはゞ坊主ばうず退さがつた。いづれ首垂うなだれた二人ふたりなかへ、くさかうをつけて、あはれや、それでもなまめかしい、やさしいかひな仰向あふむけにちた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふと気が附いて舞台の直ぐ近くに坐つて居る校長や職員などの顔を見るといづれも「困つた奴等だな」と云ふやうに、苦り切つて居るので愈々悄げてしまつて
学生時代の久米正雄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
七歳の時から感應院の手元てもとそだち殊には利發りはつ愛敬者あいきやうものなり誰か違背いはいすべきいづれも其儀然るべしと相談さうだんこゝに決したり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
言ふこころは方に皇惑、死を避くるの際、城南に往かんと欲して、乃ちいづれが南北なるやを記する能はざる也。然るに荊公集句両篇、皆な欲往城南望城北とす。
紙片かみきれはたして横罫よこけい西洋紙せいやうしで、それひろげてると、四五つうもある。いづれもインキでノート筆記ひつきやうの無造作むざうさ字体じたいで、最初さいしよの一つうが一ばんながく、細字さいじで三頁半ページはんにもわたつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
鎮火と聞いていづれも胸を安めたやうなものの、かう毎晩の様に火事があつては、とても安閑として生活して居られぬといふそは/\した不安の情が村一体に満ち渡つて、家々の角には、をんなやら
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
或は聖情とふ、何を以て劣と聖との別をなす、何が故に一は劣にして、一は聖なる、若し人間の細小なる眼界を離れて、造化の広濶なる妙機をうかゞえば、いづれを聖と呼び、いづれを劣とぶをるさむ。
其處そこにはどぜうがちよろ/\と跳返はねかへりつゝそのあわたゞしくうごかしてる。さうすると彼等かれらいづれこゑてゝさわぎながら、ちひさなどろだらけのとらへようとしてはげられつゝやうやくのことでざるれる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
富山がまじはるところは、その地位において、その名声に於て、その家柄に於て、あるひはその資産に於て、いづれの一つか取るべき者ならざれば決して取らざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
門人録には福岡の森隆仙のもとに塾頭と註してある。渡辺と森との塾頭はいづれか先、孰か後なるを知らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はんかなあまい/\甘酒あまざけ赤行燈あかあんどうつじゆれば、そ、青簾あをすだれ氣勢けはひあり。ねや紅麻こうまえんにして、繪團扇ゑうちは仲立なかだちに、蚊帳かやいと黒髮くろかみと、峻嶺しゆんれい白雪しらゆきと、ひとおもひいづれぞや。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
卷上まきあぐれば二疊臺にでふだい雲間縁うんけんべりたゝみの上に天一坊威儀ゐぎたゞして着座ちやくざなし大膳が名前を披露に及べば天一坊は言葉ことばすくなにいづれも神妙とばかり大樣の一聲ひとこゑに皆々低頭ていとう平身誰一人おもてを上て顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聲をかけられたのは、三人連にんづれの女である。いづれしま無地むぢかの吾妻アヅマコートに、紺か澁蛇しぶじやかの傘をして、めかし込んでゐるが、聲には氣もつかず、何やら笑ひさゞめきながら通過ぎやうとする。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
子爵と富山との交際は近き頃よりにて、彼等のいづれも日本写真会々員たるにれり。おのづから宮の除物のけものになりて二人の興にれるは、想ふにその物語なるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
末女とあるから幾勢よりをさなかつたことは知られるが、蘭軒といづれか長孰か幼なるを知ることが出来ない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
手代てがはりとも四人打物手代とも二人跡箱二ツ手代とも四人傘持かさもち草履取合羽籠兩掛茶辨當ちやべんたう等なり引續いて常樂院天忠和尚をしやう藤井左京山内伊賀亮等いづれも長棒の乘物にて大膳が供立に同じそう同勢二百餘人其さま美々びゞしく長洞村を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
是に由つて観れば、春水春風杏坪きやうへいの三兄弟の中で、蘭軒が旧く江戸に於て相識つたのは杏坪だけである。只其時日が山陽の伊沢氏に来り投じたのといづれか先孰か後なるをつまびらかにすることが出来ない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)