天性てんせい)” の例文
僕はこれは表裏をそなうる人の意志によるものであると思う。僕のここにいう意志とは天性てんせいというにあい対して用いたのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
成程なるほど一家いつかうちに、體の弱い陰氣な人間がゐたら、はたの者は面白くないにきまツてゐる。だが、虚弱きよじやくなのも陰欝いんうつなのも天性てんせいなら仕方がないぢやないか。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかし得意とくいといふことは多少たせう競爭きやうさう意味いみする。自分じぶんきなことはまつた天性てんせいといつてもからう、自分じぶんひとりけばばかりいてたものだ。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
きみも学者だから、いかにまれた天性てんせいがふしぎなものだかごぞんじだろう。ひとによっては、ねずみ色の紙をつかめば、病気になるという者がある。
天性てんせい陰気いんきなこの人は、人の目にたつほど、愚痴ぐちやみもいわなかったものの、内心ないしんにはじつに長いあいだの、苦悶くもん悔恨かいこんとをつづけてきたのである。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかし天性てんせいの泣き虫にかぎって、泣きだすのもはやいが泣きやむのもむぞうさに、ケロリと天気がはれあがる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも席順はりである。教師等も教員会議の時に時々は清吉の身の上に話が及ぶと、あれは、天性てんせい足らないから仕方がないと、ほとんど問題にもしない人がある。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
唐鍬たうぐはひろ刄先はさきときにはかれ身體からだひとつにぐざりとつてとほるかとおもふやうである。つちおこすことの上手じやうずなのはかれ天性てんせいである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
田崎は例の如く肩をいからして力味返った。此の人は其後そのご陸軍士官となり日清戦争の時、血気けっきの戦死をげた位であったから、殺戮さつりくには天性てんせいの興味を持って居たのであろう。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、禮儀れいぎるのと、品行ひんかう方正はうせいなのと、着古きぶるしたフロツクコート、病人びやうにんらしい樣子やうす家庭かてい不遇ふぐう是等これらみなすべ人々ひと/″\あたゝか同情どうじやう引起ひきおこさしめたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
天性てんせい軍人になるべき資格をはらめる者が一じつ新聞を見て始めて自己の天職てんしょくのいずれに存するかを発見するがごときはそれで
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
天性てんせい、石なげのみょうをえた蛾次郎が、邪魔物じゃまもののない頭の上からねらいうちするのだからたまらない、さすがの燕作も手むかいのしようがなく、あわてまわって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全校ぜんかうたい腕白わんぱくでも數學すうがくでも。しかるに天性てんせいきなでは全校ぜんかうだい一の名譽めいよ志村しむらといふ少年せうねんうばはれてた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
假令たとひ幾年いくねんでも清潔せいけつすまひをしたかれ天性てんせい助長じよちやうして一しゆ習慣しふくわんやしなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、礼儀れいぎのあるのと、品行ひんこう方正ほうせいなのと、着古きぶるしたフロックコート、病人びょうにんらしい様子ようす家庭かてい不遇ふぐう、これらはみなすべ人々ひとびとあたたか同情どうじょう引起ひきおこさしめたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
剣道は卜伝ぼくでんの父塚原土佐守つかはらとさのかみ直弟子じきでし相弟子あいでしの小太郎と同格といわれた腕、やり天性てんせい得意とする可児才蔵かにさいぞうが、それとはもつかぬもち竿ざおをかついで頭巾ずきんそでなしの鳥刺とりさし姿。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただかたい一方と思えるものが案外弱いところもあるというのは天性てんせい両面を備うるのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
枕元まくらもと火鉢ひばち戸口とぐちからではかれうす白髮しらがあたまおほうてた。かれはさうかとおもふときて一しん草鞋わらぢつくることがある。かれ仕事しごと老衰らうすゐして面倒めんだうやうであるが、天性てんせい器用きよううしなはれなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)