不相変あいかわらず)” の例文
旧字:不相變
けれども相手は不相変あいかわらず「お金をおくれよう」を繰り返している。Nさんはじりじり引き戻されながら、もう一度この少年をふり返った。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「君不相変あいかわらずやってるな」と今までの行き掛りは忘れて、つい感投詞を奉呈した。黒はそのくらいな事ではなかなか機嫌を直さない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
検事の論告、私の弁論、この間、被告人は美しい顔を少しも乱さず、不相変あいかわらず、しずかな表情をもって黙ってきいて居たのでした。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
もなく良人おっと姿すがたがすーッと浪打際なみうちぎわあらわれました。服装ふくそうその不相変あいかわらずでございますが、しばらくいくらか修行しゅぎょうんだのか、何所どことなく貫禄かんめがついてりました。
人を知ることに於ても人に知られる事に於ても不相変あいかわらず自分は貧弱極まるものである、現在生きて居られる諸名士のうちにも随分不朽の人物がおいでになるに相違あるまいと思うが
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ニコル文学士は不相変あいかわらず例の洋傘こうもりや汚い古帽子や手袋などを抱えて応接室に待っていた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
君は余の不相変あいかわらずぼんやりして麦扱むぎこきをして居るのを見て、正気だと鑑定かんていをつけたと見え、来て見て安心したと云った。そうして此れから北海道の増毛ましげ病院長となって赴任する所だと云った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
田舎の先生は一向無頓着むとんちゃくにて不相変あいかわらず元勲崇拝なるも腹立たしき訳に候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
凡て近来の俳句一般に上達、巧者に相成候様子に存じ候。『読売』などに時々出るのは不相変あいかわらずまずきよう覚え候。まずしといえば小生先頃自身の旧作を検査いたし、そのまずきことに一驚を喫し候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「宗さん、不相変あいかわらずいけますね」と三吉が戯れて言った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不相変あいかわらずの独りで、偉がって
しかし彼等は不相変あいかわらず一町ほど向うの笹垣ささがきを後ろに何か話しているらしかった。僕等は、——殊にO君は拍子抜けのしたように笑い出した。
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「僕ですか、僕はなかなか散歩する暇なんかないです。不相変あいかわらず多忙でね。今日はちょっと上野の図書館まで調べ物に行ったです」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母親は、直に、ソレイランが嘘をついているなと思って、引かえして彼を詰問したが、不相変あいかわらず、同じ事を彼は主張した。
ようやこころおちつけてわたくしほうからたずねました。すると先方せんぽう不相変あいかわらずにこやかに——
というのはこの地方では不相変あいかわらず囲炉裡いろり焚火たきびをやっているが、それは燃料の経済からいっても、住居の構造と衛生からいっても損するところが多いものだ、それにまきの材料も年々不足して来るし
不相変あいかわらずちっとも売れないね。作者と読者との間には伝熱作用も起らないようだ。——時に長谷川君の結婚はまだなんですか?」
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「僕らは不相変あいかわらず教場内でワーっと笑ったあね。生意気だ、生意気だって笑ったあね。——どっちが生意気か分りゃしない」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして小田夫妻は極めて平穏に、平和に暮して居るように見えました。ただ道子が不相変あいかわらず若い男達と交際して居た事は、或る人達の眉をひそめさせて居たのです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
丁度ちょうどそのときわたくしうみ修行場しゅぎょうば不相変あいかわらず統一とういつ修行しゅぎょうまいふけってりましたので、みぎ婦人ふじん熱誠ねっせいこめた祈願きがんがいつになくはっきりとわたくしむねつうじてました。これにはわたくしも一とかたならずおどろきました。
小生は不相変あいかわらず都新聞の第一面の編輯でくすぶっていたのだ、そのうち松岡君は政友会へ入り込んだ、これは市政記者として出入している間に森久保系や何かと懇意なものが出来たせいもあるだろう
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、お蓮は不相変あいかわらず、ぼんやりそこにたたずんだまま、植木の並んだのを眺めている。そこで牧野は相手のうしろへ、忍び足にそっと近よって見た。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや黒君おめでとう。不相変あいかわらず元気がいいね」と尻尾しっぽを立てて左へくるりと廻わす。黒は尻尾を立てたぎり挨拶もしない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
露子はどう考えていたかわかりませぬが、不相変あいかわらず少しも不平らしい言葉も出さず私を迎えました。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
しかし当の摩利信乃法師は、不相変あいかわらず高慢のおもてをあげて、じっとこの金甲神きんこうじんの姿を眺めたまま、眉毛一つ動かそうとは致しません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
拝啓柳暗花明りゅうあんかめいの好時節と相成候処いよいよ御壮健奉賀がしたてまつりそうろう。小生も不相変あいかわらず頑強がんきょう小夜さよも息災に候えば、乍憚はばかりながら御休神可被下くださるべくそうろう
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君は知ってるだろうが、ワイフは不相変あいかわらず弱くてね、正月から小田原にずっと行ってるんだ。
正義 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
僕の左に坐ったのは僕のおととい沅江丸げんこうまるの上からわずかに一瞥いちべつした支那美人だった。彼女は水色の夏衣裳の胸に不相変あいかわらずメダルをぶら下げていた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「君は不相変あいかわらず勉強で結構だ、その読みかけてある本は何かね。ノートなどを入れてだいぶ叮嚀ていねいに調べているじゃないか」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は不相変あいかわらず何も知らぬの一てんばりで押通したが丁度その時、刑事の一人が、しきりに燃えているストーブの蓋をあけて中の物を引出してみると、それは血がついた肉塊であった。
田中中尉は不相変あいかわらず晴ればれした微笑びしょうを浮かべている。こう云う自足じそくした微笑くらい、苛立いらだたしい気もちをあおるものはない。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから天井てんじょうを見た。不相変あいかわらずひびが入っていて不景気だ。上で何かごとごという音が聞こえる。下女が四階の室で靴でもはいているんだろう。部屋はますますあかるくなる。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時は風はやみましたが雨は不相変あいかわらず降って居たので、主人夫妻は二人の客に頻りと泊って行くようにすすめたのでしたが、友田はK町に家があるので之を断って車で帰りました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
そうして、ほどなく、見た所から無骨ぶこつらしい伝右衛門を伴なって、不相変あいかわらずの微笑をたたえながら、得々とくとくとして帰って来た。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「天然居士と云うなあやはり偶然童子のような戒名かね」と迷亭は不相変あいかわらず出鱈目でたらめを云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相手は不相変あいかわらずにやにやして居る。
途上の犯人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
堂内は不相変あいかわらずひっそりしている。神父も身動きをしなければ、女もまゆ一つ動かさない。それがかなり長いあいだであった。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寒気かんき相加わり候処そろところ如何いかが御暮し被遊候あそばされそろや。不相変あいかわらず御丈夫の事と奉遥察候ようさつたてまつりそろ。私事も無事」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はすぐに顔を洗いに行った。不相変あいかわらず雲のかぶさった、気色きしょくの悪い天気だった。風呂場ふろば手桶ておけには山百合やまゆりが二本、無造作むぞうさにただほうりこんであった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
村鍛冶の音は不相変あいかわらずかあんかあんと鳴る。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妻や赤子は不相変あいかわらず静かに寝入っているらしかった。けれども夜はもう白みかけたと見え、妙にしんみりしたせみの声がどこか遠い木に澄み渡っていた。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
治修はるながはちょっとまゆをひそめた。が、目は不相変あいかわらずおごそかに三右衛門の顔に注がれている。三右衛門はさらに言葉を続けた。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
オルガンティノは気味悪そうに、声のした方をかして見た。が、そこには不相変あいかわらず仄暗ほのぐらい薔薇や金雀花えにしだのほかに、人影らしいものも見えなかった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
保吉は予言者的精神に富んだ二三の友人を尊敬しながら、しかもなお心の一番底には不相変あいかわらずひとりこう思っている。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、あとでは毛利先生が、明るすぎて寒い電燈の光の下で、客がいないのをさいわいに、不相変あいかわらず金切声かなきりごえをふり立て、熱心な給仕たちにまだ英語を教えている。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
不相変あいかわらず慎ちゃんはえ切らないのね。高等学校へでもはいったら、もっとはきはきするかと思ったけれど。——」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
進退共にきわまった尼提は糞汁ふんじゅうの中にひざまずいたまま、こう如来に歎願した。しかし如来は不相変あいかわらず威厳のある微笑をたたえながら、静かに彼の顔を見下みおろしている。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしおれんの憂鬱は、二月にはいってもない頃、やはり本所ほんじょ松井町まついちょうにある、手広い二階家へ住むようになっても、不相変あいかわらず晴れそうな気色けしきはなかった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
保吉の隣りにいる少女も、——しかし少女は不相変あいかわらず編みものの手を動かしながら、落ち着き払った返事をした。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし辰子は不相変あいかわらず落ち着いた微笑を浮べながら、まぶしそうに黄色い電燈の笠へ目をやっているばかりだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)