一口ひとふり)” の例文
道理で、辻斬りが流行はやるというのにこのごろはなお何かに呼ばれるように左膳は夜ごとの闇黒やみに迷い出る——もう一口ひとふりの刀さがしに!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
平次は落着払ってその下を見ると、底の方へ押込むように入れてあるのは、一口ひとふり匕首あいくち、抜いてみると、思いの外の凄い道具です。
大地へ両手を突いて、頭を下げた子鉄は、その時に懐中へ手を入れて取り出して、二三間ばかり向うへ投げ出したのが一口ひとふりの短刀です。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分のつ剣に、自分が抱いた新しい信念を吹きこんで、その一口ひとふりを、彼はまず、佐久間象山へ贈ろうと、発心したのであった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ト諸君はお竹蔵と云うのを御存じのはずと思う。あの屋根から、誰が投げて、どのがらくたに交ったか、二尺ばかりの蝋鞘ろざや一口ひとふり
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若侍は鷹揚おうように二ツ割の青竹の筒を出した。それを開くと中から錦の袋が出た。その袋の中からは普通の脇差わきざし一口ひとふり
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
又或る時、杉山法螺丸が何かのお礼の意味か何かで、頭山満に千円以上もする銘刀を一口ひとふり贈った事がある。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこで、寄は一口ひとふりのよい剣と一匹の蛇喰い犬とを用意して、いよいよ生贄にささげられた。
測らず 跬歩きほ敢て忘れん慈父の訓 飄零ひようれいげて受く美人の憐み 宝刀一口ひとふり良価を求む 貞石三生宿縁を証す 未だ必ずしも世間偉士無からざるも 君が忠孝の双全を得るにつく
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
狸から謝礼を受けるわけにはいかないといつて拒絶してしまつたところ、その日は悄然と帰つたが、日を改めて再び現はれ短刀一口ひとふり差出して謝礼を受けてもらへないのは苦しい。
日本の山と文学 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
作りつけのろう人形のように、凄まじい眼をいている夫人の内ポケットを探って、毒蛇コブラの取り出したものは、万年筆型に仕込んだ五インチばかりの、研ぎ澄ました短剣ドルクがもう一口ひとふり……後は時計
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼女は、当座の着替や化粧道具などを、一杯に詰め込んだ大きなトランクの底深く、一口ひとふりの短剣を入れることを忘れなかった。それが、夫と二人りの別荘生活に対する第一の準備だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
木下大佐は、清君と燁代さんに、一口ひとふりずつの短刀を残してくれた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
一番上は節用集が一冊、着物が五六枚、それを一枚一枚取出すと一番下に渋紙に包んであったのは、さやつかもない、匕首あいくち一口ひとふり
うつくしき人はなかばのりいでたまいて、とある蒔絵まきえものの手箱のなかより、一口ひとふり守刀まもりがたなを取出しつつさやながらひきそばめ、雄々おおしき声にて
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秀吉からは、その日、手みやげとして、黄金二十枚、不動国行ふどうくにゆきの刀一口ひとふりを、かれに贈り、なお伊勢地方での戦利品米、三万五千俵をも、贈与ぞうよした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで、あるとき一人の浪人が、その花屋のお爺さんに一口ひとふりの刀と、まだばなれのしない女の子を預けてどこかへ行ってしまいました、この女の子が、あのお若さんなのです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見ろといえ。石の上に一本の松が生えていて、その石のうしろに一口ひとふりの剣が秘めてある
うつくしき人はなかばのりいでたまひて、とある蒔絵まきえものの手箱のなかより、一口ひとふり守刀まもりがたな取出とりだしつつさやながらひきそばめ、雄々おおしき声にて
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
残る一枚のあわせと、一口ひとふりの刀を売って、最後の糧を手に入れると、相も変らず奇瑞の枕を抱いて、歓楽の夢を追う愚劣無残の彼の姿だったのです。
清麿が欣んでくれたので、清人は、行燈を片手に、白鞘に仕立てたばかりの一口ひとふりを持って来て、差出した。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、ゆくりなく拾い上げたのは一口ひとふりの刀であります。それを駒井が提灯の光で見ている時、今まで眠れるもののように静かであった大川の水音が、にわかにざわついてきました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
質の出入れ——この質では、ご新姐の蹴出し……縮緬ちりめんのなぞはもうとっくにない、青地のめりんす、と短刀一口ひとふり。数珠一れん
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「後ろから脇差で刺されてをりましたが、見ると、脇差は柴田家のもの——父上御祕藏の一口ひとふりではございませんか」
『お座右ざうへ置くには足りませぬが、いずれ一口ひとふり、その心をもって鍛ったものを持って参りまする』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袷を投げ出した時——衣類の間に見えたのは袋に入れた一口ひとふりの懐剣です。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「後ろから脇差で刺されておりましたが、見ると、脇差は柴田家のもの——父上御秘蔵の一口ひとふりではございませんか」
一口ひとふり渡せ、一挺貸せ。——持たんのか。一本しかない刃物なら、暗撃やみうちにしろ。離れて狙え。遠くから打て。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金六は縁側の隅から、手拭に包んだ一口ひとふりの短刀を持つて來て見せました。拵へも金具もよく、柄のさめに血がこびり附いて居るのは、何んとなく不氣味です。
仰々ぎょうぎょうしく言出いいだすと、かたき髑髏しゃれこうべか、毒薬のびんか、と驚かれよう、真個まったくの事を言ひませう、さしたる儀でない、むらさききれを掛けたなりで、一しゃくずん一口ひとふり白鞘しらさやものの刀がある。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
匕首を一口ひとふり懷ろに入れ、切戸から庭へ入り、幸ひ開けたまゝになつて居る此部屋に入つて、匕首を敷居の上に置いたまゝ、お通さんの返事を訊かうとしたのだ
仰々ぎやう/\しく言出いひだすと、かたき髑髏しやれかうべか、毒藥どくやくびんか、とおどろかれよう、眞個まつたくことひませう、さしたるでない、むらさききれけたなりで、一しやくずん一口ひとふり白鞘しらさやもののかたながある。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
土をかき退けるように、掘り出してみると、見事な短刀が一口ひとふりつかさめがすっかり血に汚れて、刃もひどい血曇りですが、どうしたことかさやが見当りません。
得三は他に一口ひとふり短刀かいけんを取りいだして、腰に帯び、下枝を殺さんと心をさだめて、北の台に赴き見れば、小手高うそびらじていましめて、柱に結え附け置きたるまま、下枝は膝に額をうず
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土をかき退けるやうに、掘り出して見ると、見事な短刀が一口ひとふり、柄のさめがすつかり血に汚れて、刄もひどい血曇りですが、何うしたことかさやが見當りません。
投出して手をくまでも、短刀を一口ひとふり持っています——母の記念かたみで、峠を越えます日の暮なんぞ、随分それがために気丈夫なんですが、つつしみのために桐油とうゆに包んで、風呂敷の結び目へ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は手燭を借りると、一寸庭へ出ましたが、間もなく長目の刀を一口ひとふり血錆ちさびのまゝ持つて來たのでした。
背後うしろからながめて意気いきあがつて、うでこまぬいて、虚空こくうにらんだ。こしには、暗夜あんやつて、たゞちに木像もくざう美女たをやめとすべき、一口ひとふり宝刀ほうたうびたるごとく、威力ゐりよくあしんで、むねらした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なるほどそういえば、音松の持っていたのは匕首が一口ひとふりだけ、その辺に太刀も脇差も落ちてはいません。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
須弥壇は四座しざあって、壇上には弥陀みだ観音かんおん勢至せいし三尊さんぞん二天にてん六地蔵ろくじぞうが安置され、壇の中は、真中に清衡きよひら、左に基衡もとひら、右に秀衡ひでひらかんが納まり、ここに、各一口ひとふりつるぎいだき、鎮守府将軍ちんじゅふしょうぐんいんを帯び
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廊下で刺したのも、三千麿のやうな氣がしない、刀に血が附いて居なかつた——いや刀は外にもう一口ひとふり位はあるだらうが、三千麿が曲者なら、ワケも無く金兵衞を
魔とも、妖怪変化とも、もしこれが通魔とおりまなら、あの火をしめす宮奴が気絶をしないでこらえるものか。で、般若は一ちょうおのを提げ、天狗は注連しめ結いたる半弓に矢を取添え、狐は腰に一口ひとふりの太刀をく。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弁次郎は観念したらしく、腹巻をさぐって匕首あいくち一口ひとふり取出し、柄を逆にして、平次のの上に載せます。
香炉こうろに線香を立てて、床に短刀が一口ひとふりあった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程さう言へば、音松の持つてゐたのは匕首が一口ひとふりだけ、その邊に太刀も脇差も落ちてはゐません。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
一口ひとふりか一挺か
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「羽織が一枚と、匕首が一口ひとふりと、血だらけの雜巾が一つ、尤も羽織も匕首やひどい血ですがね」
手拭に包んで来たのは、匕首あいくち一口ひとふり、切っ先が血に染んで、少し刃こぼれがあります。
手拭に包んで來たのは、匕首あひくち一口ひとふり、切先が血に染んで、少し刄こぼれがあります。
覗いて見ねえ、底に脇差が一口ひとふり沈んでいるのが、よく見えるぜ