和蘭陀オランダ)” の例文
もと和蘭陀オランダ語のマンプウから出たのだそうで、左様に発音する人もあるが、京阪地方では一般になまって、お春が云ったように云う。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
不思議な処へ、思いがけない景色を見て、和蘭陀オランダへ流された、と云うのがあるし、堪らない、まず行燈あんどうをつけ直せ、と怒鳴ったのが居る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長椅子、卓子テーブル、肘掛椅子、暖炉、書棚、和蘭陀オランダ箪笥、いろいろの調度や器具の類が、整然と位置を保っている。特に大きいのは書棚である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
物産学の泰斗たいと和蘭陀オランダ語はぺらぺら。日本で最初の電気機械、「発電箱エレキテル・セレステ」を模作するかと思うと、廻転蚊取器マワストカートルなんていうとぼけたものも発明する。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私は和蘭陀オランダ語かと思った。おこしのるいで、細く小切こぎりにした、かりかりと歯にあたって、気品のある杏仁水きょうにんすいの風味がある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「なにか云い残しはござんせんでしたかね、実はこないだ和蘭陀オランダ語の字引を貸して遣ろうと云って下すったんだが」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今においてこのくわだてありて西洋人の大業をおこせし手段により和蘭陀オランダ開祖の心取こころどりりて国業を興すにおいては、永く不動の大国とならんこと相違あるまじ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それには一度毛唐人の国へ行って来た方が好いとのお話……私は、実は貴郎に、米利堅メリケンへでも、和蘭陀オランダへでも渡航して頂きたい位に考えて居りますのです。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その日の夕方も、まだ日の高いうちに、野崎島をめぐって神之浦こうのうらへ切れ込むと、そこへ山のような和蘭陀オランダ船が一艘碇泊かかって、風待ちをしているのが眼に付いた。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
北斎はまことに近世東西美術の連鎖なり。当初和蘭陀オランダ山水画の感化によりて成立し得たる北斎の芸術は偶然西欧の天地に輸送せられ、ここに新興の印象派を刺戟したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
棚の上には小さき、の長き和蘭陀オランダパイプをななめに一列に置きあり。その外小さき彫刻品、人形、浮彫のしなとうあり。寝椅子のすえの処に一枚戸の戸口あり。これより寝間ねまる。
南蛮船が来航し、次で和蘭陀オランダからもって来る。支那シナとの交通はもとよりのことである。香木の伽羅きゃらを手に入れることで、熊本の細川家と仙台の伊達だて家との家臣が争っている。
「よし/\。まだ和蘭陀オランダ人払いってのがあるけれど、君は知っているかい?」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
和蘭陀オランダ風車かざぐるま小屋の沢山並んだ野を描いた褐色の勝つた風景画は誰が悪戯いたづらをしたのか下の四分通りが引きちぎられてました。私の父はまた色硝子いろがらすをいろいろ交ぜた障子を造つてえんへはめました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
中には子爵自身もその実物を見たことのある和蘭陀オランダ青絵の鉢もあった。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
また、御身も、信長がゆるした程の大気者たいきものじゃが、もっと大気なやからが、幾人もおる。それらの者にも会わせよう。呂宋ルソン暹羅シャム和蘭陀オランダ天竺てんじくなど、南蛮諸州のくわしいはなしも聞きおかれたがよい
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欧洲おうしゅうの戦争は驚天動地の発展を遂げて、五月には独軍が、和蘭陀オランダ白耳義ベルギー、ルクセンブルグ等に進撃してダンケルクの悲劇を生み
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ト木彫のあの、和蘭陀オランダ靴は、スポンと裏を見せて引顛返ひっくりかえる。……あおりをくつて、論語は、ばら/\と暖炉に映つて、かっと朱をそそぎながら、ペエジひらく。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一口に云えば和蘭陀オランダ風で、柱にも壁にも扉にも、昆虫の図がってある。真昼である、陽があたっている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
西洋画の山水は人物画の背景より漸次分離独立せしものにしてそのはじめ和蘭陀オランダ十七世紀の絵画に起り十八世紀を十九世紀仏蘭西フランスロマンチズムの時代に及びて完成せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この風を間切まぎって呼子よぶこへ廻わってんか。途中でインチキの小判と気が付いて引返やいて来よったらかなわん。和蘭陀オランダ船は向い風でも構いよらんけに……呼子まで百両出す。百両……なあ。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「わしはいま和蘭陀オランダの方を眺めておるのだて」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この気に入つた和蘭陀オランダ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
……あら嬉しや!三千日さんぜんにちの夜あけ方、和蘭陀オランダ黒船くろふねに、あさひを載せた鸚鵡おうむの緋の色。めでたく筑前ちくぜんへ帰つたんです——
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
開港前下田に上陸した米国の使節タウンセント、ハリスが幕府の有司と談判するには和蘭陀オランダ語に通ずる事の必要から、和蘭陀人にしてまた米国人なるその人を伴って来た。
墓畔の梅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まとっているのは胴服どうふくであったが、決して唐風のものではなく、どっちかというと和蘭陀オランダ風で、襟にも袖にも刺繍がある。色目は黒で地質は羅紗、裾にも刺繍が施してある。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて不興気なるおももちにて黄色なる歯を剥き出し、低き鼻尻に皺を刻みつ。和蘭陀オランダ伝来のくれなゐの花の種子を蒔くなり。此等これらの秘蔵の種子たねにして奈美殿の此上こよなく好み給ふ花なり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……あらうれしや!三千日さんぜんにちあけがた和蘭陀オランダ黒船くろふねに、あさひせた鸚鵡あうむいろ。めでたく筑前ちくぜんかへつたんです——
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
諸行しょぎょう無常は浮世のならいそれがしの身の老朽おいくち行くは、さらさら口惜くちおしいとも存じませぬが、わが国は勿論もちろん唐天竺からてんじく和蘭陀オランダにおきましても、滅多めったに二つとは見られぬ珊瑚玳瑁たいまいぎやまんのたぐい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「お前さん、お知己ちかづきぢやありませんか。もっとも御先祖の頃だらうけれど——其の黒人くろんぼも……和蘭陀オランダ人も。」
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
酋長しうちやうから買取かひとつて、和蘭陀オランダの、貴公子きこうしが、うちおくりものにした——うね、おまへさんの、あの、御先祖ごせんぞふと年寄染としよりじみます、時分じぶんわかいのよ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
からの海だか、天竺てんじくだか、和蘭陀オランダだか、分ンねえ夜中だったけが、おらあそんな事で泣きやしねえ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人しゆじんは、支那しな福州ふくしう大商賈おほあきんどで、きやくは、それも、和蘭陀オランダ富豪父子かねもちおやこと、しま酋長しうちやうなんですがね、こゝでね、みんながね、たゞひとツ、それだけにいて繰返くりかへしてはなしてたのは、——のね
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)