鳥打とりうち)” の例文
今年は上海シャンハイのチブスがひどいからな。……ナニ俺か。俺は大丈夫だ。この上からマントを着てゆく。帽子は鳥打とりうちがええ。ウン。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さます刺激のそこ何所どこしづんだ調子のあるのを嬉しく思ひながら、鳥打とりうち帽をかむつて、銘仙めいせんの不断の儘もんた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
午後鳥打とりうち帽子ぼうしをかぶった丁稚風でっちふうの少年が、やゝ久しく門口に立って居たが、思切ったと云う風で土間に入って来た。年は十六、弟子にして呉れと云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……かれ金釦きんぼたん制服せいふくだし、此方こつちはかまなしの鳥打とりうちだから、女中ぢよちう一向いつかうかまはなかつたが、いや、なにしても、くつ羊皮ひつじがは上等品じやうとうひんでも自分じぶんはうささうである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二人はころげるようにして漸く乗り込むと、夏の鳥打とりうち帽をかぶりたる三十前後の小作りの男がわれわれよりも先に乗っていて、田島さんを見て双方無言で挨拶する。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まぶかにかぶっている鳥打とりうち帽子のひさしが顔の上へ蔭をつくっているので月あかりでは仔細しさいにたしかめにくいけれどもとしはわたしと同年輩ぐらいであろう、せた
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
むこうから鳥打とりうちかぶりインバを着た男が来た。哲郎はこの男は刑事か何かではないかと思った。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
西洋の狩猟の絵に見るような黒い鳥打とりうち帽子をかぶり、霜降しもふりの乗馬服に足ごしらえもすっかり本式なのが、むち手綱たづなと共に手に持って、心持前屈まえかがみの姿勢をくずさず、振向きもせずに通り過ぎた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
んで、ト引返ひきかへした、鳥打とりうちかぶつたをとこは、高足駄たかあしだで、ステツキいためうあつらへ。みちかわいたのに、爪皮つまかはどろでもれる、あめあがりの朝早あさはや泥濘ぬかるみなかたらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みんな洋服を着た若い人ばかりで、二人は詰襟つめえり、ひとりは折襟……。帽子もみんな覚えてゐます、一人は麦藁むぎわら、ひとりは鳥打とりうち、ひとりは古ぼけた中折なかおれをかぶつてゐました。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
代助はかぜを恐れて鳥打とりうち帽をかぶつてゐた。かぜは漸くんで、強いくも隙間すきまからあたまうへらした。さきく梅子と縫子はかさひろげた。代助は時々とき/″\かうひたひまへかざした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちや鳥打とりうちをずぼりとふかく、たけうへから押込おしこんだていかぶつたのでさへ、見上みあげるばかりたかい。茶羅紗ちやらしや霜降しもふり大外套おほぐわいたうを、かぜむかつたみのよりもひろすそ一杯いつぱいて、赤革あかゞはくつ穿いた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひさしを深くおろした鳥打とりうちかぶったまま、彼は一応ぐるりと四方あたりを見廻したあとで、ふところへ手を入れた。そうしてそこから取り出した薄い小型の帳面を開けて、読むのだか考えるのだか、じっと見つめていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一停車場あるステイシヨンで、かれとなりた、黒地くろぢ質素しつそ洋服やうふくて、半外套はんぐわいたうはおつて、鳥打とりうちかぶつた山林局さんりんきよく官吏くわんりともおもふ、せた陰氣いんきをとこが、薄暗うすぐらまどからかほして、とほりがかりの驛員えきゐんんでいた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
う、氣咎きとがめがするらしく、きふ別構わかれがまへに、鳥打とりうちける。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鳥打とりうちに手をかけて
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)