あぢはひ)” の例文
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
後また光より光に移りつゝ天をてわが知るをえたる事を我もし語らば、そは多くの人にとりてあぢはひ甚だからかるべし 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一切のあぢはひは水をらざれば其の味を発する能はず。人若し口の渇くこと甚しくして舌のかわくこと急なれば、熊のたなそこも魚のあぶらみも、それ何かあらん。
(新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
して今は自分の心のカサ/\してゐるのに驚いた……其の思出の深い地を踏むでゐるからと謂ツて、由三は何んの感じにもあぢはひにも觸れなかツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
南瓜たうなすを、かぼちやとも、勿論もちろん南瓜たうなすともはずみなぼぶら。眞桑まくはを、美濃瓜みのうり奈良漬ならづけにする淺瓜あさうりを、堅瓜かたうり堅瓜かたうりあぢはひよし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蟋蟀こほろぎが鳴く夏の青空あをぞらのもと、神、佛蘭西フランスうへに星のさかづきをそそぐ。風は脣に夏のあぢはひを傳ふ。銀砂子ぎんすなごひかり凉しき空の爲、われは盃をあげむとす。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
今やその願足りて、しかもつひに饜きたる彼はいよいまつはらるる愛情のわづらはしきにへずして、むしろ影を追ふよりもはかなき昔の恋を思ひて、ひそかに楽むのあぢはひあるを覚ゆるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
長さ一寸五分きよ横五六分。あぢはひ烏賊魚いかに似たり。佐賀侯より金三方を賜ふ。此日暑不甚。行程六里半許。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なんと斯発心ほつしんの歴史はあぢはひのある話ではないか。世の多くの学者が答へることの出来ない、其難問に答へ得るものは、信心あるものより外に無い。斯う住職は説き進んだのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
明けたの曉にふと聞いて驚いたのは、あの皺枯れた鷄の聲より猶ほあぢはひのない「三十歳」と云ふ聲である。夏の末の日盛りに、緑のまゝながら、ひらりと落ちた木の葉の聞えない響である。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
たゞ事実として、ひとの死に対しては、うつくしい穏やかなあぢはひがあると共に、生きてゐる美禰子に対しては、うつくしい享楽のそこに、一種の苦悶がある。三四郎は此苦悶をはらはうとして、真直まつすぐに進んで行く。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
詩神去らず、この国なほ愛すべし。詩神去らず、人間なほあぢはひあり。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
六 粗食そしよくにもあぢはひあり
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
こはほかの凡てのあぢはひにまさる、我またさらに汝に教ふることをせずとも、汝のかわきはや全くやみたるならむ、されど 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なぐさみにとのたまふにぞ、くるしき御伽おんとぎつとむるとおもひつも、いしみ、すなむる心地こゝちして、珍菜ちんさい佳肴かかうあぢはひく、やう/\に伴食しやうばんすれば、幼君えうくんいたきようたま
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
... 寡人くわじんこのあらざれば、しよくあぢはひあましとせず。ねがはくはかれ』と。孫子そんしいはく、『しんすですでめいけてしやうたり。しやうぐんりては君命くんめいをもけざるところり』
此花咲けば此頃よりやがて酒のあぢはひうまからずなりて、菊の花咲くまでは自ら酒盃さかづきに遠ざかること我が習ひなり。人は如何にや知らず、我は打対ひて酒飲むべき花とは思はず。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
樹の大なることしるべし。二里成瀬駅。(五十丁一里。)二里塚崎駅。一商家に休す。駅長の家の温泉に浴す。清潔にしてあぢはひ淡し。脚気、疝気をいやすといへり。三里(五十丁一里)嬉野うれしの駅。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
汝思へらく、己があぢはひのため全世界をしてあたひを拂はしめし女の美しき頬を造らんとて肋骨あばらぼねを拔きし胸にも 三七—三九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
(豆腐あぢはひ尤よし。他雑肴ざつかう箸をくだすべからず。)樹陰清涼大に佳なり。此日祭神日の前一日なり。しかれども甚雑喧ならず。八坂にゆき塔下を経て三年坂を上る。坂側はんそくみな窯戸えうこなり。烟影紛褭ふんでうせり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
我を醉はしむるに足らざるも人に其のあぢはひを分ち、半鼎の肉、我を飽かしむるに足らざるも人に其のれんを薦むる、是の如き分福の擧動は、實に人の餓狗たらず、貪狼たらざるところを現はすのであつて
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大いなる恩惠めぐみに照され、あぢはひの愛飽くなき慾を胸に燃やさず常によろしきに從ひて饑うる者はさいはひなり。 一五一—一五三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)