しやべ)” の例文
狭い階段を降りて、湯殿へ這入ると、深夜の湯殿に、パアマネントの長い髪をふりみだした若い女が二人、声高でしやべり散らしてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
その犬の尻尾には今も猫イラズを塗りつけてある筈だなどすらすらしやべり立てたが、しかし香櫨園の女中のことはさすがに言へなかつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
母も、今夜は、余計なおしやべりはつゝしんでいるようにみえたが、しばらくたつて、彼が、茶碗をおくと、それへ茶をぎながら
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
規律きりつが守られた。五分の後に、今までゴタ/\になつてゐた群が整然となり、バベルの塔のおしやべり(喧騷)が止んで比較的靜肅せいしゆくになつた。
どの指へとげをたてたとか埒もないことをしやべりあつて、お互に意気投合すればなんといふこともなく あははははは と笑ふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
錢形の平次は跟いて來る八五郎の顏色などには頓着なく、一番先におうまやの喜三太の家を覗いて、その隣家のおしやべりらしいお神に聲を掛けました。
信吾が入つて來た時、昌作は、窓側の机の下に毛だらけの長い脛を投げ入れて、無態ぶざまに頬杖をついて熱心にしやべつてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
けれども? あのおしやべりの、いつもずつと遠くから大声で呼ばはりながら駆け込んで来たり、犬の名を呼んだり、或は口笛を吹いたりしながら来る子
パンの破片かけら紙屑かみくづうしほねなど、さうしてさむさふるへながら、猶太語エヴレイごで、早言はやことうたふやうにしやべす、大方おほかた開店かいてんでも氣取きどりなにかを吹聽ふいちやうしてゐるのでらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
和尚さんは、この一生懸命にしやべる若者を、いとしむやうにやさしく見ながら、いひたいだけいはせてやつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「わたしがお前さんに柴を刈つてあげたことをだれにもしらしてはならないよ。しお前が余計なおしやべりをしたら、ひどい目にあふからそのつもりでゐなさい。」
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
私は最近の体験から、他人より余計に発言権を持つてゐるやうな気がして、得意になつてしやべつてゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「長谷川君と二人でつかつてるんだが、実際その通り目の下のどすぐろい女でね、よくしやべるんだ。」滿谷が起きた様だから行つて見ると小豆あづき色の寝巻のまゝで黒い土耳其トルコ帽を
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
荒尾が又決してしやべる男ぢやない。それがどうして知れたのか、みんなが知つてゐて……僕は実に驚いた。四方八方から祝盃しゆくはいだ祝盃だと、十も二十も一度に猪口ちよくを差されたのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
裏の家主おほやさんでさう言つて下すつたんだけど、お安が言ふんでは、よくそこいらへ出てべちや/\下らない事をしやべつたりしてゐるといふから、そんな女では困ると思つてね。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
得ず夫婦連立つれだち町役人に誘引いざなはれ奉行所さして出行いでゆきけりやがて白洲へ呼込よびこまれけるに長庵はの忠兵衞めがいらざる事をしやべりてかゝ時宜じぎに及ばせたれば今日こそは目に物見せんと覺悟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殊に向隅に陣取つたのは清国留学生が七八名、遠い本国の言葉で高声にしやべり散らして居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
わたくししやべこと下手へただから、わからなかつたら、何度なんどでも聽返きゝかへしてください。』とれい口調くちよう
これ貴方あなた御承知ごしようち石切河岸いしきりがしにゐた故人こじん柴田是真翁しばたぜしんをうところわたくしつて聞いた話ですが、これ可笑をかしいて……わたくし何処どこつても口馴くちなれておしやべりをするのは御承知ごしようち塩原多助しほばらたすけでんだが
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
家にゐたところで別に賑かにしやべり立てるわけでもなし、むしろ年中窮屈さうに不服ありげに無口で固い顔をしてゐる茂子が、今この家にゐないと知つただけで、こんなに伸び伸びし
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
彼の隣りにゐる、品のいい、うら若い佛蘭西人は、最初の三日ほどは、しやべつたり、笑つたりしてゐた。が、いまはもう、何にも分からないやうだつた。まるで睡りたがつてゐる子供のやう。
陶ははげしく首を振つたり手を拡げたりしてしやべつた。この男でもこんな感情を持ち合せるものかと思つて、僕は妙な時に一寸可笑をかしかつた。が、曾老人はやはり身振りで陶の言ひ方を否定してゐた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
このおしやべり男は大きな声で叫んだ。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
誰にもこの事はしやべらなかつた。
めたん子伝 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
一同は、やがて、サロンに陣取つて、様々な国語でおしやべりをはじめました。支配人が、いち/\挨拶をして廻つてゐます。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
女は早口に、なまりの強い言葉でしやべり、ギター弾きを追ひかへした。そのアクセントが、何となくゆき子に似てゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
さうしてそれは平常、彼が考へても居ないやうな思ひがけない考への片鱗へんりんであるのに、しやべりながら気がついた。
三助は獰猛どうまう面構つらがまに似氣なく、一つ脅かされると、ペラペラとしやべつてしまひさうな樣子です。——腹からの惡黨ではないな——と平次が見て取つたのも無理はありません。
私は何だかひどくうかされて夢中でしやべつてゐるやうな氣がする。この今の瞬間を ad infinitum(永遠)に長引かせたいやうに思ふ。しかし思ひ切つては出來ない。
芳の奴がしやべつたなと感付く。怎したものか、もう茶を入れて飮まうと云ふ氣もしない。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
道々みち/\も一ぷん絶間たえまもなくしやべつゞけて、カフカズ、ポーランドを旅行りよかうしたことなどをはなす。さうして大聲おほごゑ剥出むきだし、夢中むちゆうになつてドクトルのかほへはふツ/\といき吐掛ふつかける、耳許みゝもと高笑たかわらひする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると或日あるひやぶの中で、おしやべりの、みそさゞいが子鶉を呼びかけました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
べら/\しやべりをるとも恐ろしき顏色にて睨付ねめつけければお民も今更一生懸命に泣聲なきごゑを出し久兵衞さん御前こそうそ御吐おつきなさる私しは御奉行樣より有體ありていに申せとの仰せ故つゝまず申上るのさ決して私しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さうか知らん? 今日は特別にいゝ血色をしてゐるから、さう思ふんだらう? 今日は加納にあ大出来さ。いや、悪口ぢやないよ」と野田は、子供を扱ふ事にはもうれたといふ調子でしやべるのだ。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
しやべるのは湯村一人。二人の学生は黙つて聞くより外はなかつた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
いやはや、これはおしやべりをしました。御免……。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
られないとなると、どうしてもつかれませんの。この人ですわ、人にしやべらしといて、ぐうぐう鼾をかいてるのは。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
咽喉のどの乾いたゆき子は、そのコップの水をがぶがぶと美味うまさうに飲み干して、わけのわからぬ事をしやべつてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
片付けてゐると、五人の子供達が、何にかおびえたやうに、ひとかたまりになつてしやべつて居たさうです。權次はそれつ切り中富坂の家へ歸つたから、後は何んにも知らないと言ふんで
さうしてそれがまた、あの案内の女が、しやべりつづけに喋つて居るその家の由来に就て、何の興味も持たぬらしく、ただ無愛想に空返事そらへんじを与へて居るに過ぎなかつた所以ゆゑんででもある。
と景氣づいてしやべつてゐた昌作は、信吾の顏を見ると神經的に太い眉毛を動かして
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
やがてまた、それらの一人一人が、なにやら彼にしやべりかけるように、唇を動かしはじめる。彼は、耳をすます。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
「うつかりしやべつて、どんなことになるか分りません。私は恐しかつたんです」
と、先刻さつきの事をしやべり出した。『ハハヽヽ。』と四五人一度に笑ふ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さつき、あんなおしやべりをしたからでございませうか……。なんですか、胸騒ぎがしてしやうがございません。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
歸つて定吉に訊くと、定吉は母の前だから、ペラ/\しやべつて了つたのさ。
種々いろ/\な事をくどしやべつて聞かして、九時頃に寢る事になつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
悲しい女の運命は、さういふところにも慰めが欲しいんだと、お思ひ下さいませ。あゝ、長々と、おしやべりをいたしました。ほんとに、よく御辛抱下さいました。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それは/\種々いろ/\な事をしやべり立てる。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
篠子 さ、おしやべりをしてないで、失礼しませう。でも、なんでせう、一体、そのお話つていふのは……。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)