追剥おいはぎ)” の例文
加之おまけみちが悪い。雪融ゆきどけの時などには、夜は迂濶うっかり歩けない位であった。しかし今日こんにちのように追剥おいはぎ出歯亀でばかめの噂などは甚だ稀であった。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に、女が誘拐かどわかされたとか、追剥おいはぎにあって裸にされたとかいう小事件は、街道筋には朝に夕にあることで、めずらしくもなんともない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それには書記連も一言も返すことばもなく、その中の一人が署長を呼びに行った。署長は外套追剥おいはぎの話を何かひどく変なふうに解釈した。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
仙「エ、色里へ来て塗箸ぬりばし見たような物を一本半分差して、斬るの殴るのと威張って、此の頃道哲どうてつへ来て追剥おいはぎをするのは手前てめえかも知れねえ」
いつめた渡り職人、仕事にはなれた土方、都合つごう次第で乞食になったり窃盗せっとうになったり強盗ごうとうになったり追剥おいはぎになったりする手合も折々おりおり来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
義残後覚ぎざんこうかく』七、太郎次てふ大力の男が鬼面をかぶり、鳥羽の作り道で行客を脅かし追剥おいはぎするを、松重岩之丞があらわす条、『石田軍記』三
これははり別所べっしょというところに住んでいて、表面は猟師、内実は追剥おいはぎを働いていた「鍛冶倉かじくら」という綽名あだなの悪党であります。
「人臭いぞ——路上にすがたがないのに、人臭いとは、いぶかしいな? ふうむ、さては物とり追剥おいはぎのたぐいでも、この杜中に隠れておるかな?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
追剥おいはぎの出そうなロンドン・ドック附近を通り、ホワイト・チャペルの周辺の曲りくねった道へはいって行った。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
追剥おいはぎの仕業のように見せて二度も彼を待ち伏せして、僕自身の監視のもとに厳重に体を捜させたんだから」
「驚いたね、親分、お舟でなくお袖でなく、勘三郎でなきゃ、——流しの追剥おいはぎか、気違いじゃありませんか」
刀の柄へ手を掛けながら相手の様子をうかがった。——極悪非道の追剥おいはぎとしてまた素晴らしい手利きとして陶器師の名は聞いていた。昔は由縁ゆかりある武士であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「葛木さん、もう遅いわ。……電車も無し……巡査に咎められたりなんかして、こんな時はつけが悪い、山の手の夜道だもの、無理をすると追剥おいはぎが出ますよ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
是より夜の明るまで余は眠るにも眠られず、様々の想像を浮べ来りて是かれかと考え廻すに目科は追剥おいはぎ盗坊どろぼうたゞしは又強盗か、何しろ極々ごく/\の悪人には相違なし。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ゆくゆくはアフリカ行きの流刑船エグジレの水夫になるとか、闘技場アレエヌの暗闇に出没して追剥おいはぎを働くとか、女ならば碁磐縞ごばんじまの服を着て、けちなルウレットを廻す縁日の廻し屋クルウピエール
あの往来は丁度ちょうど今の神田橋一橋外の高等商業学校のあるあたりで、護持院ごじいんはらと云う大きな松の樹などが生繁おいしげって居る恐ろしい淋しい処で、追剥おいはぎでも出そうな処だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飢饉ききん、不正利得、困窮から来る売淫ばいいん、罷工から来る悲惨、絞首台、剣、戦争、および事変の森林中におけるあらゆる臨時の追剥おいはぎ、それらももはや恐るるに及ばないだろう
汗を流して斬り込むならまだしも、斬り込んで置きながら悠々ゆうゆうとして柱にって人を見下しているのは、酒を飲みつつ胡坐あぐらをかいて追剥おいはぎをすると同様、ちと虫がよすぎる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唯さえ夜になれば人通りの絶がちな丸の内の道路は、この風とこのやみとに一際ひときわ物寂しく、屹立きつりつする建物の間の小路から突然追剥おいはぎでも出て来はせぬかと思われるような気がする。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼等はそれから嶮岨けんそな山道を越えたり、追剥おいはぎや猛獣の住む荒野原を横切ったり、零下何度の高原沙漠を、案内者の目見当一ツで渡ったりして、やがて崑崙山脈の奥の秘密境に在る
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
追剥おいはぎのようで失礼ですが、ポケットの中のものを悉皆すっかりこゝへお出し下さい」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「たいへんでございます。伊兵衛さまが追剥おいはぎに殺されましてございます!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこは同じふるい街道筋ではあるが、白木しらきの番所の跡があるような深い森林の間で、場処によっては追剥おいはぎの出たといううわさの残った寂しいところをも通り過ぎなければ、馬籠峠の上に出られない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初めは行き暮れた旅人を泊らしては路銀をぬすむ悪猟師の女房、次にはよめいびりの猫化郷士ねこばけごうしの妻、三転して追剥おいはぎの女房の女按摩となり、最後に折助おりすけかかあとなって亭主と馴れ合いに賊を働く夜鷹よたかとなり
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
近所の人がお客に来るどころか、大へんな暑さで、追剥おいはぎさえ出かねないありさまだ。ラエーフスキイもべつに急いで土地を手に入れようとする気配もない。これは彼女にとってありがたいことだった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
追剥おいはぎにでもお会いなすったかね、当世珍らしくもねえ話だ」
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜の追剥おいはぎ昼間ひるま本市シティーで商売をしている男であった。
「この辺は、夜、追剥おいはぎが出るでのう」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
追剥おいはぎを弟子にりけり秋の旅
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「逃げて行ったじゃないか、追剥おいはぎか何かにちがいないよ。こッちだってこれだけの人数がいるのだから、何も驚くことはありゃあしない」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「多分、追剥おいはぎにでもつかまったのでございましょう……そうでなければ、人に恨みを受けるような姉ではございません」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其の芋茎ずいきへ火縄を巻き付けて、それを持って追剥おいはぎがよく旅人りょじんおどして金を取るという事を、かねて龜藏が聞いて知ってるから、そいつを持って孝助を威かした。
夜鷹と追剥おいはぎと辻斬を名物にした柳原は、遠い町家に五日月が落ちて、地獄の底を行くような無気味さです。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
勿論もちろん死人しにんに口無しで、誰にうされたのか判らないが、祖父さんはひとからうらみを受けるような記憶おぼえも無し、又普通の追剥おいはぎならばんな残酷な殺し方をする筈がない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
北多摩郡中では最も東京に近い千歳村字粕谷かすや南耕地みなみこうちと云って、昔は追剥おいはぎが出たの、大蛇が出てばばが腰をぬかしたのと伝説がある徳川の御林おはやしを、明治近くにひらいたものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
金やピストルに眼がくらんで毛唐の追剥おいはぎや泥棒の手伝いが出来るかってんだ。「ふおるもさ、ううろんち」を知らねえかってんで、イキナリその毛唐に組付いて大腰をかけようとしたもんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人が追剥おいはぎにかかっても知らないでいるんだ、とどなりだした。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
「なんだって、無頼者ならずもの使嗾しそうして僕をこんな所へ引っぱって来たんですか。君たちは白昼に追剥おいはぎでもやろうっていうのか」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人を嚇してみるにはよいところ、朱雀野すざくの真只中まっただなか、近来ここでは追剥おいはぎ辻斬つじぎりとが流行はやる、遊客は非常な警戒をした上でなければ通らないところです。
是程の騒ぎで村の者は出掛けて追剥おいはぎの行方を詮議致し、又四方八方八州の手が廻ったが、殺した一角は横曾根村に枕を高く寝ておりまするので容易に知れません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年始の酒に酔って穴の中に倒れ凍死こごえしんだのを物取りが来ていだか、それとも追剥おいはぎが殺して着物を剥いだか、死骸しがいは何も告げなかった。彼は新家の直ぐ西隣にある墓地に葬られた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
蒲原かんばらの酒屋に押込が入って、売溜をって逃げ、七月二十八日は小夜さよの中山で追剥おいはぎが旅人を脅かし、九月十七日には飛んで鈴鹿峠すずかとうげで大坂の町人夫妻が殺されて大金を取られ、十月七日は
堪へ兼ねて追剥おいはぎ
猟奇歌 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
また帰りに泥棒や追剥おいはぎにつけられるという心配でもなく、それは、平さんという男の人柄を見てもわかることで、持ちつけない大金を持ったため、途中
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むかし源頼光が鬼童丸きどうまるを斬ったとか、著聞集ちょもんじゅうに見える追剥おいはぎのはなしなどが、みなこの辺りの事となって、里の者や旅人の頭に沁みこんでいるからであろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今土手で五人の追剥おいはぎが出て己のむなぐらをつかまえたのを、払って漸く逃げて来たが、おみねは土手下へ降りたから、悪くすると怪我をしたかも知れない、うも案じられる
追剥おいはぎにしちゃ腕が良すぎましたよ」
……追剥おいはぎでも出たらどうなさる、去年のように辻斬が流行はやらないで仕合せ、それでも雲助の悪いのや、無宿者の通りやすいこの道を、怖いとも思わず女一人で……
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「やれやれ、追剥おいはぎにでも会ったのか、かわいそうに」夜はいつか明けて、範宴のまわりにも、性善坊や朝麿のそばにも、旅人だの馬子まごだのが、取り巻いていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大方追剥おいはぎでも殺したのだろうと云って済ませます、当人さえ居なければ名主へ一寸ちょっと話をして置きますから、時が経ったら丹三さんは病身でお屋敷奉公は出来ないという所から
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)