薔薇色ばらいろ)” の例文
薔薇色ばらいろの、朝日の光りが、障子の破れ目から射し込んだ時、女は青い顔をして始めて、蘇生よみがえった思いがした。早速、森に行って見た。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうして今も今、彼はドロシイの白い脛に薔薇色ばらいろの血が滲み出ているのを見ているうちに、どうやらそいつを起したらしいのである。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
コゼットのぼろの着物が、人形のリボンと薔薇色ばらいろのぱっとしたモスリンとに並んで押しつけられてるのはすこぶる異様な様であった。
太陽は、いま薔薇色ばらいろの雲をわけて、小山のうえを越える所でした。小さい子供は、白い小さいベッドの中で、まだ眠ってりました。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
近頃は有頂天うちょうてん山名宗三やまなそうぞうであった。何とも云えぬ暖かい、柔かい、薔薇色ばらいろの、そしてかおりのいい空気が、彼の身辺を包んでいた。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
薔薇色ばらいろの服を着け、黒い髪の上には薔薇の冠を載せ、まるで薔薇色の蝶々ちょうちょうのように、新しい舞蹈の練習をしていたのでした。
朝日が、木の葉をとほして、射すときには、その小さなおうちは、なんともいへない、可愛らしい薔薇色ばらいろにそまつて、それはきれいに見えるのです。
虹猫と木精 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
その美しい薔薇色ばらいろほおを猫の額へ押し当て、真珠のような美しい歯を現わしてゆッたりと微笑わらッたが、そのにっこりした風はどんなにあどけなく
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
この匂は藍色あいいろ大空おおぞらと、薔薇色ばらいろの土とをて、暑き夏の造りかもせしものなれば、うつくしき果実の肉のうちには、明け行く大空の色こそ含まれたれ。
燭台しょくだいのような形にすわり、柔らかく息をしながら、しっかりくちを閉じ、眼の縁を薔薇色ばらいろにして、彼はじっと眼を据える。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
やがて日落ちて黄昏たそがれ寒き風の立つままに、二片ふたつの雲今は薔薇色ばらいろうつろいつつ、上下うえしたに吹き離され、しだいに暮るる夕空を別れ別れにたどると見しもしばし
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
主人の着故きふるしめく、茶の短い外套がいとうをはおり、はしばしを連翹色れんぎょういろに染めた、薔薇色ばらいろの頸巻をまいて、金モールの抹額もこうをつけた黒帽を眉深まぶかにかぶッていた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
緊張のあまり薔薇色ばらいろに上気して、いかにもがっしりと精力的なその姿が、ひどく好もしいものに思えるのだった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
肌理きめの細かい女のような皮膚の下から綺麗きれいな血の色が、薔薇色ばらいろに透いて見える。黒褐色の服に雪白のえり袖口そでぐち。濃いあい色の絹のマントをシックに羽織っている。
燁代さんも、つやつやした薔薇色ばらいろほおを染めて、近づいて来る槍ヶ岳洞窟を、じっと見つめるのであった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
瞬間脂汗あぶらあせが額や鼻ににじみ出た。メスをもった婦人科のドクトルは驚いて、ちょっと手をひいた。——今度は内科の院長が、薔薇色ばらいろの肉のなかへメスを入れた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
芝生しばふはしさがっている崖の上の広壮な邸園ていえん一端いったんにロマネスクの半円祠堂しどうがあって、一本一本の円柱は六月のを受けてあざやかに紫薔薇色ばらいろかげをくっきりつけ
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あられ交りの激しい驟雨しゅううが降りだして、遠くで笛が鳴った。クリストフはある村落に近づいていた。人家の薔薇色ばらいろの正面や赤い屋根などが、木の茂みの間に見えていた。
そして、遠くエストゥレルの群峰やまやまが夕陽をあびて薔薇色ばらいろに染っているのを眺めていた。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
彼女から見れば不慮の出来事と云わなければならないこの破綻はたんは、とりなおさず彼女にとって復活の曙光しょこうであった。彼女は遠い地平線の上に、薔薇色ばらいろの空を、薄明るく眺める事ができた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
硝子ガラス窓を透していながら左は浅間から右は谷川岳附近まで望まれる。苗場も見えた。ことに仙ノ倉が立派であった。昨日降った新雪が折からさし登る朝日の光に燃えて、薔薇色ばらいろに輝いた。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼を苦しめた中学の校舎はむしろ美しい薔薇色ばらいろをした薄明りの中によこたわっている。
これは暁方あけがた薔薇色ばらいろではない。南のさそりの赤い光がうつったのだ。その証拠しょうこにはまだ夜中にもならないのだ。雨さえ晴れたら出て行こう。街道の星あかりの中だ。次の町だってじきだろう。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
半刻余りも歩いた頃、遙か行く手の闇を染めて薔薇色ばらいろの光が射して来た。
十二歳のとき自分より六つ年上の少女——大きなをして薔薇色ばらいろくつをはいた——エステルに寄せた憧憬しょうけいを、五十年後の六十一歳まで忘れ兼ねて、七十歳近い老婆エステルの、しわだらけの顔から
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
……雲の後から幅のひろい緑色の光がして、空のなかばまで達している。暫くするとこの光は紫色の光が来て並ぶ。その隣には金色のが、それから薔薇色ばらいろのが。が空はやがて柔かな紫丁香ライラック色になる。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
氏は安心したし、夫人は薔薇色ばらいろの頬を輝かして夫君に抱きついた。
薔薇色ばらいろ裸形らぎやう——かなしいかな——あるなやみとこ
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
容顔のすがしさ、胸に薔薇色ばらいろの薄ぎぬはふり
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その薔薇色ばらいろっぺたの奥に
土は薔薇色ばらいろ、空には雲雀ひばり
そして朝日の光を頭に浴び、眠りの足りた薔薇色ばらいろの顔をし、心沈める老人からやさしくながめられながら、雛菊ひなぎくの花弁をむしっていた。
なんの本だか、薔薇色ばらいろの娘の方が低い声でそれを音読している。ポロシャツの娘はそれを聞きながら、ときどき他愛ない笑い声を立てる。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
止め度もなく嗚咽すすりないた後で、英国のある老政治家と少女との恋のロオマンスについて彼女特得の薔薇色ばらいろの感傷と熱情とで、あたかもぽっと出の田舎ものの老爺に
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
紅鶴フレミンゴを見に行ってやりたまえ。薔薇色ばらいろの下着のすそが泉水の水にれるのを心配して、ピンセットの上に乗って歩いている。白鳥と、その様子ぶった鉛のくび駝鳥だちょう
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
火鉢の上にさしかざしたるてのひらにぽうっと薔薇色ばらいろになりし頬を押えつ。少し吐息つきて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いそは、可愛かあい博多人形を持っていました。その人形は、黒い薔薇色ばらいろほおを持った、それはそれは可愛かあいらしい人形でありましたから、お磯はどの人形よりも可愛がっていました。
博多人形 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
空が次第に蒼味を増し、薔薇色ばらいろの光も射して来た。淡紅とき色は漸次だんだん色となり、緋色は忽ち黄金こがね色となり、四方あたり瞬く明かるむに連れて、朝もや分けて一つ一つ、山や林や高原が三人の前に現われ出た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから色白粉いろおしろいですが、青白い人は薔薇色ばらいろのを用いるのが普通であるにも拘らず、ここにある水白粉は赤ら顔に適当な緑色のものです。又花つばき香油なんていうものは、洋髪には余り使いません。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四肢は気品よく細長く、しっとりと重くて、乳白色の皮膚のところどころ、すなわち耳朶みみたぶ、すなわち頬、すなわち掌の裡、一様に薄い薔薇色ばらいろに染っていて、小さい顔は、かぐようほどに清浄であった。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わらべ薔薇色ばらいろ薄きシヤツをかきあげつる
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
影の所から出てるその薔薇色ばらいろの輝いた足が、突然アゼルマの目についた。彼女はエポニーヌに言った。「あら! 姉さん!」
そして薔薇色ばらいろ寝衣ねまきらしいものを着た、一人の若い娘が、窓の縁にじっとりかかり出した。それはお前だった。……
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
皮が生毛うぶげの下で薔薇色ばらいろを残している。どうしてわれわれがそれを苦しませたと思えよう。また、女どもが台所へ運んで行くあの血が、みんなこのからだから出たと思えよう。
大地に落ちて静まるや、岩の抜け出た大穴から、薔薇色ばらいろの火光ほのめき立ち次第次第に昇ると共に、神女か妖女か髪長くたばね、草色の衣裳身に纏い、合掌の指を固く結び、両眼を垂れて幽かに結んだ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その顔が美しく薔薇色ばらいろ火照ほてっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
四、五歳の青い目の子供が聞いた次の話が、六歳の薔薇色ばらいろの口から即席に作られたのも、この庭の芝生しばふの上においてである。
「アヴェ・マリア!……」向うの卓で薔薇色ばらいろの娘がそう甘えるような声を出した。ポロシャツの方はセロリを口に入れながら、黙ってうなずいていた。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
薔薇色ばらいろの着物を着た婦人は、ふとった子供を、黒い着物を着た婦人はせた子供を連れている。
彼はその夢想のうちにほとんど幸福であった。コゼットは彼のそばに立って、薔薇色ばらいろに染められてゆく雲をながめていた。