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蝕
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むしば
ふりがな文庫
“
蝕
(
むしば
)” の例文
その一ときの
欣
(
うれ
)
しさは云いようもないが、日がたつに従い、足の裏はセメントに
蝕
(
むしば
)
まれ、どうにも跛行を引かずにいられなくなった。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
其処にある花は
花片
(
はなびら
)
も花も、不運にも皆
蝕
(
むしば
)
んで居る。完全なものは一つもなかつた。それが少し
鎮
(
しづ
)
まりかかつた彼の心を掻き乱した。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
瞬く間に
峯巒
(
ほうらん
)
を
蝕
(
むしば
)
み、巌を蝕み、松を蝕み、忽ちもう対岸の高い巌壁をも絵心に蝕んで、好い景色を見せて呉れるのは好かつたが
観画談
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
頭も
頽
(
くず
)
れて来たし、
懈
(
だる
)
い体も次第に
蝕
(
むしば
)
まれて行くようであった。酒、女、莨、
放肆
(
ほうし
)
な生活、それらのせいとばかりも思えなかった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
平凡な、緊張のない生活が、かえって俺の肉体を
蝕
(
むしば
)
んだかのようだ。身体を張って生きて来た俺には、だらけた生活がきっと毒なのだ。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
▼ もっと見る
「あたしはそんな女じゃありませんわ。学園の園芸係は、あたしのことを、
蝕
(
むしば
)
まれた
蕾
(
つぼみ
)
の女、わくら葉の新緑のような娘だと言ってたわ」
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
ところが、そのボネーベ式の
拱貫
(
きょうかん
)
が低く垂れ、暗く圧し迫るような建物が、たちまち破瓜期の
脆弱
(
ぜいじゃく
)
な神経を
蝕
(
むしば
)
んでいったのだ。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
生活がまだ
蝕
(
むしば
)
まれていなかった以前私の好きであった所は、たとえば丸善であった。赤や黄のオードコロンやオードキニン。
檸檬
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
しかもその夢はいつしか
蝕
(
むしば
)
まれていた。危機に襲われて、これまで隠していた弱所が一時に暴露したことを、かれは不思議とは思っていない。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
眼のふちには黒い隈さえ縁取られて傷ましい「死」の影に
蝕
(
むしば
)
まれた圓朝は、名声と地位とを克ち得てからなんの苦労もなく
円朝花火
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
午後になったと思うまもなく、どんどん暮れかかる北海道の冬を知らないものには、日がいち早く
蝕
(
むしば
)
まれるこの気味悪いさびしさは想像がつくまい。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
半歳の病気に
蝕
(
むしば
)
まれて、少しむくんだ、鉛色の顔などを見ると、卒中性の
鼾
(
いびき
)
を聞かなくても、人など殺せる容体ではないことは余りにも明らかです。
銭形平次捕物控:106 懐ろ鏡
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
庭の
酸漿
(
ほおずき
)
が赤く色づき、葉が
蝕
(
むしば
)
まれたまま、すがれてゆく頃、私は旅に出て、山の宿でさびしい鳥の啼声を聴いた。
忘れがたみ
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
文字の精は、また、彼の
脊骨
(
せぼね
)
をも
蝕
(
むしば
)
み、彼は、
臍
(
へそ
)
に顎のくっつきそうな
傴僂
(
せむし
)
である。しかし、彼は、
恐
(
おそ
)
らく自分が傴僂であることを知らないであろう。
文字禍
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
黴
(
か
)
びたりといえども蓬莱豆、
蝕
(
むしば
)
めりといえどもビスケットが、
隈
(
くま
)
なく行き渡りうるはずはないのである。
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
荒
(
すさ
)
んだ、苦々しい氣持で——失望に
蝕
(
むしば
)
まれ、すべての男に對して、特にすべての女といふものに對して
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
KK電気器具製作所、ロボット部主任技師、夏見俊太郎は病に
蝕
(
むしば
)
まれ、それと悪闘し、そして、それに疲労してしまった顔と、声とで、その夫人に、低く話かけた。
ロボットとベッドの重量
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
翌日の新聞は、稲川先生のことを大きな見出しで「純真なる
魂
(
たましい
)
を
蝕
(
むしば
)
む赤い教師」と報じていた。それは
田舎
(
いなか
)
の人びとの頭を
玄翁
(
げんのう
)
でどやしたほどのおどろきであった。
二十四の瞳
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
私は徴用になって配達をやめてしまってから、しばらく振りで妹に逢ったことがあるが、病いはこの子をも
蝕
(
むしば
)
んでいた。花の
貌
(
かお
)
は
歪
(
ゆが
)
められていた。痛々しい気がした。
安い頭
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
呼吸器を日に日に
蝕
(
むしば
)
まれながら、剣は超人的に伸びて行ったが、この翌年、その肺病のために、この男のみが畳の上で死ぬようなことになるとは、一層の悲惨である。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
上の前歯は二本は完全に根まで抜けて了つて、他の二本も殆ど
蝕
(
むしば
)
まれて辛うじて存在をとどめてゐる。下の門歯も内側からがらん洞が出来て、いつまで
保
(
も
)
つか分らない。
大凶の籤
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
昔はさこそと思われる書院造りの屋台ではあるが、風雨年月に
蝕
(
むしば
)
まれ見る影もなく荒れている。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それからの
私
(
わたくし
)
はただ一
個
(
こ
)
の
魂
(
たましい
)
の
脱
(
ぬ
)
けた
生
(
い
)
きた
骸
(
むくろ
)
……
丁度
(
ちょうど
)
蝕
(
むしば
)
まれた
花
(
はな
)
の
蕾
(
つぼみ
)
のしぼむように、
次第
(
しだい
)
に
元気
(
げんき
)
を
失
(
うしな
)
って、二十五の
春
(
はる
)
に、さびしくポタリと
地面
(
じべた
)
に
落
(
お
)
ちて
了
(
しま
)
ったのです。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
だって婆あの方は有害だからね。あれは他人の生命を
蝕
(
むしば
)
むやつだ。この間も腹だちまぎれにリザヴェータの指に食いついて、すんでのことにかみ切ってしまうところだったぜ!
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
何故と云へば、彼等は異口同音に彼を
嘲笑
(
あざわら
)
ひ、似てゐるどころか、非常によく似てゐると云つたからである。それから、悲哀は彼の霊魂を
蝕
(
むしば
)
み、彼は物を喰ふ気もしなくなつた。
翻訳小品
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ダシコフの上着についた血のにじみが、みるみるうちに大きく広がっていく、蒼白に変っていく大尉の顔を見ていると、深い悔恨が、だんだんイワノウィッチの心を
蝕
(
むしば
)
んでいった。
勲章を貰う話
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
……此を
高櫓
(
たかやぐら
)
から
蟻
(
あり
)
が
葛籠
(
つづら
)
を
背負
(
しょ
)
つたやうに、小さく
真下
(
まっした
)
に
覗
(
のぞ
)
いた、係りの役人の
吃驚
(
びっくり
)
さよ。
陽
(
ひ
)
の
面
(
おもて
)
の
蝕
(
むしば
)
んだやうに目が
眩
(
くら
)
んで、折からであつた、
八
(
や
)
つの太鼓を、ドーン、ドーン。
妖魔の辻占
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
また一面において柿丘の病状は第三期に近く右肺の第一葉をすっかり
蝕
(
むしば
)
まれ、その下部にある第二葉の半分ばかりを結核菌に喰いあらされているところだったので、
若
(
も
)
しもう一と月
振動魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
が、ここに不思議なことは、権現堂で白鼠の姿を見たものは、きまって病気がなおると云われていたことと、決ってその白鼠がちょろちょろと
蝕
(
むしば
)
んだ板の間を這い歩いていることだった。
天狗
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
それが一体何物であるか、
何処
(
どこ
)
からやって来るかは、非常に曖昧であったけれど、兎に角、目に見えぬ
黴菌
(
ばいきん
)
の如きものが、恐ろしい速度で、秒一秒と死体を
蝕
(
むしば
)
みつつあることは確かだった。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
しかも私が依然としてこの語を推すのは瑣末な処世の配慮が結局青春を
蝕
(
むしば
)
み、気魄を奪い、しかも物的にも、それらの軽視したよりもなんらよきものをもたらさぬであろうことを知るからである。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
なぜであろう?
業病
(
ごうびよう
)
は精神力をこうまで
蝕
(
むしば
)
むものであろうか?
光は影を
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
ひそかに成心を植えつけて、その人の靈魂を
蝕
(
むしば
)
みつくす
ユダヤ人のブナの木:山深きヴェストファーレンの風俗画
(旧字新仮名)
/
ドロステ=ヒュルスホフアネッテ・フォン
(著)
薄色ねびしみどり石、
蝕
(
むしば
)
む底ぞ
被
(
おほ
)
ひたる。
海潮音
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
弛んだ倦怠の情に心を
蝕
(
むしば
)
まれている、と。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
絶えて姿を現はさず、欝々心
蝕
(
むしば
)
めて
イーリアス:03 イーリアス
(旧字旧仮名)
/
ホーマー
(著)
毛虫のように悩みは
蝕
(
むしば
)
む。
傷心
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
蝕
(
むしば
)
める
孔雀船
(旧字旧仮名)
/
伊良子清白
(著)
又郷土を捨て、都會を捨て、遂には學問をさへ捨て、あらゆる人生の意義を虚無に觀じて、自分で自分を
蝕
(
むしば
)
んでしまふ人間もある。
折々の記
(旧字旧仮名)
/
吉川英治
(著)
さて、秋成自身ふり返つて見るのに、自分の肉体には若いうちから老いが
蝕
(
むしば
)
んでゐて、思ひ切つた若さも燃えさからなかつた。
上田秋成の晩年
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
ちょうど天然の変色が、荒れ
寂
(
さ
)
びれた
斑
(
まだら
)
を作りながら石面を
蝕
(
むしば
)
んでゆくように、いつとはなく、この館を包みはじめた
狭霧
(
さぎり
)
のようなものがあった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
末娘のお信は、無口ないぢらしい娘で、その可愛らしさも淋しさに
蝕
(
むしば
)
まれて、年齡よりはふけて見える小娘でした。
銭形平次捕物控:208 青銭と鍵
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
雨や風が
蝕
(
むしば
)
んでやがて土に帰ってしまう、と言ったような趣きのある街で、
土塀
(
どべい
)
が崩れていたり家並が傾きかかっていたり——勢いのいいのは植物だけで
檸檬
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
山を
蝕
(
むしば
)
み、裾野を
被
(
おほ
)
ひ、山村を呑みつ吐きつして、前なるは這ふやうに去るかと見れば、後なるは飛ぶ如くに来りなんどする
状
(
さま
)
、観て飽くといふことを覚えず。
雲のいろ/\
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
「此の華やかな俊才の
蝕
(
むしば
)
まれた肉体は、果して何時迄もつだろうか? 今幸福そうに見える此の父親は、一人息子に先立たれる不幸を見ないで済むだろうか。」
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
ふと身体じゅうを内部から軽く
蒸
(
む
)
すような熱感が
萌
(
きざ
)
してきた。この熱感はいつでも清逸に自分の肉体が病菌によって
蝕
(
むしば
)
まれていきつつあるということを思い知らせた。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
そんな物のなかから、
蝕
(
むしば
)
んだ古い
錦絵
(
にしきえ
)
が出たり、妙な
読本
(
よみほん
)
が現われたりした。母親は叔母が嫁入り当時の結納の目録のような
汚点
(
しみ
)
だらけの紙などを拡げて眺めていた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
規律正しい武田家の、鉄砲足軽というにも似ず、足並みも揃えず伍も組まず、互いに体をくっ付け合わせ、おどおどしながら歩くのは、恐怖に
蝕
(
むしば
)
まれているからであった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
私の眼にそれが何やら年若い彼を
蝕
(
むしば
)
んでいる薄幸の暗示のように映り、胸に病いでも秘めているのではないかと、ふとそんなことを私に想像させるのだったが、そうした口のなかへ
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
遉
(
さすが
)
に、彼女の意識は疲れてしまった。不快な、重くるしい眠が、彼女のぐた/\になった頭脳を
蝕
(
むしば
)
み始めていた。
現
(
うつつ
)
ともなく夢ともないような、いやな
半睡半醒
(
はんすいはんせい
)
の状態が、暫らく続いた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
蝕
漢検準1級
部首:⾍
14画
“蝕”を含む語句
腐蝕
虫蝕
侵蝕
日蝕
月蝕
浸蝕
虫蝕本
蝕画
蝕歯
蝕鏤師
蚕蝕
蝕壊
腐蝕土
蠧蝕
部分蝕
酸蝕性
金環蝕
風蝕
虫蝕折
腐蝕期
...