)” の例文
あながちにいなみもせず千代は私の杯を受取る。無地の大きなもので父にも私にも大の氣に入りの杯である。お兼はそれになみ/\といだ。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
黙って父は、ただマジャルドーと酒ばかりぎ合って、ナフキンでひげばかり拭いていた。母も黙ってはなをすすって、一言も言わなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そんなことを云うなよ」臆病な主翁ていしゅは、しかたなしにさかずきの酒を飲んで、あとぎながら、「つまらんことを云わずに、早く往って来いよ」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、勝平は戸外のさうした物音に、少しも気を取られないで、瑠璃子がいでやつた酒を、チビリ/\とめながら、熱心に言葉を継いだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
茶碗の酒をいで、仏壇の亡母ははへ最期を告げている一学であった。それを覗くと、木村丈八も、はっと、平常ふだんの自分に帰った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠野は故意わざとお道化どけた風に点頭うなづきつゝ棚から口の短いキュラソウの壺を取り下ろした、そしてそれを道助の洋盃グラスぎながら
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
御道理ごもっともで、私あ自分にも分らねえんだからね、何ですぜえ、無体、しゃくに障るから飲みますぜえ、頂かあ、頂くとも。いどくんねえ、酌いどくんねえ
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは済みませんけれど」と言いながら、婆アさんが承知のしるしに僕の猪口に酒をいで、下りて行った。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
大「のう林藏、是迄しみ/″\話も出来んであったが、今日きょうは差向いでゆっくり飲もう、まア一盃いっぱいいでやろう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女は、できるだけ、それに逆らわずに、酒をいでもらって、早く帰してもらおうとつとめているらしい。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを三田にも田原にもおつさんにも、外の女達にもひとつ宛持たせ、帶の間から栓拔を出して、手際よく瓶の口を取り、みんなのコツプになみなみといだ。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
おおった布巾をはらうと、茶碗ちゃわんのなかにはお初ほが、ぱさぱさしたうす黒いサイゴン米ながら、主人のために取りわけられていた。汁をぐ手も馴れたようであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
遊ばずに済めば遊ばぬがいゝのです、およしなさいよと云て、自分でいだ茶碗を取った。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
酔顔斜めに梅子をうかがひ、徳利てうし取り上げて松島にがんとせしが「あら、冷えて仕舞しまつたんですよ」と、ニヤり松島と顔見合はせ、其儀そのまゝスイと立つて行きぬ、微動だもせで正座し居たる梅子
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そういって帆村は、何か恐ろしいことでも思い出したらしく、大きい溜息をつくと、ビールを口にもっていって、琥珀色こはくいろの液体をグーッとした。筆者わたくしびんをとりあげると、静かにいでやった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分がお銚子を奪うように並々と文楽の盃へいでやると
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「おれや、奥歯に物の挟まったような話は、大嫌いだからな」と、熱いのをグッとして、周馬へ渡した。周馬もすぐ応じてぎ返しながら
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山田は伊沢に酒をぐつもりで銚子ちょうしを持ってみると冷たくなっていた。じょちゅうはもう傍にいなかった。山田は手を鳴らした。山田も伊沢もかなり酔うていた。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……また、清葉が何にも言わずに、あんなに煽切あおっきるのも道理だ、と断念あきらめたらしく見えて、黙ってぐんだよ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御意にございます、格別のお馴染で有難う存じます、酒をったかえ、禁ちました、そんなら屠蘇を飲め、殿様から拝領の松竹梅の大盞おおさかずきで飲め、己がいで遣ろう
瑠璃子は、それをコップにぐと、甲斐甲斐かいがいしく勝平の口を割って、口中へ注ぎ入れた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
通懸りの薄色縮緬ちりめんがハイといで呉れるを、貞之進はしきりに顫えてそのまゝ猪口ちょくを膳の端に置き、手巾はんけちで手を拭いてながめて居たが、それで腹の中はすでに酔ったような心持だ。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
勝ち誇った隠居は、その傍らいい気になって神尾に酒をぐ。業腹ごうはらになった神尾は
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もちろん誰も、この芝居気たっぷりの気障きざな伯爵の言葉になぞ、乗ったわけではない。がヘンメル家と聞いた途端、拳銃ピストル片手に思わず旅行鞄トランクの中をのぞき込んだ。ゴンザレツが三鞭シャンペンいで廻る。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
手酌でコツプになみなみいだと思ふと、ぐぐぐぐと一氣に干した。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
市十郎はそこにある酒を独りでいで独りで飲み初めた。一本つぎ、二本つぎ、なお飲みつづけた。長い長い時間を独りそうしている気がした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じぶんのもののようにかってにいで飲むのはわるいと思ったが、飲みたい飲みたいと思っていた酒にありついたうえに、それがばかに旨いのでひきずられた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
芬々ぷんぷん薫る処を、波々と、樽からいでくれたから、私はごくごくと傾けた。美酒うまざけの鋭さは、剣である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しの「さア何うぞ番頭さん、あなたが盃を若草から先へいで遣っておくんなせえまし」
風は益々ますます吹き荒れ雨は益々降り募っていた。が、勝平は戸外のそうした物音に、少しも気を取られないで、瑠璃子がいでやった酒を、チビリ/\とめながら、熱心に言葉を継いだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
また、婆さんのしゃくである。げば飲む宋江だった。酔わせるに限るとしてか、たてつづけに閻婆はぐ。——そのうちに
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それともおんなを思切るか。芳、いでやれ、おい、どうだ、早瀬。これ、酌いでやれ、酌がないかよ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又「いや此処こゝらは山家でも御城下近いから便利でございます、一杯頂戴致しましょう、是ははい御馳走に成ります……一杯いで下さい、四五日酒をめて居たので酔いはせんかな」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おおそのうちに何か描いてやろう。ま、いつもの葡萄ぶどうの美酒に瑠璃るりの杯。ひとつそなたの白い手でいでくれぬか……」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初の烏 (思い着きたるていにて、一ツの瓶の酒を玉盞ぎょくさんぎ、しょくかざす。)おお、綺麗きれいだ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
好う出来でけた、一盃いで呉れんかえ、なんぼう坊主でも酒のしゃく女子おなごえ、妙なものだ、出家になっても女子は断念出来ぬが、何うも自然に有るもので、出家しても諦められぬと云うが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
義貞は独りいでは飲んでいた。忠顕が去ったあとのうつろは、いやおうなしに彼に自分を考えさせてくる。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初の烏 (思ひ着きたるていにて、ひとツの瓶の酒を玉盞ぎょくさんぎ、しょくかざす。)おゝ、綺麗きれいだ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
燗冷かんざましの酒を湯呑に八分目ばかりもいで飲み
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぐことは酌ぎましょうよ。だが、あっしはもう沢山だ。兵営祭りで兵隊と、たらふく飲んだあとだから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一つ、もう一ついで欲しい、また、と立続けに引掛ひっかけても、千万無量の思が、まるで、早鐘のごとくになって、ドキドキと胸へ撞上つきあげるから、酒なざどこへ消えるやら。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しの「いでげて下せえよ」
「さあ、そうきめたら、今夜の丑満うしみつごろまでは、ゆっくり骨を休めておかなけれやならねえ。……おふくろ、少し早いが、晩飯の一本を、今からけて貰おうか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おぎ……千世ちゃん、生意気だね。お孝なら飛んで来る、と言やしないか。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「ま一盃いで呉んな」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「イヤ、拙者があまり愚痴ッぽかった」と、その上にも相手のこじれたふうをなだめて——「重々拙者の狐疑心こぎしんが悪い。まあ不快をいてくれたまえ。ごうか、一ツ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これで喜多八さえ一所だったら、膝栗毛をしょうのもので、太平の民となる処を、さて、杯をさしたばかりで、こういだ酒へ、蝋燭ろうそくのちらちらと映る処は、どうやら餓鬼に手向たむけたようだ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行燈のを横顔に、黙然と、俯向うつむいている露八の手へ、冷たい酒杯さかずきを持たせて、自分でいで
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「姉さん、一ついでやってくれ。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『亭主、きょうの酒は、いつもの酒とは少し違いはせぬか。——もう一つ、いでみてくれ』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)