黎明れいめい)” の例文
附記 明治四十四年十月、平塚らいてう(明子)さんによって『青鞜』が生れたのは、劃期的な——女性覚醒かくせい黎明れいめいの暁鐘であった。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
月は西に白けて、大空は黎明れいめいの気を見せて来た。そこに天地が口を開けたやうな一種いふべからざる神厳と空虚の面貌めんぼうの寸時がある。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
黎明れいめいの山気に包まれ、滝しぶきと朝靄に霞んだその姿は、白い浴衣一枚になった京子であった。京子が滝にうたれているのであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
飛鳥あすか白鳳天平のわが仏教の黎明れいめい期には薬師信仰は極めて盛んであった。いな薬師信仰はどんな時代でも病のある限りは不滅であろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
湯元の温泉に一夜をくつろぎ、翌黎明れいめい爽昧そうまいの湯の湖を右に見て、戦場ヶ原の坂の上に出て、中禅寺湖の方を展望すれば、景観は壮大である。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それは神の国の黎明れいめいだ。しかしまた社会的事変や自然的天災が起これば、神の国はすぐに来るものと早呑み込みをしてもいけない。
まだ霧こそ深いが、東山のうえは紅々あかあか黎明れいめいに染められている頃なので、往来人のために、常のごとく木戸のくぐりは開かれていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『魯文珍報』は黎明れいめい期の雑誌文学中、や特色があるからマダシモだが、『親釜集』が保存されてるに到っては驚いてしまった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
二月二十日の総選挙は、れ自身に於ては未だ吾々を満足せしめるに足りないが、日本の黎明れいめいの総選挙より来るであろう。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
彼は、この時、暗い夜の向こうに、——人間の目のとどかない、遠くの空に、さびしく、冷ややかに明けてゆく、不滅な、黎明れいめいを見たのである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが黎明れいめい時代から今日まで発達するにはやはりそれだけの歴史があったので、その歴史は絶対単義的な唯一の道をたどって来たと考えるよりは
物理学圏外の物理的現象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
思えば私は喇叭吹き込みの最終期から電気吹き込みの黎明れいめい期にかけて関西のレコード界へ登場活躍していたのである。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
夜のやみは暗く濃く沖のほうに追いつめられて、東の空には黎明れいめいの新しい光が雲を破り始める。物すさまじい朝焼けだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
枕山雲如の二人は一日黎明れいめい不忍池しのばずのいけ荷花かかんことを約し、遅く来たものは罰として酒をう責を負うこととした。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先日こなひだ中央公会堂で開いた黎明れいめい会の講演会に聴きに往つた人は、いつも黒木綿の紋附羽織に小倉のはかまときまつた福田徳三博士が、皺くちやではあつたが
すると、黎明れいめいはその頃から脈づきはじめて、地景の上を、もやもやした微風がゆるぎだすと、窪地の霧は高くのぼり、さまざまな形に棚引きはじめるのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それを、退けるように表にけ出させてしまった。彼はそこで黎明れいめいの来るのを待たねばならなかった。仕えている主人の気持が漠然ばくぜんと反映しているのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
黎明れいめいの鐘の音がかすかに響いてきた、この時刻ですらこうしてあらわな所に出ているのが女は恥ずかしいものであるのにと女王は苦しく思うふうであった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どの論文もよく分らなかったが、何となく物理学の新しい黎明れいめいが近づきつつあるという気がして、皆が夢中になって、夜おそくまで討議をしたものであった。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私の腐ったくちびるから、明日の黎明れいめいを言い出すことは、ゆるされない。裏切者なら、裏切者らしく振舞うがいい。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
天明てんめい三年、蕪村臨終の直前にえいじた句で、彼の最後の絶筆となったものである。白々とした黎明れいめいの空気の中で、夢のように漂っている梅の気あいが感じられる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
太陽も、夏の麗しい日々も、輝いた空も、四月のさわやかな黎明れいめいも、ジャン・ヴァルジャンのためにはほとんど存在しなかった、と言っても偽りではないであろう。
ほのかな明るみが黎明れいめいを告げた。薄ら明かりの中に、彼は自分の顔に接してる痛ましい顔を見てとった。
一人ひとり左鬢さびんに、かすかなきづしろ鉢卷はちまきわたくし雀躍こをどりしながら、ともながむる黎明れいめい印度洋インドやう波上はじやうわたすゞしいかぜは、一陣いちじんまた一陣いちじんふききたつて、いましも、海蛇丸かいだまる粉韲ふんさいしたる電光艇でんくわうてい
一同は勝鬨かちどきをあげて壮い木客を伴れて小舎の中へ入ったが、その時はもう黎明れいめいに近かった。
死んでいた狒狒 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それが間違いなくやってきた黎明れいめいと共に、ガタンと落とした窓からスースーけていってしまって、代りに新鮮な空気が、新鮮な朝という容器に盛られてみなみなにすすめられ
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前の夜、国境安別の海岸と別れた私たちの高麗丸は、元来た南へ南へと下航して、黎明れいめいに野田の沖合五、六丁の処にその機関の運転を停めた。予定の上陸地であったのである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
この一切をもう一度新鮮な黎明れいめいの美にかえさしめるのがわれわれ日本民族の仕事である。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
十二曲の交響曲詩シンフォニック・ポエムを書いて、楽壇に大きな時代をかくし、近代音楽の黎明れいめいの鐘を高らかにき出したフランツ・リスト、——一面においてピアニストとして前人未踏の境地をひら
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
なお十分なる効果を挙げえないうちに、国は次第に近世の黎明れいめいになったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たとえば大野の黎明れいめいにまっ白い花のぱッと目ざめて咲いたように、私らが初めて因襲と伝説とから脱してまことのいのちに目醒めたとき、私らの周囲には明るい光がかがやきこぼれていた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
重昌、貞清、諸将を集めて明日城攻めすべく評議したが、有馬忠郷と立花忠茂は共に先鋒を争うのを重昌さとして忠茂を先鋒と定めた。二十日の黎明れいめい、忠茂五千の兵をもって三の丸を攻撃した。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
やがて自動車がきましたので、私たち四人は人通りの少ない黎明れいめいの街を駿河台さして走りました。四人はとかく黙りがちでしたが、中でも竹内さんはにが虫をつぶしたような顔をしていました。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
このいきおいに乗ぜよやと、張玉、朱能等、いずれも塞北さいほくに転戦して元兵げんぺいあい馳駆ちくし、千軍万馬の間に老いきたれる者なれば、兵を率いて夜に乗じて突いて出で、黎明れいめいに至るまでに九つの門の其八を奪い
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
アカシヤの花の匂ひが茫とした黎明れいめいの空気に著るしくみなぎり渡つた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
日が落ちた、港へはいれ! 黎明れいめいが来たぞ、島へ隠れろ! ……大金がはいった、さあ上陸だ! 酒場、踊り場、寝台のある旅舎はたご! どれでも選べ、女をあされ! 飲め、酒だ、歌え! それよりもだ
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黎明れいめいを思ひ軒端の秋簾あきす見る
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
長い苦難を経て、魂のいこいはようや飛鳥あすかの野にも訪れたかに思わるる、そういうほのかな黎明れいめい時代を太子は築かれつつあったのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
まぶしげに、人々は、眉の上へ手をかざした。四十六名の顔の一つ一つに、たった今、黎明れいめいの雲を破った朝の陽が、紅々あかあかと燃えついていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大概の芸術は人類の黎明れいめい時代にその原型プロトタイプをもっている。文学は文字の発明以前から語りものとして伝わり、絵画彫刻は洞壁どうへきや発掘物の表面に跡をとどめている。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
磨硝子色すりガラスいろに厚みを保って陽気でも陰気でもなかった。性を脱いでしまった現実の世界だった。黎明れいめいといえば永遠な黎明、黄昏たそがれといえば永遠に黄昏の世界だった。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近代文学の黎明れいめいは、実に浪漫派の情緒主義センチメンタリズムによって開かれている。それは資本主義の平民文化が精神する、あらゆる反貴族的、反武士道的なものを表象している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
しかしもうその時には、塔の上層に黎明れいめいが始まっていて、鐘群の輪郭がっと朧気おぼろげに現われて来た。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それらの車の上には人の形が動いていた。黎明れいめいの明るみのうちに透かし見ると、抜き身のサーベルらしいひらめきも見え、鉄の鎖を動かしてるような響きも聞こえた。
寒く、淋しく、穏やかに、晩秋の田園の黎明れいめいが来た。窓ガラスに霜華が霞ほど薄く現われていた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
苦しんで明かしたのちの秋の黎明れいめいは、この世から未来の世のことまでが思われて身にしむものだ
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
黎明れいめいから黄昏たそがれのころまで、彼はたえざる幻の中に生きていた。すべての務めはうち捨てられた。
ほとほと手を焼いて居りましたら、このたび民主主義の黎明れいめいが訪れてまいりまして、新憲法に依って男女同権がはっきり決定せられましたようで、まことに御同慶のいたり、もうこれからは
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
五日夜、幸村と勝永天王寺より平野に来り基次に云う、「今夜鶏明道明寺に会し、黎明れいめい以前に国分の山を越え、前後隊を合し、東軍を嶮隘にむかえ、三人討死するか両将軍の首をとるかを決せん」
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ほのぼのとした黎明れいめいが東の空からいていた。水のような明るみを背後に受けて、阿賀妻はさされた盃をおし頂いた。従僕が徳利の口をおさえて酒を注いだ。なみなみと満して、たゆたっている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)