しゅうと)” の例文
その間も茶の間の行燈あんどうのまわりでは、しゅうとのお百と、嫁のお路とが、向い合って縫い物を続けている。太郎はもう寝かせたのであろう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は会堂を出でてただちに、己が最初の弟子の一人であるシモン(別名をペテロという)の家に入り、そのしゅうとの熱病をいやした。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
一一 この女というは母一人子一人の家なりしに、よめしゅうととの仲しくなり、嫁はしばしば親里へ行きて帰り来ざることあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なるべくおのれをててしゅうとに調和せんとするをば、さすがに母も知り、あまつさえそのある点において趣味をわれと同じゅうせるを感じて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼女はおとなしい素直な生まれ付きであるので、しゅうとのお秀にも可愛がられた。店や出入りの者のあいだにも評判がよかった。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あいつのしゅうとさん、つまり僕のお袋は、いまだにあいつを崇拝している。つまり、あいつめ、こわもてしているというわけだ。
観音様に見えますと云って、じっと優しいしゅうとの顔を見ながら、つぼみの枯れる口を開けた、お母さんのおもいも、察するがいよ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れいのいじくねわるいおしゅうとは、おなじたくらみをしましたが、王さまは、まだそのげ口をほんきにとり上げるまでの決心はつきませんでした。
その二つの心がよめしゅうとのように朝から晩まで責めたり、責められたりしているために、寸時の安心も得られないのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叔父なればとて常不断よくも貴様の無理を忍んで居る事ぞと見る人は皆、歯切はぎしりを貴様にんで涙をお辰にこぼすは、しゅうと凍飯こおりめし食わするような冷い心の嫁も
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三「一緒に居ると気が晴れぬ、しゅうとなどと云う者は誠に気詰りな者だと云うから、一軒うちを別にしたら宜かろう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「私にもございます。春子はあゝいう我儘ものですから、しゅうとめのあるところなんかとても勤まりませんよ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
松娘はしゅうとつかえて孝行であった。そのうえ美しくてかしこいということが遠近に伝えられた。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いねは姉たちの着古きふるした赤い布をあれこれと見積っていたが、しゅうとのかやに向って
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
しゅうとと嫁とのほかに、藤吉郎の分も朝夕、必ず陰膳かげぜんとして、床の前にすえて喰べる。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼少ちいさかったわたしは、美しかったお嫁さんのお八重さんの方を見ないでしまって、憎らしいおばあさんの方を見たことがあるが、そのおしゅうとさんの方も顔にハッキリした記憶が残らないで
私等わしらしゅうとさんと気が合わなんだで、こうして別れて東京へ出て来たけれど、随分辛い辛抱もして来ましたよ。今じゃ独身ひとりの方が気楽で大変好いわね。御亭主なんぞ一生持つまいと思っているわね
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手前のしゅうと、つまり愚妻の母ですなあ、これもやっぱり何も見えないのです。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
しゅうとや小姑の多勢いたうちの妻になりきれなかったのはこのせいである。屈辱とも不義とも思わず小日向こびなた水道町すいどうちょうの男の家へ誘われるがままに二度まで出掛て行ったのもまたこの性情によるのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
以前、十四代将軍のところへ、和宮さまをお迎えになって、言わばおしゅうとさまとして、初めて京都方と御対面の時だったと覚えています。そこは天璋院さまです、すぐに自分の席には着かない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おしゅうとのいるのも辛いが、いないのも別の意味で辛いものですね」
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
貴女なら、どんなむずかしいおしゅうとさんだって、勤まるだろうって、南條さんは、お姑さんの機嫌ぐらいとるのは朝飯前だろうって、それで私は貴女ならきっと見事つとめて下さるだろうと思ったのよ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「馬鹿な事を言っちゃかん、子供が大人になったり、嫁がしゅうとになったりするより外、今時化けるってやつがあるものか。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゅうとの病みておはせし時、隣より失火ありて、火の早く病床にせまりしかど、助け出さん人もなければ、かの尼とびいりて抱へ出しまゐらせしなり。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ばあは驚きたるなり。浪子もに落ちぬ事はあれど、言うは伯母なり、呼ぶは父なり、しゅうとは承知の上ともいえば、ともかくもいわるるままに用意をば整えつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
津田はお秀の補助を受ける事を快よく思わなかった。お秀はまた兄夫婦に対して好い感情をもっていなかった。その上夫やしゅうとへの義理もつらく考えさせられた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しゅうとが腹を立って追出すくらいでございますから、何一つもくれませぬ、それ故少しは身形みなりこさえたり、江戸へくには土産でも持ってかなければなりませぬ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「嫁がしゅうとになるの早さよ」などという川柳もあって、後者を代表するものは概念上の「姑」であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
非違ひいもないのに、なぜ、わが殿は、さまでに、お弱気なのやら。……おれは、たまらぬ、ごうえる。まるで、しゅうと小姑こじゅうとみたいな悪公卿あくくげどもの、もやもやを、見ておられる上皇も上皇だ』
「婿は久しくしゅうとの家にいるものじゃありません、それにあの人は貧乏人ですから、久しくおれば久しくあるほど人にいやしまれます、私は一旦承知しましたから、小屋がけに甘んじます、藜藿あかざのお菜もいといません」
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「当り前さ。しゅうとじゃないか?」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お米も嬉しそうにそばについていてくれますなり、私はまるで貴方、嫁にやった先のしゅうとに里の親が優しくされますような気で、ほくほくものでおりました。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝夕ちょうせきの心配はないようになったのですが、しゅうとの気分は一向に変わりませず——それはいいのでございますが、気にかかる父の行くえがどうしてもわかりません。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
小谷口碑集おたりこうひしゅう』にもそのおかるの話は出ているが、それは面をかぶってしゅうとおどしたら、その面がとれなくなったというような話で、どうも最初のものとはいえないようだが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
めえは今迄まアほかの女と違って信実なもんで、おらうち縁付かたづいても惣次郎を大切でえじにして、しゅうとへは孝行尽し、小前こめえもんにも思われるくれえで、流石さすが武家さむれえさんの娘だけ違ったもんだ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二十はたちを越すか越さないのに、しゅうとと二人暮しで一生を終る。こんな残酷な事があるものか。御母さんの云うところは老人の立場から云えば無理もないうったえだが、しかし随分我儘わがままな願だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「息子の嫁じゃ嫁じゃと仰っしゃっておいででしたから、おしゅうとなれば、仕方がないと思っていましたが、……じゃあなにか恨み事があって、一寸だめし五分試しにいじめていたわけでございますね」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを、上目づかいのあごで下から睨上ねめあげ、薄笑うすわらいをしている老婆ばばあがある、家造やづくりが茅葺かやぶきですから、勿論、遣手やりてが責めるのではない、しゅうとしえたげるのでもない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明日にも親に先立ちわしが死ぬまい者でもない、其の折はわしになり代って母に孝行を尽してくれられるだろう、亭主が死んでしゅうとの機嫌を取るのがいやだと云って此の家を出る志はあるまい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お秀の言葉は不謹慎な兄を困らせる意味にも取れるし、また自分の当惑をらす表現にもなった。彼女には夫の手前というものがあった。夫よりもなお遠慮勝なしゅうとさえその奥には控えていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人間に嫁だのしゅうとだのというものの無かった時代から、または御隠居ごいんきょ若旦那わかだんななどという国語の発生しなかった頃から、既に二つの生活趣味は両々相対立し、互いに相手を許さなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そんなのは、僧侶なんど、われらと、仏神の中を妨ぐる、しゅうとだ、小姑こじゅうとだ、受附だ、三太夫だ、邪魔ものである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふくろぐるみ引取るから心配するなと仰しゃるが、若し悪い者の手に掛れば女郎に売られるか知れやしねえ、ふてい奴だ、縁切えんきりで遣った娘ではねえ、嫁に遣ればしゅうとだよ、おれに一応の話もしねえで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お延より余裕のある、またお延より贅沢ぜいたくのできる彼女にして、その点では自分以下のお延がなぜ気に喰わないのだろうか。それはお秀にとって何の問題にもならなかった。ただしお秀にはしゅうとがあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浅葱あさぎの袖口をびらつかせた時、その、たたき込んだ張扇はりおうぎとかで、人の大切な娘をただで水仕事をさせ、抱きまでして、しゅうといじめさせた上、トラホームが伝染うつるから実家さとへ帰した
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嫁にやるのだからお前さんは何処までもしゅうとだによって引取っても宜しいのだが、お前さんも斯う云う処にすいな商売をしている人だから、矢張り隠居役に芸者屋をして抱えでもして楽にお暮しなさい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いんね、十七でいまの家へ一度縁づいたけれど、しゅうとさんが余り非道で、厳しゅうて、身体からだ生疵なまきずが絶えんほどでね、とても辛抱がならいで、また糸繰いとくりの方へげていた時でしたわ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ありきたりの事で、亭主が三度かわった事だの、しゅうと小姑こじゅうといじめられた事だの、井戸川へ身を投げようとした事だの、最後に、浅間山の噴火口に立って、奥能登の故郷の方に向って手を合わせて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)