ところ)” の例文
彼女は単に話のきっかけのために、自分のところに起ったことをごく簡単に聞かせたりした。男の方では主に役所のことを話してくれた。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
勧めてくれる人があって、私はある医者のところへこの娘を見せに連れて行った。その時は、大久保に住む一人の友達とも一緒だった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夕御飯ののちお歌さんは客間に入った。女学校の先生が遊びに来たんだ。此先生は男の癖にチョクチョクお歌さんのところへ訪ねて来る。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この日同志の一人大高源吾はふたたび宗匠山田宗徧のところから、きたる十四日いよいよ上野介の自邸において納めの茶会がもよおされる
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
『おまへつたことぢやない!』と五點フアイブ。『そんならわたしれにはなしてやらう——玉葱たまねぎかはりに欝金香うつこんかう料理人クツクところつてけッて』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
高某、あざなは子融、いづれところの人なるを知らない。蘭軒と文字の交を訂し、時に其校讐の業を助けた。文政四年九月十二日に歿した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
の白きをんで散歩する市郎のところへ、の七兵衛老爺おやじが駈けて来て、大きな眼と口とをしきりに働かせながら、山𤢖やまわろの一件を注進したのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わて小山田が討入前といふ大事な晩やのに、ついふらふらと湯女ゆなところた、あの余裕ゆとりのある気持が気に入つてまんね。」
……ね、相談敵手さうだんあひてにした其方そちぢゃが、其方そちわしとはいまからはこゝろ別々べつ/\。……御坊ごばうところすくひをはう。ことみなやぶれても、ぬるちから此身このみる。
男は、どんよりと曇った朝、近傍きんぼうの川に釣に出かけた。青い水は足のところまで浮き上っていた。それを見詰めているうちにぐらぐらと眼がまわって来始めた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
そこは厚皮あつかはだから「政治的婦人」だの「政治家の妻」だのという論文を自分の新聞に載せて、嬢様のところへ送つて来る。之には嬢様も閉口なすつたやうだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
泣き出しさうにならなければ妻のところに伴れて来ない。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
翌くる日、私は父親のところへ訪ねて行きました。そのときは、彼に対してほんとうに優しい心持が私の胸に湧きおこっていたのでした。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
乃公は忠公のうち三毛みけを借りて森川さんのところへ行った。此猫は雌で鼻黒だから鼠を捕るのが上手だ。此の間なんか近所の鶏さえ取った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まあ、始めてです、彼様あゝいふ御話を伺つたことは。あの白隠が恵端禅師のところへ尋ねて行く。あそこのところが私は気に入りました。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「は」と言ったものの、小平太には兄のところへと実を言うのが何となく心苦しかった。で、「ちょっと知人のもとへ」と、その場をごまかしておいて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「そうか。しかし狭い土地だから、お前が角川の息子だと云うことは、先方むこうでも知ってるだろう。あんなところあんま出入ではいりするなよ。世間の口がうるさい。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二三年ぜん、同じ座で越路が同じ九つ目を語つた事があつた。その折越路は自分ながら物足りないところがあつたので早速師匠摂津大掾せつつのだいじようところに駆けつけた。
必定ひつぢゃうなにかと行屆ゆきとゞかぬがちであらうわい。え、こりゃ、むすめはロレンス御坊ごばうところたか?
お文さんのところは極く懇意で、私の家とは互に近く往來ゆきゝしました。風呂でも立つと言へば、互に提灯つけて通ふほどの間柄でした。
お父さんとお母さんがお花さんのところへお客に行く。乃公おれとお春さんとお歌さんとお島とそれから奉公人が留守番をするのである。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ついては、横川、お身ひとつその文箱を茶坊主のところへとどけてくれんか」と、安兵衛はそばから口を出した。「これは貴公でないといかんからな」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
その言葉によると、自分の雑誌では今度著名の作家達からそれ/″\自信のある作物さくぶつを貰ひたいと思つて、手始めに女史のところに頼みに来たわけなのだ。
とにかく町の弁護士に頼んだらよかろうと勧められるまま、彼女はふらふらと兵営を出て、或る弁護士のところへ行って、その人から事件の内容をすっかり話してもらった。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「そこで、昨夜ゆうべも彌作のところで鶏をられたんだね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その他この温泉宿で懇意に成った浴客のところへ遊びに行くことをつとめて、二人ぎり一緒に居ることはなるべく両方で避けよう避けようとした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを聞いた法科大学の佐藤丑次郎博士は、自分がその米国案内記を持つてゐる事を思ひ出して、紐育ニユーヨークの詳しい地図と一緒に、使つかひで内田氏のところへ持たせてやつた。
慎ましくしていたので、誰一人感づいた者もなかったけれど、或る日、良人おっとなる人から私のところへ急状があって、細君が大病だから来て診てくれということです。私はすぐにその家へ飛んでゆきました。
麻酔剤 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それから市村さんの宿へ行つて見ると、彼処あすこにも居ません。ひよつとすると、こりや貴方あなたところかも知れない、斯う思つてやつて来たんです。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むかし矢野大膳といふ馬乗うまのりの名人が居た。ある時友達のところを訪ねようとして馬に乗つて出掛けた。晴れた美しい秋の日で、町には人間や赤蜻蛉あかとんぼが羽をして飛びまはつてゐた。
何処どこを押せばどういうが出るぐらいのきた人生哲学は可成かなり修業をつんでる。何かお前も思案に困ることがあったら、俺のところへ相談に来いよ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
総裁原敬氏の白髪頭はくはつとうのなかでは、内閣員の顔触かほぶれ幾度いくたびか見え隠れしてゐた頃、今の文相中橋徳五郎氏のところへ、神戸にゐるお医者さんの桂田富士郎ふじを氏から一本の電報が飛込んで来た。
平素めったに思出したことも無いようなお霜婆さん——郷里の方の家に近く住んで、よくお母さんのところ出入ではいりした人——のことなぞまで思出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
少し前ある雑誌社の編輯へんしふ記者が原稿取りに長谷川時雨女史のところへ出かけたのがあつた。
お隅が迷いもし、恐れもしたことは、それから又た間もなく夫婦約束を取消したいと言って、父親のところへ泣いて来たのでも知れる。お隅は小鳥です。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
コスチウスコオがある時、隣り村の僧侶ばうさんのところへ葡萄酒の進物をしようとした事があつた。その使者つかひとして馬丁べつたうが呼び出された。馬丁べつたうは御主人の命令いひつけで、その飼馬かひうまを引き出してそれに乗る事にした。
「三吉さんのところへいらっしゃいましたら、俊や鶴のことを宜敷よろしく御願い申しますッて、そう仰って下さい……何卒どうか……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なんですか……もしあの時分、お嫁に来て下さいと言いましたら、貴方は私のところへ来て下すったでしょうか……」
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『承知しました。多分瀬川君のところに有ませうから、行つて話して見ませう——もし無ければ、何処どこさがして見て、是非一冊贈らせることにしませう。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「よく来てくれた。私は兄貴のところへ手紙をって置いたが、名倉さんにもお目に懸らなくて失礼しました。今日は一つ、皆なに西洋料理でも御馳走ごちそうしよう」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「——『一体お前はどういう積りで俺のところへ嫁に来た』なんて、よく父さんがそんなことを私に言いますよ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「捨吉はすげさんのところへ寄るで。そりゃ節ちゃんも一緒に行って、帰りには子供を連れて来るがよかろう」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その返事の中には、「お父さんのところへ最初の御手紙の参りました時にも、私には見せませんで、自分で何かお書きになって、台湾の伯父さんのところへ出しました」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此頃こないだ、ある友達のところへ寄ったところが、『小泉君——Sさんが君のことをモルモットだと言っていましたぜ』こう言いますから、『モルモットとは何だい』と僕が聞いたら
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こういう妹のところへ、相応な肩書のある医者の養子が来た。腹違いの一番年長うえの弟、これも今では有望な医学士だ。山本さんだけは別物で、どうしても父の業を継ぐ気が無かった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先頃子供のところへ贈つて下すつた御地の青い林檎は斯のあたりの店頭みせさきにあるものと異なり樹からぎ取つたばかりのやうな新鮮を味ひました。御蔭で子供も次第に成人して參ります。
森彦の方へ行けば森彦のように考え、三吉のところへ来れば三吉のように考えるのが、正太の癖であった。丁度、この植木屋の地内に住む女教師の夫というは、兜町方面に明るい人である。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暑中休暇で娘達も家に居る頃で、毎日のようにお新は異母妹のところへ遊びに来た。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「音さんの細君はもと正木先生のところに奉公していたんですッてネ。音さんが先生の家の畠を造りに行くうちに、畢寛つまり出来たんでしょう……先生があの二人を夫婦にしてやったんでしょうネ」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お峰さんのところへは私からも手紙を出して置きましょう」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)