上下じょうげ)” の例文
縁起えんぎでもないことだが、ゆうべわたしは、上下じょうげが一ぽんのこらず、けてしまったゆめました。なさけないが、所詮しょせん太夫たゆうたすかるまい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
くまは、かごの格子こうしから、おおきなからだ比較ひかくして、ばかにちいさくえるあたまをば上下じょうげって、あたりをながめていました。
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雨降りの中では草鞋わらじか靴ででもないと上下じょうげむずかしかろう——其処そこ通抜とおりぬけて、北上川きたかみがわ衣河ころもがわ、名にしおう、高館たかだちあとを望む
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれどもその腹は一分とたないうちに、恐るべき波を上下じょうげに描かなければやまない。そうして熱そうな汗の球が幾条いくすじとなく背中を流れ出す。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然れどもゴンクウルは衆にさきんじて浮世絵に着目したる最初の一人いちにんたり。その著歌麿伝の価値はかくの如き白璧はくへき微瑕びかによりて上下じょうげするものにあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしすこどく気味ぎみになり、『すべては霊魂みたま関係かんけいから役目やくめちがうだけのもので、べつ上下じょうげがあるわけではないでしょう。』となぐさめてきました。
なにかさけぼうとしたくちびる上下じょうげにゆがんだが、いう言葉さえ知らぬように、はなあなをひろげたまま、アングリと口をあいて茫然自失ぼうぜんじしつのていたらく……。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それじゃ仕舞ッてからでいからネ、何時いつもの車屋へ往ッて一人乗一挺いっちょうあつらえて来ておくれ、浜町はまちょうまで上下じょうげ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
百余年以前には、村の戸数こすう上下じょうげをあわせて百六、七十、まだその以外にも同じ火災のあとで、利根川とねがわの川口に近い新田場しんでんばへ、疎開そかいさせた家が数十戸もあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
文治は支度そこ/\猟師の家を立去りまして、三俣へ二里半、八木沢やぎさわの関所、荒戸峠あらどとうげ上下じょうげ二十五丁、湯沢ゆさわ関宿せきじゅく塩沢しおざわより二十八丁を経て、六日町へちゃくしました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
高瀬舟たかせぶねは京都の高瀬川たかせがわ上下じょうげする小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島えんとうを申し渡されると、本人の親類が牢屋敷ろうやしきへ呼び出されて、そこで暇乞いとまごいをすることを許された。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
広島県の分水嶺である上下じょうげに行く途中の汽車の中に二人の青年があらわれた。
「月給は御承知の通り六十円ですが、原稿料は一枚九十銭なんです。仮に一月ひとつきに五十枚書いても、僅かに五九ごっく四十五円ですね。そこへ小雑誌しょうざっしの原稿料は六十銭を上下じょうげしているんですから……」
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あめのなかから、キンタさんと、オツタさんとたよ。」といううたを、あたま上下じょうげりながらうたいだしたのであります。
からすの唄うたい (新字新仮名) / 小川未明(著)
修築しゅうちく手入ていれなどの場合ばあい用意よういに、工匠こうしょう上下じょうげする足がかりがむねのコマづめから角垂木かどたるきあいだにかくしてあるもので、みんな上へ上へと気ばかりあせっていたので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つるつるちゅうと音がして咽喉笛のどぶえが一二度上下じょうげへ無理に動いたら箸の先の蕎麦は消えてなくなっておった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しょせん逃げられないとさとった彼は、目を相手の上にすえると、たちまち別人のように、凶悪なけしきになって、上下じょうげの齒をむき出しながら、すばやくほこをかまえて、威丈高いたけだかにののしった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
駄餉だしょうとも雑餉ざっしょうともこれをいって、めし屯食とんじきという握飯にぎりめしで、しるは添わなかったようであるが、そのかわりにはいろいろのご馳走ちそうひつ長持ながもちで持ちはこばれ、上下じょうげ何十人の者が路傍の森のかげなどで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
馬子まごは、はらだちまぎれに、あらあらしく、たづなをくと、うまは、あたま上下じょうげにふって、反抗はんこうをしめし、前足まえあしちからをいれて、大地だいちへしがみつこうとしました。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これで、どのくらいじだらくな上下じょうげの風俗が、改まるかわかりません。やれ浄瑠璃じょうるりの、やれ歌舞伎のと、見たくもないものばかり流行はやっている時でございますから、丁度よろしゅうございます。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これはになって行く者の足取あしどりにつれて、両端りょうはしが少しずつ上下じょうげにうごき、そのわずかのあいだだけ、肩を休めるようにできているので、そういう動作のために、荷物の吊繩つりなわがすべり落ちないように
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主人は肴をちょっと突っついたが、うまくないと云う顔付をしてはしを置いた。正面にひかえたる妻君はこれまた無言のまま箸の上下じょうげに運動する様子、主人の両顎りょうがく離合開闔りごうかいこうの具合を熱心に研究している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、みんなのほういて、あたま上下じょうげったり、からだ左右さゆうすったりしました。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)