一塊ひとかたまり)” の例文
それはそれらの団体が一塊ひとかたまりとなって共通的な行動を取るように仕組まれた組織で、一つの組合には組長、副組長というものがあって
最後にせた一塊ひとかたまりの肉団をどぶりと湯の中にほうり込むようにけて、敬太郎とほぼ同時に身体を拭きながら上って来た。そうして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小學校歸りの兒童が五人八人ぐらゐづつ一塊ひとかたまりになつて來て、二人の姿をヂロヂロ見やつては、不思議さうな顏をしてけ去つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ここに空気の一塊ひとかたまりが高い所へ昇って行くと、四方からこれを圧している外気の圧力が減ずるから、その空気の塊は漸次膨脹する。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
煙草入たばこいれにも入れてなく、ふくろにも入れてなくして、暖炉ストーブ枠の上、食器棚の上、ピアノの上とう至る所に一塊ひとかたまりづゝにして載せてある。
おおきくひらいたかおがだるまのようになって、敵陣てきじんがけて、一塊ひとかたまりとなって、んでいった友軍ゆうぐん姿すがたが……。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
辰さんは田の中から、一塊ひとかたまりの土を取って来て、青い毛のような草の根が隠れていることを私に示した。それは「ひょうひょう草」とか言った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
氷を取り寄せて女房たちに薫は割らせ、その一塊ひとかたまりを取って宮にお持たせしたりしながら心では自身の稚態がおかしかった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
座鋪に帰って、親子のものの遠慮して這入口に一塊ひとかたまりになっているのを見て、末造は愛想あいそ好く席を進めさせて、待っていた女中に、料理の注文をした。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼はすべてを承認した。人は真理の方へ進みながら途中誤謬ごびゅうに出会うことがある。彼は一種の熱烈な誠意を持っていて、すべてを一塊ひとかたまりにしてのみ込んだ。
或日、同僚数名が一塊ひとかたまりになって話し込んでいる時、一人が咳をして窓を開けた。煙草の煙にせたのだった。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
椰子の樹下のタクシーに英国人十数人が一人の女を胴あげにして一塊ひとかたまりになると喚声の間に泣き叫ぶ女の哀調をのこして砂塵さじんをたてて見えなくなってしまった。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
あるいはまたもの見高い市女笠いちめがさやらが、かずにしておよそ二三十人、中には竹馬に跨った童部わらべも交って、皆一塊ひとかたまりになりながら、ののしり騒いでいるのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
風通しのよい二階では、障子をしめた窓の片蔭に、浅井や婆さんや、よくここへ遊びに来る近所の医者などが一塊ひとかたまりになって、目を光らせながら花にふけっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「臭いはする。あの燐の一塊ひとかたまりを空気中に放出しておけば、ふすふすと白煙をげて自燃作用を起す、そのおりに発散するむせるような臭い、そんな臭いがする」
唯不気味な息づかいの荒々しさが一塊ひとかたまりとなって、丁度機関車の煙突の音と間違うばかりの壮烈なる促音調を響かせながら、一陣の突風と共に私の眼の先をかすめた。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
いつとはなしに霊気といつたやうなものが、中に潜り込んでゐるらしい気持がするので、家に帰つてそつと口を開けてみると、真白な綿のやうなちぎれ雲の一塊ひとかたまり
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
セエラがそう思ったとたん、一塊ひとかたまりの石炭が燃え砕け、炉枠にぶっつかって、音を立てました。ベッキイは怯えて飛び上り、息をはずませながら、大きな眼をあけました。
中田屋杉之助の顏は眞つ蒼、——そのあゐのやうな額に油汗が浮かんで、恐ろしい苦惱の色が鞭打むちうつたやうに顏中を走ると、胸を押へてクワツと吐いたのは一塊ひとかたまりの血潮です。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
一塊ひとかたまりづつ散つてしまふ、一人立ち去るその度に、広い海に囲まれて白々と鈍く輝やく岩壁の背がまるで零れた汚点しみを抜くやう、遠い海風うみかぜに吹き渡られて妙に侘しく漂白されるが
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
勘左衛門の三人が三鉄輪みつがなわに座を構えて、浮世雑談ぞうだんの序を開くと、その向うでは類は友の中間ちゅうげん同志が一塊ひとかたまりとなッて話を始めた,そこで自分は少し離れて、女中連の中へはいり込み
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
海に接した部分は風に吹かれる幕の裾のやうに煽られながら惡夢の物凄さを以て近よつて來る。見る/\近よつて來る。突然吹きちぎられた濃霧の一塊ひとかたまりが彼れを包んだ。彼れの眼は盲ひた。
潮霧 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
そして、その婆さんの、白い一塊ひとかたまりの石のやうになつた頭を、蹴つて見ますと
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
端には一塊ひとかたまりの腐れ縄、そこに、蛙がひょんと跳んで、っと動かないのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
保名やすなおどろいてかえってるひまもなく、すぐまえ一人ひとり、りっぱなうまった大将たいしょうらしいさむらいさきてて、こんどはなんにんというさむらいが、一塊ひとかたまりになってせてて、保名主従やすなしゅじゅうかこみました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
……(運八が銀の鶏……ではあれども、職人がしらは兄弟分、……まず出来た。この形。)と雪を、あの一塊ひとかたまり……鳥冠とさかひねり、くびを据え、翼をかたどり、尾をしごいて、丹念に、でも、あらづもりの形を。
大玄関前の駒寄こまよせを離れて、一塊ひとかたまりの騎馬の影が此方こなたへ流れて来る。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重い液体の一塊ひとかたまりの様に、横わっていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ああ、一塊ひとかたまりの蠅は
(旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
黒い鉄の扉が左右へくと、薄暗い奥の方に、灰色の丸いものだの、黒いものだの、白いものだのが、形を成さない一塊ひとかたまりとなって朧気おぼろげに見えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人々は土をつかんで、穴をめがけて投入れる。叔父も丑松も一塊ひとかたまりづゝ投入れた。最後にくはで掻落した時は、崖崩れのやうな音して烈しく棺の蓋を打つ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
小學校の兒童が五人、八人づつ一塊ひとかたまりになつて歸つて來る。其のかたまりの中から可愛らしいお光を見出して家へ呼び込む。それが小池の毎日の仕事のやうになつてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
野犬やけんの一ぐんは、ジャックを中心ちゅうしんにして、自分じぶんたちの生活せいかついとなむことにしました。かれらは、どこへいくにも一塊ひとかたまりとなって、いつでもてきたる用意よういをしていました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はげしい太刀音たちおとと叫喚の声とが、一塊ひとかたまりになった敵味方の中から、ひっきりなしにあがって来る。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小使い部屋の物置きに石炭が貯蔵ちょぞうしてある。大きなのを一塊ひとかたまり持ってくるとさしあたりしのげる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
子供の姿は、まるで一塊ひとかたまり襤褸ぼろでした。赤い泥まみれな素足が、その襤褸の中から覗き出していました。恐ろしくこんがらがった髪の下から、大きな、ひもじそうな眼を見張っていました。
次の段に乗せてあった摺鉢すりばちと、摺鉢の中の小桶こおけとジャムの空缶あきかんが同じく一塊ひとかたまりとなって、下にある火消壺を誘って、半分は水甕みずがめの中、半分は板の間の上へ転がり出す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眼にる低い軒、近頃砂利じゃりを敷いたらしい狭い道路、貧しい電灯の影、かたむきかかった藁屋根わらやね、黄色いほろおろした一頭立いっとうだての馬車、——新とも旧とも片のつけられないこの一塊ひとかたまりの配合を
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)