しやが)” の例文
軍治は路傍にしやがみこんで、歩いて来た道、眼の届かぬ行手に頭を廻し、母よ、母よ、と意味もなく、声もない呼声に胸をかきむしられた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
障子しやうじかげしやがんで山男やまをとこかほさせる、とこれが、いましがたつひ其処そこまでわたしおくつてくれたわかいもの、……此方こつち其処そこどころぢやい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
座蒲團の上にしやがんで、火鉢に二本揃へて立ててある火箸を取つて、二たところへ立てて、それに手を載せてあぶるのである。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
立つたりしやがんだりしてる間に、何がなしに腹が脹つて來て、一二度輕く嘔吐を催すやうな氣分にもなつた。早く歸つて寢よう、と幾度か思つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
直き側でサルタノフが拳銃を打つたのを、チエルケス人はしやがんで、弾に頭の上を通り越させました。その途端にサルタノフもチエルケス人も倒れました。
まごまごするな邪魔になる坐つて見て居れと云ひますから私はヘイと云つて龍馬の側へしやがんで見て居りました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
どれも同じことをしてゐて、白地の洋服が揉んだ紙にしか見えない、あん子は或る處をえらんでしやがんで砂を握つてゐたが、握つても乾いた砂は指の間から零れた。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
鶴子を負ふ可く、しやがむで後にまはす手先に、ものが冷やりとする。最早露が下りて居るのだ。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
父親はやや離れた裏の田圃の方でしやがんでゐた。母親は背戸の小流れで何か洗濯物をごしごしとやつてゐた。その家の縁側にはまだ汚れきつた襦袢一つで、兄と弟とが遊んでゐた。
神童の死 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
僕はその男の連れて行く所へ付いて行つて、しやがんだ。その男がこんな風に話し出した。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
渚にしやがんで洗ひ物をして居る女もあつた。むかひの岸へ渡つて並木みちづたひに上流へ歩みながら市街の方を眺めた時、薄黒うすぐらくなつた古塔の険しい二つのさきに桃色の温かい夕日があたつて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
城址しろあとにのぼり来りてしやがむとき石垣にてる月のかげのあかるさ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
二人しやがんでゐぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ
ところで彼氏しやがみます、寒がつて、足の指をば
うちへ入ると、通し庭の壁側かべぎはに据ゑた小形のへつつひの前に小さくしやがんで、干菜ほしなでも煮るらしく、鍋の下を焚いてゐた母親が
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
安中と宇都宮とは、八の出した貨幣を見に出て来て、八に対しては何の警戒もせずにしやがんだ。八は勿論警戒を要するやうな態度をしてはゐないのである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ブランの爺いさんは岩の上にしやがんで、向岸ばかり見詰めて、何時間立つても動きません。みんなが木の実を取りに行つても、爺いさんだけは立ちもしません。
向直むきなほつて、元二げんじかほをじろりとるやうにしてまねき、とかたちしやがんだが、何故なぜ無法むはふにくかつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
物好きな男は立つたりしやがんだりして、この日ぐれの却々に暮れきらない空をにらみつけた。
末野女 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
紫のしやがんだ影して公園で、乳児は口に砂を入れる。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
子供はしやがんで悲しみで一杯になつて、放つのだ
家へ入ると、通し庭の壁際に据ゑた小形の竈の前に小くしやがんで、干菜でも煮るらしく、鍋の下を焚いてゐた母親が、『けえつたか。おなかつたべアな?』
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さわぐまい、時々とき/″\ある……深山幽谷しんざんいうこくへんじや。わかひとたれかほ姿すがたも、かはるかんねえだ! おどろくとくるふぞ、ふさいでせぐゝまれ、しやがめ、突伏つゝふせ、ふさげい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はとある叢林の中に、しやがんで酒を酌んでゐた
僕はしやがんで 石を拾ふ
智惠子は猶去り難げにう言つた。そして、皆にも挨拶して一人宿の方へ歸つてゆく。月を浴びた其後姿を、吉野は少し群から離れた所にしやがんで、遠く見送つてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いきくさこと……あまつさへ、つでもなくすはるでもなく、中腰ちゆうごししやがんだ山男やまをとこひざれかゝつた朽木くちぎ同然どうぜんふしくれつてギクリとまがり、腕組うでぐみをしたひぢばかりがむね附着くつつ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はしやがんでしまふ。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
と同時に、腹の中が空虚からつぽになつた様でフラ/\とする。で、男の手を放して人々のうしろしやがんだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おどろいて、じつとれば、おりうげた卷煙草まきたばこそれではなく、もやか、きりか、朦朧もうろうとした、灰色はひいろ溜池ためいけに、いろやゝく、いかだえて、天窓あたままるちひさかたち一個ひとつつてしやがむでたが
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蛍のやうにしやがんでる
インバネスを着て、薄鼠色の中折を左の手に持つて、いなごの如くしやがんで居る男と、大分埃を吸つた古洋服の鈕を皆はづして、蟇の如く胡坐あぐらをかいた男とは、少し間を隔てて、共に海に向つて居る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
インバネスを着て、薄鼠色の中折を左の手に持ツて、ばつたの如くしやがんで居る男と、大分埃を吸ツた古洋服の釦は皆はづして、ひきの如く胡坐あぐらをかいた男とは、少し間を隔てて、共に海に向ツて居る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
驛員が二三人、驛夫室の入口にかゝつたり、しやがんだりして、時々此方を見ながら、何か小聲に語り合つては、無遠慮にどつと笑ふ。靜子はそれを避ける樣に、ズッと端の方の腰掛に腰を掛けた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
松子は少し離れて納戸色おなんどいろの傘を杖にしやがんだ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)