ます)” の例文
性来、特に現在はなはだ人間嫌いになった私にとってもこの人が島へくることは一尾のますおよいできたような喜びを与える。——追記。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
あなたはおひるから、ますおよいでるのが見える池へ連れてつてやると仰しやつたぢやないの。あたしまだ鱒を見たことがないんですもの。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
「空の工兵大隊こうへいだいたいだ。どうだ、ますなんかがまるでこんなになってはねあげられたねえ。ぼくこんな愉快ゆかいたびはしたことない。いいねえ」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
魚でもさけますと大きなやまめ渓間たにまの鯉は蛇を食べますから鮭や鱒を食べると三年過ぎた古疵ふるきずが再発すると申す位で腫物や疵には大毒です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
たしかに河の出口にある古びた街であったけれども、仔細しさいに見れば海からは少からず逆のぼって、さけますの漁場から川上になっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「蛇を追ふますのおもひや春の水」という蕪村の句も、動物の「思ひ」を捉えているが、いささか特殊に過ぐる嫌がないでもない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
山女魚は、ますの子によく似ている。姿全体と言い、紫色に光る鱗と言い、十三個の斑点の並びまで、山女魚と鱒の子は殆ど見分けがつかない。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
その折露伴氏は、島が万一自分の者になつたら、どんな訪問客はうもんかくでもきたますの子を手土産に持つて来ないものは、面会を謝絶する事にしたい。
釣りのコンデイシヨンにしてもさうだ、遊釣としては最大がますたい、スズキのやうなもので、高々七八百匁を程度とする。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
それには週末休日ウイクエンドのゴルフと漁季のます釣りとには依然親愛の情を持って御交際するが、その他の一切に関しては御交渉を絶ち度いという申出でだ。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕はますの捕れる時節に招待されたのであるが、まず初夏の時節をよしとして訪問したのである。草は乾いて、日光はさのみ暑からず、そよそよと風が吹く。
次手ついでだから、つぎとまり休屋やすみや膳立ぜんだてを紹介せうかいした。ますしほやき、小蝦こゑびのフライ、玉子焼たまごやきます芙萸ずいきくづかけのわん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、どんどん運び出されて、さけます菰包こもづつみのように無雑作に、船尾につけてある発動機に積み込まれた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
船底にバチャバチャ生きている魚を見ると、鯉、ますがある。すずき、はぜにくろ鯛がある。手長えびやなまずもある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ますがこの瀑を超えようとして跳び上る所を素早く掬い取る為に、漁夫が手網を持って岩蔭に待っている。私達が遊んで居る間にも二度許り網の閃くのを見た。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
丁度此処ここへ通りかかつた、ではない泳ぎかゝつた湖水のひれ仲間に名を知られた老成なますどのが、おなかのすき加減といひ、うまさうな物が水の面に見える工合ぐあいといひ
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
底へゆくほど流れがかさなりかかっていること、わけても大桑の淵にはそれが著しかったこと、その日はますを料亭から受け合って捕りに這入ったことなどを思い出した。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
肥った山鼠モルモット白鷓鴣しろやっこ松鶏らいちょうと並んで、長い鉄ぐしにささって火の前に回っており、竈の上には、ローゼ湖の二ひきの大きなこいとアロズ湖の一尾のますとが焼かれていた。
最も懇篤こんとくに取扱いくれたるはうれし。ここにて弁当をしょくす。茶を饗せられたり。此迄これまでは人家無く、附近にも更に人家無しと。河畔に土人小屋あり。此れまするなりと。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
「近頃は漁猟と銃猟とをし、ゼネバの原にてたくさんのうずらをとり、ローン河にてはますを漁った。」
これは、こうして燻製するのである。日本人は燻したますを好む。そして捕えるに従って、長い、細い竹の串につきさし、それを図434に示すように、褥につき立てる。
谷河のます岩魚いわなを突いて、あれを生で食った生活、剣の峰、千願岩、猿の子知らず、あの剣の刃のような岩の上を飛廻って、獣や鳥を生捕いけどりにした、昔の生活が恋しくて
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
さけますにも以前はこの貯蔵方法が盛んであったらしく、今もアラマキという語が知られている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お杉はたらますの乾物で詰った壁の中を通りぬけ、卵ばかり積み上った山の間を通り、ひきち切って来たばかりの野菜が、まだ匂いを立てて連っている下をくぐりぬけると
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そうして朝から晩までます一点張りの御馳走をうけた。実にテンポのゆるやかな国であった。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
燻製くんせいますがあるし、山羊の乳まであるんだから、まるで食物ぐらにいるようなものだわね。
ホーテンスはこの土地の名産であるところの一種のます燻製くんせいをたいへんに褒めて食べた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
浅瀬石川あぜいしがはといふのは津軽の平野を越えて日本海の十三潟に注ぐ岩木川の上流の一つである。其処きりでますの上るのが止るといふ荒い瀬のつゞく辺に板留といふ小さな温泉場がある。
渓をおもふ (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
ますの種類で、虹鱒にじますというのが、育ちが早くてうまいというので、諸国の人が、アメリカからそれを移したがっているから、追々こっちへ来るかも知れない——といったようなもので
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おお、そうして、昆布を、貝類を、鮭を、荒布を、雲丹うにを、すけとうだら、樺太ますを。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
お天気のいいのを幸いに、手製のタマ網を引っかついで、ますをすくいに出かけました。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さけますやまべなぞは持ちきれぬ程釣れて、草原にうっちゃって来ることもあり、銃を知らぬ山鳥はうてば落ちうてば落ちして、うまいものゝためしにもなる山鳥の塩焼にもいて了まった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
北海のます積みきたる白き帆を鐘楼しゆろうのぼり見てある少女をとめ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夕べをもまたず冷えてゆく朴の枝が教えるであろう、無慈悲なかぎに捕えられたのは淵にすむますの子ではなくて私みずからであったことを。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
奥日光の湯川では、猛然と鈎に飛びつくますに深い興趣を求めたのであるが、あの戦場ヶ原を取りまく大きな山々の景観には、幾度か心を惹かれた。
水の遍路 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
その柱のようになった水は見えなくなり大きなさけますがきらっきらっと白く腹を光らせて空中にほうり出されて円い輪を描いてまた水に落ちました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
第三十四 カビヤサンドイッチ このカビヤと申すのは丁鮫ちょうざめの子を鑵詰にしたのが上等ですがそれは滅多めったにありませんで大概たいがい魯西亜ロシヤ産のますの子を使います。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この岩魚も大水に置き残されたものであろうという。私は初めますかと思った。夜中に眼が覚めて外を覗くと、鬱陶しかった谷の空はいつの間にか星が銀砂子を撒いていた。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「さすらい人」「魔王」「ます」「死と乙女」「なれこそいこい」「連祷れんとう」——等、限りもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
さて御馳走ごちそうだが、そのばんは、ますのフライ、若生蕈わかおひたけとなふる、焼麩やきふたのを、てんこもりわん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さけますと共に、国際的に云ってだ、他の国とは比らべもならない優秀な地位を保っており、又日本国内の行き詰った人口問題、食糧問題に対して、重大な使命を持っているのだ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
従つてアルプス山中の岩魚いわな、日光のます、伊豆沖のたい釣りも珍らしい事では無くなつた。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
一、ココナットから象が出る馬耳塞マルセーユの朝景色。マルセーユの旧港ヴィユ・ポール。——この四角な、ます孵化場ふかじょうのようなもののなかには、あらゆる船舶の見本と、あらゆる国籍が詰め込まれている。
自分は何をすべきか、と。やがて、競子は一疋のますのように、産卵のためにこの河を登って来るにちがいない。だが、それがいったい何んであろう。自分は日本を愛さねばならぬ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
昨年の十月の末であつた、利根の上流の片品川の水源林をなす深い山に入り、山中にある沼でますを飼つてゐる番人の小屋に一晩泊めて貰ひ、翌日そこの老人を案内に頼んで金精峠こんせいたうげといふを越えた。
「山魚より大きなもの——それではうなぎますでもいるのかい」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山女魚やまめも、岩魚いわなも、ますの子も。——骨を除いて食べるようでは、こうした魚の真の味を知る人とはいえないのである。
水と骨 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そのはしらのようになった水は見えなくなり、大きなさけますがきらっきらっと白くはらを光らせて空中にほうり出されてまるいえがいてまた水にちました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さけでもますでもたいでもすずきでも何でも白い身の魚を湯煮るか蒸すかして冷めた処を前にあるマイナイスソースで和えてパンへ挟みます。鮭や鱒は鑵詰の物を用いても出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もすそを据えた大魚は、ややつらが奇怪で、鯉だか、ますだか、亀だか、蛇だか、人間の顔だか分らない。魚尾は波がしらにねている。黒髪のかんざしに、小さな黄金きんふなが飾ってある。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)