まこと)” の例文
六九古郷ふるさとに捨てし人の消息せうそこをだにしらで、七〇萱草わすれぐさおひぬる野方のべに長々しき年月を過しけるは、七一まことなきおのが心なりける物を。
まことに女親の心は、娘の身の定りて、その家栄え、その身安泰に、しかもいみじう出世したる姿を見るに増して楽まさるる事はあらざらん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
辰めが一生はあなたにと熱き涙わが衣物きものとおせしは、そもや、うそなるべきか、新聞こそあてにならぬ者なれ、それまことにしてまことある女房を疑いしは
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朋友ともだちまことある事人もはづべき事也、しかるを心なきともがらかのふんをたづねありき、代見立しろみたてふんあればかならず種々しゆ/″\じゆつつくして雁のくるをまちてとらふ。
昨日きのうの雨のやどりの御恵に、まことある御方おんかたにこそとおもう物から、今よりのちよわいをもて、御宮仕おんみやづかえし奉らばや」と云った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
(五) 子曰く、千乗の国をおさ(治)むるには、事をつつしんでまことあり、用を節して人を愛し、民を使うに時をもってせよ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
磯屋に寄せているおせい様の純真な愛とまことが、あまりにいたましくて、口まで出かかっても、いえないでいるのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仮令たといお手紙を上げたとて、うそまことになりもせず、涙をどれ程そそいでも死んだものが生き戻りはいたしますまい。
かつ今年の冬のごとき、いまだ関西の卒をめず。県官急に租をもとむるも、租税いずれよりか出でん。まことに知る男を生めば悪しきを。かえってこれ女を生むは好し。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
容貌も亦美し、はなはだ美しと傳へらる。汝は筆を載せて從ひ來よ。若し世人の言半ばまことならんには、汝が「ソネツトオ」のたくみを盡すも、これに贈るに堪へざらんとす。
助くるすべは無きことか、と頼母たのもしき人々に、一つ談話ばなしにするなれど、聞くもの誰もまこととせず。思い詰めて警察へ訴え出でし事もあれど、狂気の沙汰とて取上げられず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれ朝目く汝取り持ちて天つ神の御子に獻れと、のりたまひき。かれ夢の教のまにま、あしたにおのが倉を見しかば、まこと横刀たちありき。かれこの横刀をもちて獻らくのみ
人の噂をなかば偽りとみるも、この事のみはまことなりと源叔父がある夜酒に呑まれて語りしを聞けば、彼の年二十八九のころ、春のけて妙見みょうけんともしびも消えし時、ほとほとと戸たたく者あり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
キリストとを比較せんことは少しく不倫の嫌あればなり、而れども吾人は爰に確乎たる信用を以て、イヱス、キリストの人品はまことに世界の師範として仰ぐに足るべきものなることを敢言せんとす
君が名、我が詩、不滅のまこととも
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
僅かに夢に見えつるそのまこと
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
まつろはず、まことなき
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
縁起などいうものは多くまこととし難きものなれど、偽り飾れる疑ありてまこととし難しものの端々にかえって信とすべきものの現るる習いなることは
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(六) 子曰く、弟子入りては則ち孝、出でては則ち弟(悌)、つつしみてまことあり、汎く衆を愛して仁に親しみ、行ない余力あれば則ち以て文を学べ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その翌々日なりき、宮は貫一に勧められて行きて医の診察を受けしに、胃病なりとて一瓶いちびん水薬すいやくを与へられぬ。貫一はまことに胃病なるべしと思へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
呉侍御は朱の言葉をまことにできないので訴えた。郡守は朱の家の者を捕えて詮議をしたが、皆朱の言ったと同じ申立てであるから、どうすることもできなかった。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老母あはれみて四四をさなき心をけ給はんや。左門よろこびにへず。母なる者常に我が孤独をうれふ。まことあることばを告げなば、よはひびなんにと、ともなひて家に帰る。
然れどもその功に報いずは、まこと無しといふべし。既にその信を行はば、かへりてその心をかしこしとおもふ。かれその功に報ゆとも、その正身ただみ一六を滅しなむと思ほしき。
そこで、草原へしゃがみ込んで、まことにはなさりますめえけんど、と嘉吉にあおたま授けさしった……
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「紀州を家に伴えりと聞きぬ、まことにや」若者の一人、何をか思いいでて問う。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まつろはず、まことなき
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
我聞く、犯罪の底には必ず女有りと、まことなりとせば、彼はまさし彼女かのをんなゆゑに如何いかなる罪をも犯せるならんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
姨のむすめ阿松おまつは年が十七で、そんなに悪い女じゃないのです、もしまことにできないなら、阿松が毎日園亭あずまやにくるのです、その前に待ってて、御覧になったらどうです
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伯氏あには菊花のちかひを重んじ、命を捨てて百里をしはまことあるかぎりなり。士は今尼子にびて一三六骨肉こつにくの人をくるしめ、此の一三七横死わうしをなさしむるは友とするまことなし。
昌黎しやうれいまこととせず、つまびらか仔細しさいなじれば、韓湘かんしやうたからかにうたつていはく、青山雲水せいざんうんすゐくついへ子夜しや瓊液けいえきそんし、寅晨いんしん降霞かうかくらふ。こと碧玉へきぎよく調てうたんじ、には白珠はくしゆすなる。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(五)と(六)とに分ける孔子の語は、明らかにまことと愛とを人倫の道の中枢とするのであって単に家族道徳を説くのではない。(七)の子夏の語に至るとよほど五倫の思想に近づいて来る。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かれ告りたまへるまにまにして、かくけ備へて待つ時に、その八俣やまた大蛇をろちまことに言ひしがごと來つ。すなはち船ごとにおのが頭を乘り入れてその酒を飮みき。ここに飮み醉ひて留まり伏し寢たり。