しつけ)” の例文
自分たちのしつけがゆき届かなかった、むろん蜜柑の代は払うし、これからはよく気をつける。そうあやまっていると、徳二郎が遮った。
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「己にもせがれが一人あるがね、」と彼は言った。「おめえと瓜二つで、己の自慢の種よ。だが子供に大切なことはしつけだ、坊や、——躾だよ。 ...
あれがしつけといふものだつたら、私はつく/″\躾のない國へ行つて、牛や馬のやうに暮したら、どんなに氣が樂だらうと思ひました
それと同時に又なんのしつけをも受けていない芸なしの自分ではあるが、その自分が末造の持物になって果てるのは惜しいように思う。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
こはして宮の冷淡ならざるを証するに足らざるなり、ゆゑは、この女夫めをと出入しゆつにゆうに握手するは、夫の始より命じて習せししつけなるをや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
肉情さえ許したもののあることは東洋のしつけと道徳の間から僅にそれ等を垣間かいま見させられていたものに取っては驚きの外無かった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「図々しいったらありゃあしない。お前さんが黙ってるからつけ上るんだよ。少ししつけをしてやらなくちゃ困るじゃないかね。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
只今ただいまの文子さんの意見は、満場一致で、賛成されたやうに思ひます。では、どういふ方法でタマをこらし、しつけをしますか?」
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
こんな逮捕はしつけの十分でない子供が路地でやるわるさを出ないものだ、ということを見て取るだけの分別を備えておりました。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
その上そういう連中のしつけの悪さが、彼にはいやでたまらなかったし、また彼等の個人的な弱点を、彼はふしぎなほど鋭く看破していたのだった。
自分だったらこんなしつけはしない。給仕は男のほうがいいかもしれない。食堂も、こんなふうに広すぎるのは落着きがない……
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから供人の縫殿介なる若党の骨がらもよく、いわゆる雑人ぞうにんずれのした渡り奉公人とはちがって、子飼こがいからのしつけがみえる。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女もしつけの悪い、物を知らない女ではなく、見たところでは、服装と言い、人品と言い、立派に教養の備わっている婦人でなければならない身が
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
名は藤江ふじえという。年は十八で、器量もよい、行儀も好い。さすがは大久保殿のしつけだけあって、気性も雄々しく見ゆる。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
恐ろしくしつけが悪いとみえ、その子供たちが私たちに対してじつに公々然と興味と好奇の眼を光らせ過ぎることだった。
私が数語を以て問へば数語を以て答へるのみである。この地の処女に如是によぜしつけもあることを思ひ、興あることに思つたので、挨拶あいさつをして其処を去つた。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
髪の留め針が室の方々に落ち散った。なかなか覚えにくい言葉に出会うと、しつけの悪い子供のようにれったがった。
そのしつけかたについての話を一わたりきかされた。「何につけても修行が大切だね。」鶴見はそういおうとして、遂にその言葉を口に出さずにしまった。
人霊じんれいでは、ややもすれば人情味にんじょうみがありぎて、こちらの世界せかいしつけをするのに、あまり面白おもしろくないようでございます。
亡くなった父母に厳しい儒教的しつけを受けた私が、仮にも夫の悪口を筆にするような心境に引き入れられたのは、二十年来古い道徳観念に縛りつけられて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
非情むごいと思われる程な当時の武家の世風であった厳しいしつけの中に、ひた隠しに隠されていた母の情愛などは、子供達に解ろう筈がなく、身も心も凍え切った
立春開門 (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
だがしつけがたりないでね、気楽で悲しいというようなことは知らないよ。今、すぐここへ来させて逢わせるがね。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ことに大臣官房附きの二少年は、高官の前に出ることが多いため、一層厳重なしつけをうけていたので、仲間同士でさえ、心に思うままを口に出すことはしなかった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しつけのいい組と言われている子供たちの声が、いたって単調なリズムを刻みながらそれを繰りかえした——
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
母親のしつけであろう、素人しろうと娘のようで、家業の水に染まったようなところは少しも見えなかった。その隣りは帽子屋であった。主として学生帽を製造販売していた。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
盛子は退職官吏の切りつめた地味な家庭で、ありきたりの厳しい、だが単純なしつけを受けて従順に育つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
きみは、しかけたよういそがしいをりから、ふゆれかゝる、ついありあはせたしつけ紅筆べにふで懷紙ふところがみへ、と丸髷まるまげびんつややかに、もみぢをながすうるはしかりし水莖みづぐきのあと。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
実験室の生命の話は、いかにも荒唐無稽こうとうむけいな話のようであるが、この生命を感知し得る神経を育てることは、研究者の一つのしつけとして、案外大切なことのような気がする。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ところでお豊だがの、おまえもっとしつけをせんと困るぜ。あの通り毎日駄々だだをこねてばかりいちゃ、先方あっち行ってからが実際思われるぞ。観音様がしゅうとだッて、ああじゃ愛想あいそをつかすぜ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と母親は自分の家のしつけの厳しさを誇るようだった。しかし寛一君はそんなことに頓着なく
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
手前のしつけがわりいから、あんな我儘わがままを言うんだ。この先もあることだから放抛うっちゃっておけと、宅ではそう言って怒っているんですけれど、私もかかりにしようと思えばこそ、今日まで面倒を
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
若い時から日本髮さへひとりでへたのだつた。私たち明治時代に生れたものは、心は新らしいものを貪りながら、しつけられたことは昔の女とおんなじだつたので、身嗜みだしなみには頑固かたくななほどだつた。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
黄金虫やかまきり位ならまだしも、かえるやとかげなんぞまで平気で部屋の中にい廻らせて喜んでおりますのでございますから、いやもうとんだ変りもので、しつけも何もあったもんではござりませぬ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「不しつけ乍ら訪問して見よう」
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時代後れとなって学校を退かされてもこれがかえって身過ぎの便りとなり、下町の娘たちを引受けて嫁入り前のしつけをする私塾を開いていた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人間も同じようなものだと云いたかったのさ、非行少年少女の指導には規準がない、両親の放任主義のためだとか、しつけがきびしすぎたとか
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しつけもたしなみもない人達の間に、何万両という大身代を遺された浅ましさを、ただまざまざと描き出しただけのこと——。
あの時はあれだけで済んだものの、まだこいつは、しつけが足りないから、人の出ようによってはいかなる猛勇ぶりを発揮するか知れたものではない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
調ととのった家居や調度の中に置かれると、屋敷生活のしつけがよび起され、たちまち、今の彼らしくない彼にもどるのであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪子がいないからと云って悦子のしつけに困るような自分ではない積りであるし、早晩嫁に行く雪子であってみれば、そう云う人を当てにしている訳もない。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしなどは修行しゅぎょう未熟みじゅく、それに人情味にんじょうみったようなものが、まだまだたいへんに強過つよすぎて、おもってきびしいしつけほどこ勇気ゆうきのないのがなによりの欠点けってんなのです。
一つは子供の時からの家庭のしつけによるのであるが、父が言葉少なに忍耐を教えた指導法が、どんなにストイックなものであったかはさていて、そうするのが
「それじゃてて、あんた、しつけはわたしばかいじゃでけまへんがな。いつでもあんたは——」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
何々小町こまちと呼ばれた程の器量よしで、その上、教育こそ地味な技芸学校を出たばかりだったが、女としては可成理解力にも富んでいたし、昔気質かたぎの母親のしつけにもよったのだろうが
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……なるほど、蛇姫の身内だけあってしつけがいい。こいつあ、大笑いだ。……なあ、ひょろ松、蛇姫のご一統が欄間に出るのは、どうやら、昼の八ツから八ツ半までのあいだときまった。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ピアノをひくことは上手じょうずだが、きたならしい手をもっていて、食卓ではたまらないフォークの持ち方をしたり、ナイフで魚肉を切ったりする、しつけの悪い醜い少年だと、彼を判断していた。
それに母様が厳しくしつければ、その方は心配はないが、むむ、まだ要点は財産だ。が、酒井は困っていやしないだろうか。誰も知った侠客きょうかく風の人間だから、人の世話をすりゃ、つい物費ものいりも少くない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おそろしい厳しいしつけをしますよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
運ばせたから見たであろう、親の口から申しては笑止だが、武家の妻として恥ずかしからぬしつけはしてある、気だても尋常だと思う、貰ってれぬか
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そのしつけで思ひ出したわけぢやありませんがね、矢の倉の御鞍打師おんくらうちし辻萬兵衞といふのを親分は知つてゐるでせう」